Free Tame Online 〜スライムと共に歩む生産道〜

双葉鳴🐟

調薬者としての道

第1話 チーム離脱/生産への道

 仕事を理由にこれからログインが厳しくなる旨を、冒険を共にしていたチームメイトへと打ち明ける。


 チームリーダーのイカルガは、口をへの字に結んで明らかに不満気だ。

 紅一点であるフローリアはリアル事情じゃ仕方ないわよとイカルガを窘めている。

 僕としても、可能ならこのチームで先に進みたいと願いたいところだが、所詮ここはゲーム世界。


 リアルがあってこその息抜きに、リアルをないがしろにすることは出来ない問題があった。


「それでライト君は私達のチームから抜けた後、どうやって遊ぶつもり? 不定期になるってことは周りから置いていかれる事になるけど……」


「それならいくつか候補がある」


 フローリアからの質問に、僕は前もって準備していた提案をいくつか持ち出す。


「まずは相棒のホークと共に、このままのんびりと活動を続けていくプランだ」


 ふむ、とイカルガは相槌をうつ。


「しかし誰よりもホーク思いのお前が、その周囲から置いていかれる現状を我慢できるのか? 

 ホークと共に頂上てっぺんを取ると息巻いていたお前が?」


 イカルガの指摘に僕はぐぅと言葉を詰まらせる。『ホーク思い』その言葉を出されると僕は弱かった。


 相棒のホークは空の騎士として空という環境で誰よりも自由に羽ばたいてきたモンスターである。

 僕はその姿に憧れ、武を競い合い、そして契約を結びつけた。

 その日から、友として共に同じ道を歩もうと頂を目指して。


 ホークとは空の王者だ。僕はそう思っているし、ホークもまたそう思っているだろう。

 彼は自由の象徴。その彼を僕の理由で縛り付ける事になるのは、確かにテイマーとして看過できない。だけど、今の僕にはホークと別れてまでもしたいことなんてない。これは仕方ない事なんだ。

 もう一つ用意したプランだって、あまり現実的ではないし……


「他のプランは?」


「冒険家業から綺麗さっぱり足を洗って、生産に切り替わるプランだ。これなら置いていかれても、あまり腹も立たない。ホークには今以上に世話をかけると思うが、あくまで食いつないで行くための策だな」


「それなら確かに……でもそれも行き着く先は同じだぞ? いいや、ホークと共にいる限り、お前は絶対にその道を選んだことを後悔するだろう」


 フローリアからの呼びかけに、僕はあくまでプランの一つを切る。しかしそれもイカルガにバッサリと切られてしまった。

 さっきから容赦がないのは僕にやめて欲しくないからだと思いたい。

 いや、こいつはチームメンバーの募集時からこういうやつだったな。


「……じゃあ、どうしろっていうんだ。僕だって好きでこんなプランを立てているわけじゃない。本当ならこのまま冒険家業を続けていきたいのが本音だ。でも現実が、それを許してくれない」


「そんな会社辞めてしまえ」


「それができたら苦労しない。この就職氷河期に漸く入社出来た会社なんだ。例え経営姿勢がブラックであろうとも、入社して3年目でドロップアウトしようもんなら次の会社の面接で絶対にその理由を指摘される。それに辞めた理由がゲームだなんて知られてみろ。それこそ不採用通知が山と送られてくる始末だ。そんな現状で会社を辞めろ? アホかお前は!」


「イカルガ、みんながみんな貴方と同じ境遇ではないのよ、ライト君の立場も考えてあげて」


「だが……」


「お前と違って僕は毎日自由じゃないんだよ!」



 そう、これが僕がこのチームに残れない主な理由に上がる。

 1日が6倍に引き延ばされる世界で、僕のログインは6日目[20:00〜24:00]に限定される。


 イカルガ達は6日で1週間と数えるうち、3〜4日はログイン出来る環境の人たち。


 ただでさえ置いていかれ気味のレベルや装備。

 それがさらに酷くなる。

 7週を一カ月と数えるこの世界では、現実で一週間ログイン出来ないだけで42日間の遅れをとることを意味する。正直、それほどの遅れは致命的と言って過言ではない。



「ならばどうするつもりだ?」


「だから僕は生産にかけている。ポーションだ。それの生産者になって縁の下からお前らをサポートし続ける。それも戦いだろ?」


「ポーション。どうしてポーションなんだ、ポーション嫌いのお前が。ライト、考え直すなら今のうちだ。調薬だけはやめておけ。あれは運営が金儲けの為に作った不遇クラフト職だ。他ゲームの常識なんて一切通じない魔窟だぞ。何もそんなところへお前が行く必要なんてないじゃないか」


「だからこそだよ、イカルガ。僕はあの臭くて苦くてどうしようもないポーションを、もっと飲みやすくして普及させたいと日々思っていた。いや、全プレイヤーがそれを待ち望んでいることだろう。誰かがやると思って待っていても、現状それを実行に移せた奴はいない。その一番に僕がなる。どうだ、悪くないプランだろ?」


「悪くはないが……素人のお前にどうにか出来るとでも? 検証班だってその手の専門知識を持ち合わせた各ゲームのプロフェッショナルが招集されて、日々検証し続けている。それでも答えの出ないその場所に、お前が入り込む余地なんてあると思うか?」


「実際大変だってことは分かってるよ。それでも周囲に置いていかれる現状を忘れられるくらいに打ち込める場所が僕には必要だと思うから」


「そうか……お前が決めた事なら俺からは何も言えん。フローリアもそれでいいか?」


「私は最初からライト君のしたいようにさせてあげるつもりよ。頑張ってね、ライト君。陰ながら応援してるわ」


「ありがとうフローリア。それとイカルガも。本当はもっと早く打診すべきだったことを、今まで引き伸ばして済まなかった」


「いいや。俺も同じ立場だったら、多分言い切れないまま当日まで引き伸ばしていたことだろう」


「そうね、この人もライト君と一緒で頑固だから」


「「誰が頑固だって!?」」


「ほら、息もぴったりじゃない」



 クスクスと笑うフローリア。僕とイカルガはそんな彼女から視線をそらすように目を合わせ、互いに苦笑いをした。



「じゃあな、物が出来たら連絡するから」


 そう言ってチームメンバーから外れる。

 二人とも僕の生産を陰ながら応援してくれると言ってくれた。

 不安がないとは言い切れないが、僕の歩みは軽やかだった。


 新しい第一歩。


 ポーション。

 それは回復アイテムとしてはあまりにも有名な薬品の総称である。


 ポーション。

 その味は不味いの一言で済ませられるものではない。よほどの苦味とエグミががつきまとう。


 ポーション。

 別に調薬のクラフトスキルが無くても作れるアイテムではあるが、調薬スキルで作ると成功率に補正がかかるので、それを売って暮らしていくならクラフトスキルは必須と言えた。


 早速雑貨屋でポーションの製作に必要な素材を取り揃える。


 ……


 ……


 ……


 20,000Gが懐から飛び去り、ストレージにいくつかの専用器具が放り込まれた。


「なになに? ポーションを作るためには薬草と清水が必要です。それを手に入れましょう」


 入手場所は第一の街を起点に西の森と南の岩場であることが判明する。


 早速取りに行き、そして僕は初めてポーション作りの洗礼を受けた。

 その結果がこれだ。


<採取を失敗しました>


<採取を失敗しました>


<採取を失敗しました>


<採取を失敗しました>


<採取を失敗しました>


<採取を失敗しました>


<採取を失敗しました>


<薬草:低品質を入手しました>


<採取を失敗しました>


<採取を失敗しました>


<採取を失敗しました>


<薬草:低品質を入手しました>


<薬草:低品質を入手しました>


<薬草:低品質を入手しました>


 ちなみに薬草の他に必須とも言える素材である清水の判定は薬草より渋かったことをお伝えしておこう。


 僕のポーション作りは前のめりにつまづく形でスタートした。

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