第24話 マーデルローズ校長 今年度の入学試験に言及

●個人誌でコメント発表

マーデルローズ魔法女学校の校長であるマーデルローズ氏が、今年度の入学試験について個人紙上でコメントを発表した。


同校は男子禁制の名門魔法学校として知られているが、今年度の入試をもって事実上の共学化に踏み切る。決定者のマーデルローズ氏本人からのコメントが待たれていた。


●共学化の構想は100年前から

マーデルローズ氏のコメントによると、共学化の構想は100年前からあったものだという。100年前というと、同校が創立100周年を迎えたころである。


東西魔法大陸に蔓延していた魔法使いの男女差別がほぼ解消し、「魔女と魔道士に魔法学上の違いは無い」という考え方が一般的になった時期である。


●以前から共学のニーズを認識

マーデルローズ氏はこの時期から、同校の”女”学校という性別を強調した表記を忌避する女生徒の存在を認識していたという。


魔法使いは多様性を重んじる文化が根付いている。魔女狩りの呪縛が解かれた時代において、性別で区別されたり、ひとまとめにされたりするのを嫌がる者が多いのは想像に難くない。


昔から共学化へのニーズはあったということだ。ただし、マーデルローズ氏は学校創立の経緯やOG・関係各所との調整を鑑みて性急な共学化は見送ってきた。そして今年度、ようやく共学化の実現にこぎつけた。


●本年度は定員が倍 男女別定員は規定無し

男子生徒にも人気の高い魔法女学校ということもあり、今年度の入試は志望者が激増することが予想される。マーデルローズ魔法女学校を目指して長年勉強に励んできた女子生徒からは、動揺する声が多数聞かれた。


そういった影響に対して、マーデルローズ氏は「今年度入試の合格定員を倍にする」と決定した。


学力・魔法力に男女差が無い前提で、本来合格ラインにいたはずの女生徒が合格できるようにする配慮である。なお、男女別の定員は設けず、試験の成績優秀者を性別に関係なく上位から合格させる方針とのこと。


同校の例年の合格定員は1学科あたり3名、1学年30名である。そこから考えて、今年度の合格定員は1学科あたり6名、1学年60名となる予想だ。


定員が倍増するのは大きなチャンスだが、やはりそこは魔法学校。合格者が倍になっても狭き門なのは変わらない。


●「魔女学」はなぜ女子校なのか?

「魔女学」の愛称で親しまれるマーデルローズ魔法女学校。魔法使いが通う女子校としては世界初の学校である。


同校創立以前までは、女性の魔法使いは個人的に魔女に師事するのが一般的であった*1。魔法学校は男性魔法使い「魔道士」のためのものであり、魔女に学校教育は不要と考えられていた。


しかしこの誤解がやがて深刻な男女差別を生み出し、女性から魔力をはく奪する「魔女狩り」が東西魔法社会に横行することになった。そのような苦境の中、魔女たちが自らの能力を証明するための機関として学校が作られた。


それがマーデルローズ魔法女学校である。


●マーデルローズ氏は対魔女狩り運動の勇士

どうして魔女たちの最初の学校が、マーデルローズ氏の名を冠しているのだろう?それは、マーデルローズ氏が対魔女狩り運動の伝説的な勇士だからである。


マーデルローズ氏は実は、東西魔法大陸の出身ではない。彼女の出身地は魔境大陸の魔境帝国内に存在する「魔法使いの里」である。


魔境大陸は東西魔法大陸よりも、魔法使いの輩出人数が少ない。しかし古来より魔法使いの地位や役割に男女差が無く、完全に能力主義・適正主義で魔法社会が成り立っている。


そんな環境で育ったマーデルローズ氏にとって、魔女狩り下の東西魔法大陸は全く許しがたい状況にあった。


旅行で訪れた東魔法大陸の現状に驚愕したマーデルローズ氏は、その場で対魔女狩りを目的とした魔女パーティーを結成。東西魔法大陸の魔女たちを守りつつ、大規模な対魔女狩り運動を展開した。これを魔女狩り戦争という。


マーデルローズ氏は魔女たちが集う砦にて、東西魔法大陸の魔女狩り連合軍を撃破。女性魔法使いに対する迫害を撲滅したのである。


●魔女の砦に建てられた秘密の学校

マーデルローズ氏は魔女の砦に戦力を集めていた際、女児の魔法使いに対する教育改革にも着手していた。それが女子のための魔法学校である。


地縁血縁で師事していた魔女たちの能力と適正を今一度精査し、少女たちを適切な師匠の下に師事させた。一子相伝方式の教育制度も廃止し、複数名の教師・生徒たちによる相互教育を推奨した。


魔法大陸では当たり前とされていた、「自然魔道士・呪薬魔女」の役割分担も撤廃。五行魔女の保護活動も精力的に行った。


そういったマーデルローズ氏の教育改革が、マーデルローズ魔法女学校創立の背景となった。


●50年前に男子禁制を解呪 来年度から共学へ

創立当時には魔法使い女性が集う学校であることに大きな意義があった、マーデルローズ魔法女学校。しかし、男女差別の解消にしたがって、その役割も変化している。


同校は50年前に砦全体にかけられていた男子禁制の呪いを解呪。男性教員や他校の男子生徒が校内に入れるようになった。


そこから50年の時を経て、いよいよ来年。初の男子生徒が”魔女学”に入学するかもしれない。


*1:魔境帝国の魔法使いを除く

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る