3.ちゃんと
「ありがとうございました。でもわたし、いつもはこんなじゃないんです。いつもはちゃんと子どものこと見てます。子どもたちにもちゃんと言ってます、知らない人に気を付けて、子どもだけでどこかに行ったらダメだよってちゃんと言い聞かせてます。子どもたちもちゃんとしてます、ちゃんといい子です」
ここなの母親は、学生の私たちと年齢は変わらなそうな見た目だった。イマドキの若者らしくすらりとしたプロポーションで、髪を明るく染めてメイクもきちんとしている。でも、くたびれ感が漂っていた。目の下が黒くて口元が引きつっている。
思いがけず可愛いママさんで「おっ」とだらけた顔つきになったマモルも、すぐに戸惑ったように表情を曇らせた。
「わたし、ちゃんと働いてるし、ちゃんと子育てできてます。大丈夫です。困ってることなんてありません。ちゃんとしてますから。わたしたちだけでだいじょう……」
「うん。ちゃんと、聞いてるから。だからちょっと言わせて」
有無を言わさずカットインして、目と目を合わせながらゆっくりはっきり伝えると、彼女は口を開いたままじっとりと額に汗を浮かべた。
「あなたが、ちゃんと、お母さんなことは、ここなちゃんを見てればわかるから。ここなちゃんは、ちゃんと、あなたをお母さんだって認めてるから。だからいいんだよ。安心して?」
ここなの母親は眉根をきゅっと寄せ、わなわなと口元を震わせた。
「はい……」
やっとそれだけ口にすると、涙をこらえる表情でここなとひなたくんの頭を撫でた。
講義を受ける気分なんてまったく失せて、キャンパスに戻るマモルと別れた。
「留年したって知らねぇぞ!」
その時はその時だし。
それよりここなたちのことが気になって、私はそうっと母子の後を追った。探索系の術はからきし苦手なのだけど、呪符の切れ端をここなの帽子のリボンの陰に張り付けておいたから、彼女の気配を辿るのは簡単だった。
ここなの母親が運転する黒いストリームは、麓近くの保育所へ向かい、そこで四人の子どもを降ろした。ここなたちは日中ここに預けられているのだろう。
賑やかな甲高い声が漏れ聞こえる室内に、ここなとひなたは明るい顔で入っていき、双子の赤ん坊も保育士さんの腕に引き取られていた。
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