第53話 シフト交代、テロ
一方こちらは
夏休み入りした花太郎は、バイト先のファミレスの店長に、系列店の応援に来週から入るように依頼されてしまった。応援は一週間で、その間のバイト料は自給500円アップなうえ交通費向こう持ちと非常に割のいい話だったので、その話を受けることとした。剣道部の方は最近非常に機嫌のよい顧問の六道あやめに事情を説明し了承を得ることができた。
今日はその応援の初日。9時半から午後4時までの6時間のシフト(途中30分休憩)のため、9時に指定された羽田空港内のファミレスに到着した。前日、店長から直々に黒ぶちの
店長に案内されたロッカールームで着替えを終わり、一応の店内配置などの説明を受けた花太郎はそのままホール係として仕事を開始した。仕事内容は今までと変わらないため業務遂行に支障を来すことはない。
という訳で、無難に業務をこなしながら、途中休憩も挟み、時間が過ぎていった。今の時刻は午後3時10分前。
ピンポーン。「いらっしゃいませ」
若い男女の二人連れが入店して来た。
「お二人様ですね。それでしたらこちらのお席へどうぞ」
二人連れを空いたテーブルに案内して注文を聞く。
妙にくっ付いてメニューを眺める二人。何がおかしいのかくすくす笑っている。
別に他人が何をしていようとも、人に迷惑をかけていないのならば気にならない。じっと注文も待つが、それでも決まらない。そのうち入り口が開きチャイムが鳴った。
ピンポーン。
「注文がお決まりななりましたら、このベルの上のボタンを押してください。すぐに参ります」
次に入店してきたのは、迷彩柄の上下を着た30歳前後の短髪、黒いサングラスをした男で、左手にやや大きめの黒いケース型のカバンを下げていた。右手はズボンのポケットに入れたままだ。体は筋肉質であることが迷彩服の上からでもよくわかる。
「お一人さま、ご案内します。こちらにどうぞ」
二人席に案内したところ、
「ホット」
そう一言。
「ホット
すぐに先ほどのカップルの席からベルが鳴ったので、そちらに急ぐ。
「これと、これと、これ、あと、これかな」
「……、ご注文は以上ですね」
注文を復唱して、キッチンに伝えに戻る花太郎。
コーヒーをカップに入れて、皿に乗せ、砂糖、ミルク、ティースプーンを添えて先ほどのミリタリー男のテーブルまで運ぶ。
「ご注文は以上ですね」
男は何も言わず、座っているだけで、コーヒーに手を付けず、腕時計をチラ見したと思ったら、黒いカバンを持って化粧室のある店の奥の方に向かっていった。
客足が途絶え、花太郎はドアの前で待機姿勢を取っている。ふと、花太郎が店の掛け時計を見上げると、長針と秒針がちょうど12を指すところで、時刻は午後3時ちょうどになった。
先に振動が床を伝わり、花太郎の足元を揺らし、やや遅れて、
ドッガーーン!
轟音とともに衝撃波を伴った突風が吹き、ファミリーレストランの通路に面した全面ガラスが粉々に砕けて飛び散り店内はめちゃくちゃになった。天井の建材なども一部外れて落っこちたりした個所もある。むろん店内の照明も壊れてしまって、薄暗い店内には粉塵が舞っている。
最初の爆発の後、ほとんど間をおかず、数回の爆発音が轟き、そのたびに天井から建材や砂のようなホコリが落ちてきた。
花太郎の立っていた場所の正面は幸い壁だったため、ガラスの破片を浴びることはなかったが、後ろのレジカンターに体がたたきつけられた。思いっきり背中を打ち付けたため初めのうちは息ができなかったが、すぐに回復した。体を確認したのだが、どこも骨折はしていないようだし、切れて出血したところはないようだ。
花太郎が何とか起き上がり店内を見渡すと、いたるところで人が床に倒れてうめき声をあげている。幸い、何かの下敷きになっているような者はいないようだ。
近くのうめき声の方に向かってみると、女性が床の上で、血を流してうめいていた。手首をケガしているようで、そこから出血している。顔にも切り傷があるようで、ガラスの破片を浴びたようだ。幸い命には別条ないようだが、かなり痛そうではある。
手ぶらでは何もできないので、すぐに救急箱が備え付けられているはずのロッカールームに向かったところ、入れ違いのように奥の方から、先ほどトイレに立ったかに見えたサングラスに迷彩服の男がゴツイ小銃を構えてこちらに向かって来るところに出くわしてしまった。
至近で花太郎に
撃たれれば終わる。
すぐに花太郎は、男の懐に飛び込むべく加速する。
そのとき、先日の体育館でのテロリストの占拠事件が頭の中でフラッシュバックした。
頭から突っ込んでいった花太郎だが、一瞬体が硬直してしまい勢いが衰えてしまった。それに対して男は両手で抱えていた小銃の銃床で花太郎を殴りつけた。銃床はカウンター気味に花太郎のアゴ決まり、花太郎は気を失ってそのまま床に崩れおちた。
ある意味打撲には耐性のある花太郎。銃で撃たれれば最悪死亡していたが、いまのところ気絶だけで済んだのは逆にラッキーだったのかもしれない。
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