お住まいの国と地域では聖剣をご利用いただけません!

ちびまるフォイ

誰も救われない差別

「ついにたどり着いたぞ!

 伝説の武器屋があるこの街に!!」


自分の国から遠く離れたこの異国までたどり着くのに

どれだけの犠牲と日にちを使ったのかわからない。


それだけの苦労を負ってでも足を止めなかったのは

ひとえに伝説の武器屋に売っているという聖剣マクスカリバーを買うためだった。


街には絢爛豪華な建物が立ち並び、

目移りするような美女が歩くのには目もくれず。


一目散に武器屋さんを目指した。


「あった! あれだ!! あの武器屋だ!!」


「いらっしゃいませ。何をお探しですか?」


「聖剣マクスカリバーをくれ!

 ここで買えるんだよな!」


「ええ。こちらがその商品となります」


「おお……! 噂に違わぬ輝きだ……!」


刀身は銀色に輝いている。

持つだけで魔力が満ちている。

その上、穢れた水に浸けると水素水にしてくれるという。


「これください! いくらですか!?」




「Sorry! この武器はお住まいの国と地域ではご利用いただけません」



「……は?」


「Sorry! この武器はお住まいの国と地域ではご利用いただけません」


「待って待って! なんで!? どうして!?」


「どうしてと言われましても……」


「え?」

「ん?」


「いやこれ俺が悪いの?

 ここにあるんだから売ってくれてもいいじゃないか。

 これがないと冒険もできないんだよ!?」


「そう言われましても、お客様の出身は"ハジマリの国"でしょう」


「そうだけど」

「じゃあ売れません」

「なんで!?」


「うちの店の方針としてハジマリの国出身の人には売れないんです。

 半里離れたところにある"ツギノマチ国"には売れるんですけどね」


「その差別をしてあんたになんのメリットがあるんだよ!?」


「……さぁ?」

「じゃあ売れよ!!」


「ええ……?」


「なんでめんどくさい客が来たなぁ、みたいな空気出してるんだ!

 別に割り引いてくれとか言ってるんじゃないんだぞ!?

 ちゃんと金は出す! むしろ、多めに出すつもりだよ!?」


「しかしねぇ、ハジマリの国出身でしょう?」


「だから! それが何だって言うんだよ!!」


「先代のときからこのルールでやってるんですよ。

 これに納得いただけないならお引取りください」


「んなっ……!」


冒険者が何度も叫ぶものだから町の人も集まりだしている。

はためには「無茶なクレームをつける客」として見られていることだろう。


「わかったよ! 出身が変わればいいんだな!!」


冒険者はもう戻るつもりのなかった故郷へと一度帰った。

戻るやすぐに国王へとりつげとわがままを通した。


「冒険者よ。魔王を討伐できたのか? その報告か?」


「いえ王様。魔王はいぜんとして健在です」


「え? じゃあなんで戻ってきたの?

 こんなとこで油売ってないで、さっさと戦えよ」


「国王に折り入ってご相談がございます」

「相談?」


「私の出身国を変えてほしいのです!!」


「……ん? 言ってる意味がよくわからない」


「武器を買うのに、この国出身では買えんのです!!」


「え? え? やだよぉ~~それはやだよぉ。

 だってさ、この国出身の冒険者が世界救うからばってきしたんじゃん。

 それをさぁ、出身変えられたら嫌じゃん。無理だよぉ。

 こっちだってさ、お前が世界救ったら聖地巡礼されると思って

 いろいろ交通整備してたんだよ? そこわかってる?」


「しかし!! あの武器がなければ世界を救うことなんてできません!」


「最悪それでもいいよぉ。他の出身にしてこの国に人が来なくなるくらいなら、いっそ救わなくてもいいよ」


「あなたはそれでも王ですか!?」

「お前こそ、この国の冒険者か!」


そこに賢い秘書が手を上げた。


「思ったのですが……一時的に国籍を変えればいいのでは?」


「一時的?」


「武器を買うのに出身を一時的に変えた後、

 またここに戻って出身を戻せば、お互いに損はないでしょう」


「なるほど! さすがワシの秘書だ!!」


「ええ……? また戻るのぉ……?」


ガスの元栓締めたかどうかで家に戻るのとは規模が違う。

険しく厳しい道のりを武器を買うために出身を戻すために往復するなんて。


しかし、そうでもしないと出身を変えてもらえない。


「……わかりました。では武器を買った後にまた出身をこの国とするために戻ります」


「よかろう。待っておるぞ。裏切らないように

 お前の仲間のせれぬんてぃうぬを拘束しておくからな」


そして冒険者はふたたび旅へ出た。


今にも傷ついて倒れそうになりながらも、

伝説の武器マクスカリバーを手に入れるためだけに必死だった。


多くの血を流しボロボロになりながら再び武器屋へと到着した。


「いらっしゃ……おや、あなたは前に……」


「挨拶はいい! 余計な会話もいらない!

 俺はこの武器! マクスカリバーを買うためだけに来たんだ!」


「Sorry! この武器はお住まいの国と地域ではご利用いただけないんですよ」


「よく見ろこのバカ店主」


「こっ、これは! 別の出身になっている!?」


「そうとも! 俺の出身はすでにツギノマチ国だ!

 これでもう買えないと言わせないぞ!!」


「た……たしかに、これなら文句はございません」


「やった! これでついにマクスカリバーが俺の手に!!」


冒険者はテーブルに金貨を叩きつけた。






「Sorry! この通貨はご利用いただけません!」

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