第55話 テロ3
代田が床から薄目を開けてロビーを観察していたら、3人いた迷彩服男の最後の一人が小銃を構えて近づいてきた。ただ、麗華はその男を最後の一人
麗華は作戦通り、通路に面した店舗のまだ枠から落ちずに残っていたガラスを靴で蹴り飛ばして、ガシャーンと大きな音をたて、すぐさまその先の店の中に隠れた。
3人目の男は、音のした通路の中に入ってきた。
男はゆっくりと小銃を構えて前方と
そこで代田が音もたてずに起き上がり、通り過ぎた男の頸動脈を後ろから締め落としてしまった。代田は男から小銃を取り上げ、ゆっくり男を床に座らせ、迷彩服を脱がせて前後を逆さまにして袖を背中側で結んでしまった。
その気配を察した麗華が壊したガラス枠をまたいで代田の元に駆け寄り、
「やったわね!」
「これで最後だといいんですが」と男を床に寝かせながら代田が答えた。
「えっ? まだ敵はいるの?」
「分かりません」
「でも今度は小銃があるわ」
「お嬢さま、小銃は扱えますか?」
「? わたしが扱えるわけないじゃない。まさか代田も?」
「もちろん扱えません。こんなことなら自衛隊に体術の講師として招かれていたころ扱いを習っておくのでした」
「今さら仕方ないわよ。今の男で最後だったかロビーに戻って確かめましょう」
「ですな」
「まだいるかもしれないから、コッソリね」
「はい、お嬢さま」
二人は中腰になって通路をロビーに向かっていき、ロビーとの境界近くまでやってきたところで、首を上げてロビーの中を見渡した。
4人目がいた!
運の悪いことに麗華はその男と目が合ってしまった。
麗華たちを見つけた4人目の男ももちろん小銃を持っており、小銃を発砲しようと構えたが、麗華と代田がとっさに斜め後ろに移動し男の視界から外れたことで、発砲しなかった。その代り、麗華たちの居る通路に小銃を構えて向かってきた。先ほどの男と違い、
見つかれば小銃の餌食になるので、遮蔽物のないところに立つ麗華はしばらく奥の方に進み電気の消えた店舗の中に跳び込んだ。その店は全国チェーンのファミレスだった。代田の方は麗華の飛び込んだファミレスの向かい側の店舗の中に飛び込んだ。
麗華が飛び込んだ先のファミレスでは数人の客らしき者がいたが、どこかを負傷しているようで、床の上でじっとしている。こういった場合は動き回らず助けを待つ方が賢明なのでいい判断と思う。
その負傷者たちに救急箱から包帯やテープを取り出して簡単な治療をしている男がいた。
振り向いた男の顔をよく見ると偶然にも爺咲花太郎だ。花太郎の顎はなぜか赤く腫れていた。先ほどの爆発の衝撃で顎をどこかにぶつけたのだろう。見たところ、それ以外に異常はないようだ。
『あら、爺咲くんじゃない。久しぶり』小さな声で挨拶する麗華。
花太郎も急に目の前に現れた人物が麗華だったことに驚き、小さな声で、
『法蔵院さん!』
『妙なところで会ったわね。いまテロリストらしい男が小銃を構えてこっちに向かってきてるから、隠れていないと危ないわよ。それはそうとそのアゴ結構腫れているけれど大丈夫?』
『まだかなり痛いですが、たぶん骨には異常ないと思います。
あの爆発はテロだったんですか?』
『今のところテロとは断定できないけれど、多分そうなんでしょう』
『この前も学校で武装した男たちに襲われたけど、テロに縁があるのかなー』
『そんなわけないじゃない。
来たわよ』
硬い靴、おそらくミリタリーシューズで、通路に散らばった瓦礫を踏み砕く音が麗華たちの潜むファミレスに近づいてきた。通路に転がっている仲間のことは放っておいてこっちに向かってくるようだ。
ファミレスのカウンターの後ろにしゃがみ込み、息を潜めて男が通り過ぎるのを待つ麗華と花太郎。他の客たちも声を立てずじっとしている。
カウンター席の後ろに隠れているためもちろん麗華からは見えないが、音から察すると、男は代田の隠れた店舗の中に入っていったようだ。
麗華はカウンターからゆっくり頭をのぞかせ外の様子を探る。
麗華は花太郎にじっとしているように言って、音を立てないようファミレスから出ていった。
男の後ろから迫り、あわよくば後頭部を殴りつけて倒してしまうつもりである。
『モップでもあればよかったけど何か得物が欲しいわね。転がっているのは建材の破片だけだし何かないかな? こういうときにびっくりクッキーがあれば投げつけることができたのに。持ってくればよかった』
地下1階で荷物番をしていた無想琴音だが、なかなか麗華たちが戻ってこないので少し不安になってきた。上の階からは、鉄砲の発砲音のようなものが聞こえてくる。ただ、琴音はこれまで鉄砲の音など実際に聞いたことは一度もないのでその音が本当に発砲音なのかはわからない。
様子を見にいきたかったが、荷物を置いていくわけにもいかないので、琴音は止まったエスカレーターを3往復して3人分の荷物を上の階に運んだ。
エレベーターを上がった上の階は照明が消えて薄暗い。床には天井から落ちて来たような建材の破片などが散らばっている。
琴音は麗華を探したが、当たり前だがどこにいるのか分からない。キョロキョロしていたらトイレに行きたくなってきたので、その辺に投げ捨てられていたカートの上に3人分の荷物を乗せてトイレを探すことにした。
ちょうどレストランや喫茶店が左右に並んだ通路が目に入ったので、トイレはそっちに違いない、と、琴音はカートを押してその通路に向かっていった。通路の入り口脇にはちゃんとトイレがその先にあることを示す矢印マークが貼られていたので安心して通路の中に入っていった。
[あとがき]
宣伝:
『魔術帝国、廃棄令嬢物語』よろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます