L&R

球玉丸

第1話 悪夢の始まり

「今日から2学期が始まります。夏休みの頃とは心機一転、心を入れ替えて過ごすようにしてください。そして...」

体育館の中で1人の声が響く。

あくびをする者、コソコソと話をする者、外を眺める者・・・

いくつになっても校長の話は退屈だ。

そう思いながら市川豊イチカワユタカは眠い目を擦り校長の話を聞いていた。

ボサついた天然パーマの髪の毛、他人に顔を見られたくないがために伸ばした前髪。その髪は目元までかかり表情を伺うことすらできない。

良く言えばおとなしい、悪く言えば地味。それが市川豊なのだ。しかし、そんな見た目とは裏腹に、所属するバレーボール部ではエースとして、公立高校ながら部を全国ベスト8まで導き、五紫高校ゴシコウコウの名をを全国に轟かせたのである。

それはさておき、

約10分後ようやく校長の話が終わり、解散の指示が先生から生徒に出される。

出入口に近かった1年生が最初に出ていく。

扇風機すら設備されてない体育館。

生徒約300人と高すぎる人口密度。

30度を超える気温。

待たされる人間の気持ちになってみろと豊は思う。

しばらくして豊達の学年である3年生が移動を開始した。

出口に向かって歩いていると、後ろから、「よっ」と背中を押される。向くとそこには親友である知立黒也チリュウクロヤがいた。

豊と黒也は中学生の時に知り合い、互いにバレーボール部に所属しており、豊はエース、黒也はキャプテンとして部を引っ張っている。

しかし豊と黒也は正反対の存在で、黒也を表す言葉といえば人気者。頭脳明晰、スポーツ万能な黒也は男女共に人気が高い。

「校長の話長ぇよな〜。マジ勘弁。あと暑すぎ」

黒也は学ランのボタンを全て外しワイシャツの胸元を掴みパタパタさせた。

他愛もない会話をしながら教室に戻ると、クラスメイトが帰り支度をしていたので、話しかけると、

「お前ら今来たのかよ。カニちゃんが帰っていいよって言って職員室行っちゃったから皆帰るとこだよ」

「マジで!?よっしゃ!さすがカニちゃん!豊一緒に帰ろうぜ!」

「うん、いいよ」

ちなみにカニちゃんというのは、豊達の担任、蟹川カニガワの愛称である。

豊も帰り支度を始め2人で教室を出る。


校門を出てすぐのところで1人の女子生徒に「やっほー」

と明るく声をかけられる。

彼女の名前は犬口詩織イヌグチシオリ

高校1年生のクラスとクラス役員が豊と同じになり、色々と雑務をこなしていくにつれ仲良くなって、今に至る。

「あっ、詩織。今から一緒に帰らない?」

豊が尋ねるように聞く。

「ごっめん、今からカラオケ行くんだよね」

「1人?」

「そう 、ヒトカラ。来月にオーディションあるから練習しなきゃなんだよね。」

詩織はクスリと笑いながら言う。

「大変だな、プロ志望は」

「そうなんだよね〜。でもプロになってライブ出来るようになったら1番に招待してあげるからね!」

そう言うと詩織はじゃあね!と言いながら足早に帰っていった。

「じゃあ俺らも帰るか」

「そうだね」

豊と黒也も校門を後にした。




「近所の野良猫がさぁ〜...」

いつもどうりの他愛のない話をしながら2人は歩いてゆく。

すると突然豊が足を止めた。

「黒也、なんか後ろから気配感じない?」

豊は声を潜めながら話す。

「やっぱり気のせいじゃなかったか」

「僕見てみる」

そう言うと豊はそっと後ろを振り返る。

すると豊は思わず「えっ」と声を漏らした。

「どうかしたか?」

「誰もいない...?」

黒也はそんなはずはないと同じく後ろを見る。

やはり豊の言った通り背後には誰もいなかった。

「気配は感じるのにな」

黒也はそう呟くが豊からの返事がない。

「おい、豊。豊!」

そう言うと豊はハッとし、

「ごめん、ぼーっとしてた」

と答えた。

「気をつけろよ」

と黒也が冗談っぽく言ったその時、

「ちょっと君達いいかな?」

と小太りな男性が正面から声をかけてきた

黒也は不審に思いながらも

「どうかしましたか?」

と男性に聞く。

「君の名前を教えてもらってもいいかな?」

男性が言うので、黒也は

「黒也って言います。知立黒也」

「あぁ、ごめんね君じゃなくてこっちの彼」

男性は豊かに体を向け

「君の名前は?」

と聞いてきたので、豊が

「市川豊って言います」

と言いかえすと、男性はニヤリとして

「そうかユタカ君か。イチカワユタカ君」

男性に名前を呼ばれた豊は急に意識を無くした。

それと同時に豊の体の内側から”何が”が出てくるのを感じた。

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