君は『ツンデレキャラ』を演じたいみたいだけど、僕からみたら『僕に甘える可愛い後輩』

一葉

第1話 君は『相合い傘をしたい』みたいだ。

 いきなりだが、気付いたことがある。


 いつもいつも、不思議に思っていたこと。僕の後輩の言動についてのこと。


 気になり始めたことというと、僕は、先週ほど前にその後輩から勉強を教えてほしいと言われた時だろう。


 その時に、後輩の頼みだから聞いてあげることはする訳なのだが、問題はその勉強の内容………などではなくて、なぜか僕自身でも何を言っているのかよく分からないのだが、頼み方の方だ。こんなところで悩む人なんているわけ無いだろとか思っていた時代が僕にも、あったんだけど……。


 それは置いておいて、ふつうは『勉強が分からないんです、教えてくれないですか?』とか、個人差はあるけどそんな感じになると思う。


 でも、この後輩は『……勉強が分からなくもないけど、先輩が私に教えてあげたいというのなら、私に先輩が教える権利をあげてもいいけど……?』とか、なんとか。


 あまりにも遠回りに説明するもんだから、最初は何を言っているのか理解することができなかった。そして、なんとか言っていることが分かったのだけど、別に教えたいと思うわけでは無いので『いや、別に教えたくはないけど……。』と答えることにした。


 するとどうだろうか。『ごめんなさい!教えて……教えてください……!!』って、後輩はさっきまでのあの分かりにくい説明がもう嘘のように直接的にそう言ってきたのだ。


 最初は分からなくもないとか教えてあげたいのならあげてもいいよとか言っていたのに、急に教えて下さいなんて……


 意味が分からなかった。この時は、勉強でいろいろとあるんだろうなという思考になり、結局教えてあげたんだけど。


 それにしても、そのことが……どうしてこんなにも遠回りに言おうとしているのかが今、分かった。多分、僕の後輩はツンデレキャラを演じようとしているらしい。


 ……でも、なりきれていないらしい。


 僕は、それがわかると1つ自分の中だけの決め事をした。


「……このツンデレキャラに対抗してみよう。」


 そう考えたのは、本当に気まぐれ。


 なんの前触れもなく頭の隅にポッと浮かんできたものだから、少し自分でも驚いているのだが、なんとなくしてみたくなった。


 暇つぶしにでもなるだろうと考えたのかもしれない。


 でも、多分僕は頭の奥のどこかでは考えてしまっているのだ。後輩はツンデレキャラよりも、そのままでいることが一番可愛いってことを。


 なんでツンデレキャラを始めたのかはよく分からないが、あの無邪気な後輩に似合うのは自分に正直でいることだ。


 自分の利点である性格を抑えてまで、ツンデレキャラを演じようとするのにはどうにも不思議でならなかった。


 そして、疑問は残りながらもこの決め事を頭に入れて、やってみることを決意した。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 翌日の放課後。


 僕は、家に帰るために学校にある自分の靴箱の方に向かうと、ポツンポツンと雨の降る音が聞こえてきた。


 雨が降っているのか。


 廊下の窓は雨によってくもっていて、その隙間から外を覗き、そう考える。


 天気予報は曇りとされていたから、とりあえず念の為と折りたたみ傘を持って来ていて良かった。


「……ん?」


 僕は、ふと靴箱から出たすぐのところでひとり誰かがとどまっているのを見つけた。雨が、吹かれている風によって斜めに降っているので、その人の上に小さな天井はあるのだけど、服が少し濡れ始めている。


 もしかして……傘を忘れたのか。


 ……はぁ、女性には優しくしろって言われているし、それに僕は別に傘なんてなくても早く帰ればいっか。


 そして、僕はとりあえず折りたたみ傘を渡そうと近くまで向かったときに気付いた。その誰かとは……例の後輩のようだった。


「……傘……忘れたの?」


「……えっ、先輩!?」


 僕の声に気付いて、その後輩は振り返ると驚いた様子を見せ、そう言った。


「あぁ、うん。先輩だよ? で、傘を忘れたの?」


「そう、です……。」


「……やっぱりか。はいっ、僕の折りたたみ傘を使ってよ。」


「えっ、いいんですか? ……って、もしかして先輩の持っている傘はこれだけだったりしません?」

 

「えっ、もちろん1つしか持ってきてないけど? 貸すなんて予想もしてなかったし……それに、天気予報でも雨ではなかったから、雨が降ることさえ予想してなかったから。」


「なら、いいです。先輩が濡れるじゃないですか……。」


「大丈夫だから。」


「いえ、大丈夫じゃないですっ。」


「それなら、僕と2人、濡れない方法があるんだけど……一緒に傘の中に入って帰る?」


「えっ……も、もしかして、相合い傘をしたいんですか? したいと言うならしょうがなく……」


「まぁ、別にいいから……じゃあ、ひとりで帰るか。」


「はへぇ……!!?」


 僕は、別に後輩に傘を渡しておけばいいかと思っていたんだけど、素直に貰おうとしてくれないからふざけてそういった。


「じゃ、さよならー。」


「えっ……ちょ……ごめんなさい! お願いします、先輩! よければ傘を貸してくれませんか?」


「うん、いいよ。」


「で、でも、やっぱり先輩が濡れるのは……風邪をひいてしまうのは……」


「じゃあ、一緒に傘の中に入る?」


「えっ……? せ、先輩は、私と相合い傘したいって思いますか?」


「まぁ、思うよ?」


 多分、後輩はからかってきているんだろう。でも、いちいち反応が面白くて、からかいに対して、からかいで返してしまった。後輩は、やっぱりかわいいなって思う。


「〜〜〜〜〜っ!?」


 言葉にならない声でなにか言っているようだ。その後輩の顔は、茹でだこかって突っ込みたいくらいに赤かった。


 まぁ、僕が好きだからとか、多分そういうことじゃなくて、そんなことを言われるのに慣れてないとかだろうけど。


「で、なら僕と帰りたい?」


「……はい、一緒に帰りたいです……。」


 あまりにも直接的だったものだから、少し心がドキッと跳ねるようになった。


 そして、相合い傘をして一緒に帰ることとなった。もちろん家は一緒ではないけど、意外と近いところにあるから、そこまでではあるが。


 その間、僕の心はどこか上の空だった。折りたたみ傘ということもあり、小さかったのでたまに後輩と肩が触れた直後は特に、だ。


 後輩が、好き……なんてことはないか。多分、今が雨だからそれで身体がおかしくなっているんだろう。


 それにしても……やっぱり思うが、後輩はツンデレキャラになりきれてないらしい。


 僕が濡れるとか心配してくれる時点で。そして、一緒に帰りたいと言っている時点で。

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