第60話 文化祭準備1


 2学期のメインイベントは文化祭だ。麗華はどのサークルにも属していないためクラス単位での文化祭行事に参加することになる。とは言えもとよりそういった行事には興味はなかったため、昨年、1年生の時は傍観者に徹する以前に終業少し前には教室から出ていた関係で自分のクラスでどのような催しが行わたのかさえ麗華は知らなかった。


 その日、麗華のクラスでは最後の授業を潰して、文化祭の出し物を決めることになった。担任の教師は、後は任せたと、教室を出ていってしまった。



 黒板には『メイド喫茶』『お好み焼屋』『お化け屋敷』の3つが並んでいた。『お化け屋敷』の上にバツ印が付いているので今回が『メイド喫茶』と『お好み焼屋』での決選投票なのだろう。


「……、それでは最後の決を採ります。『メイド喫茶』に賛成の人、手を上げて」


 たしかクラス委員の山田さん(仮)が黒板の前で司会をしている。


 麗華はそろそろ下校しようと思って『ロドネア戦記』の最終巻である第9巻を閉じてカバンに入れたところだ。いちおう現在はホームルームでクラスの文化祭の出し物を決めているということは理解している。


 文化祭など興味はないが『メイド喫茶』という言葉に少し興味を持った。麗華からすれば、自宅の女性使用人は執事見習の田宮を除いてメイドのようなものだ。日に数回は彼女たちにお茶を淹れてもらっている。おいしいかと言えばおいしいと答えられるが、楽しいかと聞かれれば『?』である。そんなことを考えながら黒板を見ていたら、『メイド喫茶』の上に山田さん(仮)の手で大きな○が書かれてしまった。


「それでは、当クラスの文化祭委員を選出します。われもという方は手を上げてください」


 誰も手を上げなかった。麗華はこういった消極的な態度は非社会的であり、望ましくないと常々思っている。ということで、


「誰もいないようなら、わたしが文化祭委員に立候補します」と、手を上げてしまった。


 これにはクラス全員が驚いたようだが、もちろん異議のある者などいないので、山田さん(仮)は他のクラスメイトに確認することなく、


「それでは、法蔵院さん、文化祭委員、よろしくお願いします」と、麗華に頼んだ。


「分かりました。それで、文化祭委員はどんな仕事をするのですか?」


「基本的には文化祭実行委員会という委員会に属し、そこで決まったことをクラスに伝達します。後はクラスのみんなに仕事を割り振って実際に文化祭のだし物を作り上げていく責任者になります」


「分かりました」


 意外と面倒そうな仕事だが、麗華は実際のビジネスで同じようなことをしている関係で、そういった仕事には慣れている。麗華はスタスタと教室の一番前まで歩いていった。


 クラスの中には他のサークルに属している者も結構いるので、まず兵隊の数を確認する必要がある。その後は個々の仕事のアサインと、仕事に必要な物資の供給だ。


 作業の進捗を、文化祭予定日前日に100パーセントとしてそこから手前に割り戻していけば、計画だけは立てられる。途中進捗に乱れがあれば随時修正していくだけだ。


「それでは、このクラスで他のサークルに所属しているためクラスの文化祭の準備ができない人はこのまま帰ってください」


 麗華のクラスの生徒たちの保護者は全員法蔵院グループ各社に所属している。法蔵院グループ次期総裁である麗華からそう言われてしまうと、なかなか自分はクラスの文化祭準備はできないと言い出せない。


「予想に反して全員クラスの文化祭に参加できるようで何よりです。

 まずは会計係。クラス委員の山田(仮)さん、お願いします。

 今後見直しはありますが、そこのあなたからあなたまで、装飾、内装班。そこのあなたからあなたまで、調達班、あなたからあなたまで、衣装班、そして残った人は宣伝、広告班。

 文化祭当日についての人のアサインはまた後日」


 全員何も言えないまま麗華によってアサインされてしまった。


「本格的な作業はまだ進めることはできませんが、各自自分の班がなすべきことをイメージしていてください。

 みなさんには進捗報告を行ってもらうため明日からの放課後5分ほど教室に残っていてください。わたしからはそのとき特別何かあれば指示、報告します。

 それでは今日はここまで」


 麗華は勝手にホームルームを取り仕切って勝手に終わらせてしまった。もちろん麗華はそのまま自席に戻り、代田を伴って教室から出て行ってしまった。


 麗華は通常ならそのまま帰宅するのだが、今日は代田を伴い職員室に向かった。職員室で担任教師を捉まえ、文化祭実行委員会の詳細を確認するためである。いくら麗華のクラスが張り切ろうとも、予算の問題もあり、実行委員会がしっかりしていなくては勝手には先に進めない。


「明日の放課後、最初のミーティングがあるのですね。場所は生徒会室。わかりました。それでは失礼します」




 翌日、クラス内での報告会は明日からにするので、今日中に各班の代表を決めるようにとクラスメイトに告げた麗華は、放課後、文化祭実行委員会に出席するため生徒会室に赴いた。


 生徒会室では長テーブルが置かれて椅子が並べられていたので、麗華は窓際の席に適当に座ってミーティングが始まるのを待った。もちろん代田は麗華の後ろに立って控えている。


 麗華が最初に生徒会室に入ったのだが、5分もしないうちにほとんどの文化祭委員が集まったようだ。司会は文化祭実行委員会の実行委員長である3年生の女子生徒だった。


「これで、全員のようね。

 そこのあなたは?」


 実行委員長がいかにもという感じで執事服を着て麗華の後ろに立つ代田に尋ねた。


「法蔵院麗華さまの執事を務めております代田と申します。以後お見知りおきを」


 そう言ってある種カッコよく頭を下げた。


 実行委員長は幾分頬を赤らめ、


「ご丁寧にどうも」


 彼女はそれ以上は何も言わず、委員会を始めた。


「それでは1回目の文化祭実行委員会を開きます。

 各クラス、サークルで出し物は既に決まっていると思いますが、まだ決まっていないところはありますか?」


 実行委員長の確認に誰も何も言わなかったので、続いて注意事項の説明が行われた。


「禁止事項ですが、校舎内へのガス器具、エンジン発電機等の持ち込みは禁止します。火を使う調理などは校舎外で行ってください。

 次に教室内での電気器具の使用ですが10キロワット以下を目安にしてください。ちなみに電気ポットで0.7キロワット程度です。

 常識と節度を忘れないようお願いします」


 注意事項の後、


「学校よりクラスに対して文化祭予算が2万円支給されます。領収書はとっておいてください。領収書総額が2万円未満の場合は残金は徴収されますので注意してください」


 2万円の言葉に、麗華と代田を除く出席者は小さく手を叩いたり嬉しそうな顔をしていた。


「サークルに対する予算は5千円になります。こちらも領収書の扱いは同じです」


 サークルの代表らしき生徒たちはその言葉で下を向いたり不満そうな顔をしていたが、サークルと言っても大小さまざまだしそこは仕方ないのだろう。その代り、クラスの文化祭費用2万円で何ができるのか正直なところ麗華には想像できなかった。


 実際は昨年度も各クラスには2万円が支給されてその中で文化祭が行われたのだが、麗華は昨年度、文化祭に対してノータッチだったため、その辺りの相場感覚はない。


「実行委員長!」


 麗華は手を上げて実行委員長に疑問を質問することにした。


「予算を超過した場合は、生徒の自腹ということでしょうか?」


「そう言うことになります」


「了解しました」


 生徒の負担になるということは、裏を返せば生徒じぶんが負担してもいいということだ。


 麗華は、学校内でメイド喫茶を開業する・・・・にあたり、今回は場所ふどうさんかんれんひようだけは不要なので、開業・・準備資金として1千万も用意すれば十分だろうと当たりをつけた。



 

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