声しか知らない嫁さんと本当に付き合ってしまう

結月アオバ

声しか知らないお嫁さん

プロローグ

「メリィちゃん右から!」


「はい!」


 でっかい恐竜が今にも貧相で直ぐにポッキリと折れそうなの体に尻尾の攻撃がいく。


 だが、ギリギリまで引き付けてしっかりとその手(持ってるかは分からない)にあるタワーシールドでしっかりとジャストガードし、尻尾が弾き飛ばされる。


「みぃくん!」


「了解!」


 耳に着けているヘッドホンから相棒の声が響き、それに応える。コマンドを入力し、奥義を発動。棒人間のくせにカットイン入りの攻撃魔法が恐竜へ襲い掛かり、残り二割だったHPバーが消え去った。


 恐竜がポリゴン状に砕け散り、ボスがいた場所には『congratulations!』の文字が現れた。


「……やっっったぁ!」


 耳で相棒が喜ぶ声が聞こえた。俺も例外ではなく、ついつい「しゃあああ!」と言ってガッツポーズしてしまった。


「二人限定最高難易度クエスト『琥竜の雄叫び』史上初クリアだよ!みぃくん!」


「あぁ!本当に…………」


 ぬぅわぁぁぁ………と言って力なくイスにもたれ掛かる。脱力しすぎてずり落ちた。


 パソコンの画面には経験値や取得金額、ドロップアイテム等が表示され、椅子に座り直してログ画面を消した。画面では二人の棒人間がハイタッチをしていた。


「お疲れ様、メリィちゃん」


「うん、みぃくんもお疲れ様でした!」


 その言葉を皮切りにキャラが自動転移し、街に戻ってきた。すると、途端にチャットログに流れてくる『おめでとう!』と俺達を祝福するたくさんのプレイヤー達。


『ありがとう!』というコメントをチャットではなく、吹き出し状にしてからお礼を告げる。


「わわっ……皆すごい早い……」


「実装されてから1ヶ月たったのにまだ誰もクリア出来てないからな。常にコンビで動いていた俺たちでさえ20回の試行回数だ」


 ギミック、敵キャラの強さ、攻撃パターンや連携など、ある程度コンビプレーに慣れていないとクリア不可の超絶ダンジョン。三年前からずっとコンビの俺たちでさえ、20回も掛かったのだ。


 一通りチャットが落ち着いてから、プレイヤーホームへと転移。


 それをしてから机にドカッ!ともたれた。多分耳元でもドカッ!と聞こえたから向こうもそんな感じ。


「いやぁ……疲れたねぇ」


「うん……今日はもう何もやる気起きないや」


 もうね、手汗がすんごい。後でコントローラーウエットティッシュで拭いておかなきゃ。


「それじゃあ今日はもうログアウト落ちる?」


「そうだなぁ……うん、もう精神力ないから落ちるよ」


「りょうかい!」


 耳元で可愛い声で返事したメリィちゃんがキャラのエモートでバイバイ!と手を振ってから消えた。棒人間なのになんで可愛いんだ。


 メリィちゃんがログアウトしてから俺もログアウトする。メニューボタンからログアウトを選択すると、see you play againという文字が出てきてから、タイトル画面に戻った。


「……あー」


 ヘッドホンを置いてからベッドになだれ込み、スマホを開いてからツイッテーというSNSアプリを開く。


「……あ、もうメリィちゃんが勝利報告してる」


 既に『みぃくんと琥竜の雄叫び攻略!!すごい疲れた!』というツイートが流れてきて、すごい勢いでいいよ!が量産されていく。


 俺の方でもツイート……っとよしOK。


 パッと表示されると、直ぐにメリィちゃんがいいよ!を押してくれて、直ぐにいいよ!が量産され、おめでとう!という返信もたくさん来た。


 それを確認して俺は、目を閉じた。


 うん、今日はもう寝よう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る