第1話

「おっす!充!昨日はよくやったな!」


 突然だがの俺の名前は早川充はやかわみつる。高校二年生だ。


 そして、目の前にいるのがゲー友である在原剛ありはらつよし。スティックヒューマン・オンラインを一緒にやる友達だ。


 スティックヒューマン・オンラインとは、名前の如く、棒人間を操作するMMORPGだ。最初は斬新過ぎて「なにこれ?」的な感じがゲーマー界の中で囁かれてたが、やってみると意外と面白く、グラフィックも棒人間以外は超綺麗という謎のバランスで大人気となった。


 完全レベル制。課金要素はほとんどなし、ガチャもなくて全て装備はドロップアイテム。そして運営の神さから人気を誇っている。


 課金要素と言えばちょっとしたアイテムとかバフ効果くらい?ほんと、よく運営回していられるよね、もう五年続いてるんだよ?


「やっぱあれか?ボイチャの方が効率いいの?」


「当然」


 やっぱりチャットよりボイチャよボイチャ。それにーーーー


「お、今メリィちゃんのこと考えてんな」


「んなっ!」


 在原に言われ、少しドキッ!とする。な、なぜバレた!


「お前大抵会話の時に途切れるとメリィちゃんのこと考えてるから。二年前から変わんねぇーのお前」


「ぐぬぬぬ……」


 な、なんか悔しい……。


「ま、それは一旦置いといて、今日の夜俺と一緒に琥竜の雄叫び行こうぜ」


「え、ごめん。普通に無理」


「うっわ即答……ちなみに理由は?」


「単純だろ、質の違い」


 俺とメリィちゃんは三年も前からコンビ組んでるの。分かる?歴が違うのだよ歴が。


「お前、それ遠回しに俺の事下手って言ってない?」


「え?違うの?」


「うっわぁ……すっけぇナチュラルに言われた……」


「そりゃそうだろ」


 このゲームは完全レベル制だが、プレイヤースキルも普通に影響する。今のレベルキャップは150まで。当然、俺とメリィちゃんは150に到達しているが、こいつはまだ120。


 琥竜の雄叫びクエストの適正レベルは110越えだが、まだ足りない。


「150になって出直してきな」


「こんの廃人めぇ………」


 褒め言葉にしかならないな。




 昼休み、在原と一緒にスティックヒューマン・オンラインのホームページに昼に上げられる、昨日のMVSの動画を見ていた。ちなみに、モスト・ヴァリアブル・スティックヒューマンの略な。


「お、やっぱり載ってた」


 在原がスマホを眺めて呟く。動画内では、俺の棒人間とメリィちゃんが戦っているシーンだ。


 ほう……主観で見るとわからんけど、別視点で見るとなかなか違う事が分かるのな。あ、ここもうちょい早く攻撃できたな。


「うっわ気持ち悪……何この完璧な連携…」


「そりゃあボイチャしてるし……あ、ここ違う魔法でも良かったな……」


「え、なにおまえ……まだ研究すんの?」


「当然」


 あ、メリィちゃんからL○NE来た。やっぱりそうだよな、あそこもうちょい連携詰めれたよね。


『今日また行って確認する?』


『するー!』


 ふっ、可愛い……。


「……いや、流石としか言いようがないわ。流石『双棒』だな」


「……やっぱダサくない?その二つ名」


 双棒。俺とメリィちゃんがコンビでクエストをしている内にいつの間にか着いていた二つ名。ボイチャによるほぼ完璧な連携と、タンカーとアタッカーによる完璧なローテーションの組み方。呼ばれ始めたのは1年半前くらいかな。


 今でもダサいと思ってる。メリィちゃんも引いてた。


 だって………ねぇ?双棒ってなによ双棒って。トッププレイヤーのハナミさんは『明鏡』っていうカッコイイ名前があるのに……。当時は二人揃ってガチ凹みである。二日間くらい慰めあってた。


 約25分に渡る最後のボス戦の動画を見終わった。コメントも『すげー!連携神!』とか『うますぎ謙信』とか様々なコメントが送られてきている。俺のツイッテーの方もやばい事になってる。通知とまらん。多分メリィちゃんの方はもっとやばいんだろうなぁ。


「とりあえず、俺には無理だわ。この高難易度クエ。大人しく『覇龍の根源』クエ行ってくる」


「おう頑張れ、そこなら手伝ってやるから」


「サンキュー。じゃ、今夜ーーー」


「あ、今夜はさっきメリィちゃんともう一回琥竜の雄叫び行くから無理」


「………えぇ?」


 お前まじぃ?みたいな目で見られる。


「いやだって、あそこまじドロップいいのよ。最高難易度だから強力武器ポンポンでるし、レアアイテムとかもでるよ?」


「…………………」


「おい、なんだその目は。ホントなんだって!だって合成専用アイテムのエリクサーに必要な霊薬とか、アルビノエキスとか沢山でてーーー」


「…………………」


 結局、昼休み終わるまでなんか可哀想なやつを見る目は変わらなかった。げせぬ。





「……ってことがあってさ」


「あはは……みぃくんの収集癖は私もついていけないかなぁ……」


「え、うそん」


「だってみぃくんくらいだよ?エリクサー50個も持ってるの。明鏡さんだってエリクサー30個しか持ってないのに………」


 ええー?だって楽しくない?収集。


 その日の攻略は失敗した。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

エリクサー

HP、MP、状態異常を完全回復する、スティックヒューマン・オンラインでの最強の回復アイテム。普通のポーションはタイムラグがあるが、エリクサーには存在しない。5本以上持っておけば初心者脱出と言われている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る