第三章 ~『竹岡との再会』~
『視点変更:杉田サイド』
執筆に集中できる休暇は終わり、いつも通りの学園生活が始まる。通学路はいつもと変わらず静かだが、そのせいで心臓の高鳴りを意識してしまう。
(俺のラノベでの告白を桜木は読んでいるはずだよな……いや、読んでいるかどうかは関係ない。俺の口からもハッキリと伝えるんだ)
放課後、桜木を呼び出し、自分の想いを伝えるつもりだ。きっと彼女は自分の想いに応えてくれるはずだと期待があるものの、一つだけ心残りがあった。
(竹岡が恋人だって噂はやっぱりデマだったんだよな……)
『完璧超人桜ちゃんの恋』の作中でも、ヒロインと恋人になるのは、竹岡をモデルにしたキャラではなく、杉田をモデルにしたキャラだった。桜木はきっと自分のことが好きなはずだと信じたかった。
「ねぇねぇ、あれ竹岡くんよ」
「格好良いわよね」
女子生徒の二人組がヒソヒソと話をしているのが耳に入る。彼女らの視線の先には、女子生徒に囲まれた長身の男性がいた。爽やかな黒髪に、筋肉質な体つきは、遠目からでも美丈夫だと分かる。
(噂のイケメンがどんなものか一目見ておくか)
女子生徒に囲まれた竹岡に杉田は近づく。だが彼の周りにいる取り巻きの女子たちが邪魔で、顔の見える位置まで近づくことができない。
「ねぇ、あなた、竹岡君に何か用事かしら?」
「根暗そうなオタクに近寄ってこられると迷惑なのよね」
「私たちと竹岡君の時間を邪魔しないで!」
竹岡に近づいただけで、取り巻きの女子たちが一斉に牙をむく。当然、その声は当の本人である彼の耳にも入る。
竹岡が振り向き、杉田と目を合わせる。その顔を忘れるはずもない。舎弟であり、親友でもある竹坊の顔だった。
「竹坊、久しぶりだな! まさか同じ学校だったなんてな。再会できて嬉しいぜ!」
杉田が声をかけるも、竹岡は気まずそうに目を背ける。その反応から二人の関係性を間違った方向に察した取り巻きの女子たちが、今まで以上に鋭い牙を向ける。
「竹岡君が困っているじゃない!」
「何が竹坊よ! 誰かと勘違いしているんじゃないの!」
「私たちの邪魔をしないで!」
一度放たれた砲火は止まらない。杉田を罵倒する声が矢継ぎ早に放たれる。しかし彼女らの声は、竹岡のたった一言によって静まり変える。
「黙ってくれないかな……」
「あ、あの、竹岡君……」
「僕はこれから世界で一番尊敬している人と大切な話をするんだ。邪魔になるから消えてくれないかな」
竹岡が放った言葉はいつも柔和な笑みを浮かべるスポーツマンのイメージとは大きく異なる冷たいものだった。
取り巻きの少女たちは渋々ながらも、竹岡を置いて、一足先に学園へと向かう。男二人、かつての友人同士が再会した。
「お久しぶりです、兄貴。僕のこと、覚えていてくれたんですね!」
「当たり前だろ。竹坊のことを忘れるもんかよ。でもうちの学校に入学していたなら、教えてくれても良かっただろうに」
「それはその……兄貴に嫌われたくなくて……」
「俺が嫌う?」
「ほら、わざわざ兄貴と同じ学校を選んで進学するなんて、まるでストーカーみたいだし、気持ち悪がられるかなって」
「それがさっきの気まずさの理由かよ……でもな、俺がそんな馬鹿げた理由で嫌いになるはずないだろ。なにせ俺とお前は熱い絆で結ばれた親友同士なんだからな」
「くぅ~、オタクになってもやっぱり兄貴はイカしているぜ!」
「オタクは余計だっ」
片や学園一のモテ男、片やラノベ好きのオタクである。傍から見ていると異質な組み合わせに映るが、本人たちの間には確かな友情が存在した。
「それにしても噂の竹岡が竹坊のことだとはな」
「もしかして陽菜さんと付き合っている噂でも聞きましたか?」
「ああ」
「あれはデマですから。僕は誰とも付き合っていませんし、陽菜さんにも恋人はいませんよ」
「そ、そうか……やっぱりそうだよな」
桜木が好きなのはやはり自分だったのだと、杉田は確証を強める。だがそれとは別に聞いておきたいことがあった。
「でもさ、桜木とデートしていたよな。あれはどういうことだ?」
「もしかして兄貴ぃ、陽菜さんのことが好きなんですか?」
「ば、馬鹿野郎。からかうんじゃねぇよ……それでどうなんだ?」
「デートじゃないです。あれは兄貴に関することで互いに相談に乗っていただけです」
「桜木が俺に対して相談事か……もしかして……」
「答えは言いませんよ。というより兄貴も陽菜さんの口から答えを聞きたいでしょ?」
「ああ。その通りだ」
唯一の心残りを解消し、杉田は爽やかな笑みを浮かべる。これで心置きなく、桜木と対峙することができる。
「ありがとな。竹坊のおかげでまた一つ前へ進めた気がするよ」
「な、なら、お礼と言っちゃなんですが、兄貴にまた話しかけてもいいですか?」
「もちろんだ。いつでも声をかけてくれ。なにせ俺たち友達だろ?」
「はい!」
竹岡は杉田と再会できたことを心底嬉しそうに喜ぶ。彼もまた大切な友人との再会に心躍らせるのだった。
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