居候兼多趣味を謳歌する日々です

孤夜 ミコト

第1話 なんで俺が

 友達と馬鹿笑いしながら帰ってたあの道に、もう戻ることはできない。




 母さんにも父さんにも合うことは無いし、また会おうと約束した遠くにいる子と再会することも、無い。



 好きな音楽も聞けないし、創れない。本も読めないし、ゲームもできない。絵もかけない。



 そして、あの子と手を繋いで出かけることも。



 向こうで、俺は死んだのだから。







「ッシャ! 激レアキタ〜!」

「オレらお前の課金癖知ってるからな〜、どうせそれもだろ」

「ハハッ。まあな」

 高校の帰り道。いつも通りのメンバーで、いつも通りの道で、今日も帰る。

 退屈なことはない。毎日新しいことがあるから。


「なあなあ、信乃〜、お前に前フレンド申請したんだけどなあ〜、全ッ然承認してくんねぇんだよなあ〜」

「ッ! …それマジ?」

「ああ。マジ」

 友達が呆れた目でこっちを見る。

 はあ…、フレンド申請なんて大量に来るからいちいち見てないよ…。

「はいはい、いまから承認してやるよ。垢名どれ?」

「えっとな…」


 よく、テレビの向こうで、「昔は良かった」とか「今の子はスマホばっか見て」言ってる大人がいるけど、当事者、つまり俺から見れば、今が健全じゃないとは思わないし、むしろ昔よりいいと思うぞ。

 十分に楽しいし、公園とで馬鹿みたいな遊びしてる小学生はうじゃこらいる。

 まあ、スマホ中毒とか、そういうのはどうかと思うけど、ほとんどの子はスマホもリアルでの遊びも、全部ちゃんとやってるよ。

 時代の流れとかそういうのはわかんないけどね。



「おーい、信乃、どこみてんだ?」

「お、失礼。少し考えてたんだ」

「ふーん」

 こんな日常が、明日も、明後日も、続いていくんだろう。










 そう思ってたのに。









「信乃ちゃんじゃあね〜」

「キモいなお前」

「フレンド申請画面ちゃんとみろよ!」

「わあってるって…」

「んじゃ」

 友達と別れて、自分は歩道橋を登る。

 ふう…一日が終わった。いや終わってはないけど。

 少し歩道橋の上から下を覗いてみる。まちなかに普通にある、ちょっと高いところ。涼しくて、気持ちいい。






まさか、これが、最後の景色とは。











 !






 背中に重い衝撃。歩道橋の手すりに勢い良くぶつかり、胸が詰まる。

「グッ!」

 …っ! 苦しい…、息が…

 続けて足を蹴り上げられ、体が宙に浮いた。そのままもう一度重い衝撃。


 フワッ…


 完璧に体が宙に浮いた。地面は、ない。

 え…っ? 俺…、







 





 …?










 …えっ?











 ドシャッ。








 …ピン…。






 …ぐちゃぐちゃで、どろどろの赤が目に入る。どうやら即死ではないようだ。身体の凄まじい痛みとかも、まったく感じない。身体も全然動かないし、脳が潰れててもおかしくないな。いや、実際潰れているのかもしれない。

 学ランも、きっと真っ赤だろうな…。血だらけ。こんなによごして、申し訳ないや。

 周りには人がいっぱいいるみたい。でも、声は、聞こえない。


 ああ、視界が暗くなってきた。俺、ほんとに死ぬんだ。


 最後に、一度くらい、《皐月》に会いたかったなあ…。





 プツッと、音がして、全てが終わった。





















 …と、思ってたんだけど…。














 目が覚めた。いや、なんで目が覚めてるんだ? 

 俺は、死んだんじゃないのか? ちがうのか?

 …まあいい。意識はあるから、生きてるかはともかく、全てが終わった、って訳じゃなさそうだ。


 今までのは夢で、ここが現実っていうのもなくはないじゃないか。

 でも、一つ問題が。ここは…何処だ?

「…! 大丈夫ですか?」

 だれだろう。突然の男の子の声。でも聞き覚えはないな…。知らない子だ。


 ゆっ…くりと目を開ける。

 

 …いやほんと誰?


 声をかけてた子は、予想通り、少年らしき子だった。いや、でも、全く知らない子だ。

「あー、生きてるみたいですね。良かったあ…」

「…君は…?」

 どうなっているんだ。走馬灯か?

「あ、僕はリオンです。おっと、喋らないでください。なんで生きてるか不安なくらいの大怪我なので…」

 喋るなといわれたがこの状況がわからなすぎる。だから容赦なく喋る。

「ここは何処だ? 俺は…なんでこんな所に…?」

 《リオン》と名乗る少年が驚いた顔を見せながらも、説明してくれる。

「うちの前に倒れてたんです。知らない人でしたが、すごい大怪我をしていたので、とりあえず家に運びました。ここは、僕の家です」

 …わからないがわかった。

 起き上がろうとすると、リオンに止められた。

「起きちゃだめです。怪我もあるし、熱もかなりあるんですから。というか起きれないでしょ」

 今回ばかりはおとなしく従う。たしかに動こうとすると身体に激痛が走って耐えられない。

 身体が熱いのは興奮していたからではなかったのか。

 冷静になって観察すると、額に濡れたタオルのようなものが乗っている。

 身体は全身、包帯で巻かれているようだ。

 動かせるところを少しずつ確認する。片目は包帯で巻かれていて、もう片方は瞬き可能。痛みなどは無さそうだ。

 喋ってるから口は動く。

 あとは…指先と、首を左右に振ることが僅かにできる。それだけだ。


「怪我が治るまでしばらくうちで過ごしてください。お金などはとりませんから」


 これは…安心していいのか? わからないけど、まあいいか。めんどくさくは無さそうだ。

 そう考えた途端に、ものすごい眠気が襲ってきた。

 疲れてるんだな…。寝よう。













 記憶…っというか、自分の確認だけしとくか。

 俺の名前は東雲信乃。現代日本に生きる、ゲーヲタ高校生。

 そして、とても多趣味。うん、憶えてる。

 大丈夫。なんとかなるさ。

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