11.不安

「や。そもそも魑魅が出現したのは、私が過激なこと考えたからみたいですし」

 むしろこっちがゴメンナサイみたいな。

 それでもまだ慎也さんは不安げな様子だった。他にも心配事がありそうな。

「慎也さん、何か気になるなら言ってください」

「……どうなんでしょう。通常、滞在は四年ですので」

 ああそうか、と私は頷く。


 私たちは四年ごとに住まいを転々としている。貴和子たち巡回組の報告に応じて特に祓が必要な場所に移住し、その地域がきれいになれば次の場所へ。

 今回も順調なら来年には引っ越しの準備をしなくてはならない。それは慎也さんのお仕事なのだから先行きが気になるのは当然だ。

「今日がイレギュラーだっただけで、予定通りでいいと思います」

 安心してもらうために断言したけど、慎也さんは表情を曇らせたままだった。どうしちゃったんだろ?


「前にいた海辺の町でもいい方ばかりでしたが、ここも居心地が良いですよね」

「そうですね。……動きたくなくなっちゃいましたか?」

「いえ。でも、十和子さんもご友人がたくさんできたようなので」

 まあそれは。私は調子がいいからすぐに友だちができるほうなのだ。貴和子と違って。慎也さんも人当たりが良いからすぐに地元の人たちに溶け込める。克也と違って。


 とはいえ、慎也さんはまだここで二か所目。転勤族な人生に慣れ切ってる私と比べて場所への愛着が出てしまっても当然だ。でもでも、ここに残りたいと言われても困ってしまう。慎也さんには絶対に私と一緒にいてほしいし。

「少しくらい滞在を延ばすのはいいですけど、私についてきてもらわないと困ります」

 こじれてしまう前にこれだけは伝えておこうとまた断言すると、慎也さんはそんな私にきょとんとした顔になった。あれ?


「慎也さん、いやになっちゃったんじゃないですか?」

「何がですか?」

「何って……」

 私はもごもご言葉を濁しちゃう。何がって、だって。突き詰めれば私だっていろんな心配が出てくるわけで。こんなちゃらんぽらんなヤツに付き合ってらんねーぜ、とか。こんなガサツなオンナと寝なきゃならないなんてやってらんねーぜ、とか。不安な気持ちは、何度だって繰り返しやってくる。


「わたしは何もいやになってなんかいませんよ?」

 そう言ってもらったなら、ぐずぐず引きずる私ではないのだけど。でもそれなら慎也さんは何を気にしているのだろうか。

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