第59話 父親ぶる
なんで俺は生まれたのかとか、俺の本当の父親は誰なのかとか、俺の脳内は常にそんなことをぼんやり考えていて、行き着く思考はいつも「死にたい」「消えたい」「この家にいたくない」だった。
田上はよほど子供が欲しかったとみえて、やたらと父親ぶってくる。土産を買ってきたり、外食させたり、俺が嫌がっても連休にはキャンプに行ったりした。そして勉強しろとは言わない、と言いながらやたらとスポーツをするように勧めてきた。なんだって自分に自信満々な大人は、自分と同じような人生を歩むことを強要してくるのか。俺は絶対にお前みたいな人間に成り下がりたくはない。だからお前が歩んだ道には唾を吐いて近寄らずに進んでいく。
スポーツもしない。二流大学にも行かない。もちろんITには勤めない。クルマやバイク、あの野郎の趣味嗜好に入ってるものは全て排除する。かっこいいなんて全く思わない。服も靴も、あいつが俺に買ったものは即売り払った。
学校は、辞めた。
いや、ただ、行っていない。
朝家を出たらマックや友達の家に入り浸って漫画ばかり読んでいた。ゲームはやらない。あいつが作ったかもしれないと思うとおぞましいから。そう、田上はITだとか偉ぶっていたが、オンラインゲームの仕事をしてきたらしい。田上は酔うといつも「自分が日本におけるこの業界を作り上げた」、くらいの大口を叩いた。聞いてられなかった。もしそれが本当だとしても、お前が人に尊敬されるような人物になることは永遠にない。過去は消せない。お前は畜生以下のただ生きてるだけの下等な生物だ。
生殖本能に負け続けて、自分が立てた誓いも守れずに、汚れた女達を抱く事だけでせいぜい生きてきたくせに、男の人生を語るな。仕事を語るな。俺に偉そうに口を聞くな。
俺の父さんと比べたら、田上は虫ケラ以下の下劣で下品で下等な生き物だ。
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