・襲い来る軍勢。そしてスヴァローグの力。
草原を歩き、もう一つの街が見えてきた頃、前方から数多くの馬や歩兵の軍勢がこちらへ向かって走ってくる。
「ご主人様、おそらく先程の街の壊滅を聞きつけてきたのでしょう。数はおそらく400。」
「あんな爆発させちゃあ気づかれるか。すごい軍勢だねぇ」
「ひ、火花様どうしましょう!」
あっけらかんとしている火花をよそにミシロは右往左往して顔も青ざめていた。
「どうもこうもないよ。人間相手にどれくらいの威力があるか、試さなきゃね」
軍勢は火花達の数十メートル前で止まり、先頭の一人が火花へ怒鳴り声を上げた。
「そこの冒険者二人!この先の街はどうなった!なにが起きたのだ!」
「滅びましたよ」
軍勢がざわめき、男は信じられないという表情だ。そりゃそうでしょう。あんな大きな街がいきなり滅んだなんて言われても信じられないと思う。
「ま、まさかそんな馬鹿な!あの街はマイルズ様と屈強な魔法軍隊がいる屈強な場所だぞ!」
「だから、そのマイルドとかいう人も多分死んだって。宮殿も灰になったし」
「何が起きたか説明せよ!生き残りはおらんのか!?」
「いないよ。スヴァローグにみんな消し炭にされてたよ」
「まさか!?くそっ、魔法軍隊までもが失敗したのか!」
その言葉を聞いて火花の眉がぴくりと動いた。
「ねぇ、もしかしてスヴァローグの炎の力を狙っていたのはあなた達?」
「そうだ!あの炎の力をヴェルカンディアス王に届けるため、もう一つの世界である「ブルーサファイア」を手に入れるために必要だったのだ。スヴァローグはどうなったのだ冒険者!」
「ミャノン、ブルーサファイアって?」
「ご主人様の世界のことでしょう」
「わかった。あの、あなた達は皆殺しにすることにしました。スヴァローグの炎は私、東雲火花が受け継ぎましたから。」
火花が天高く剣を構えると赤黒い炎が刀身にまとい、周りに熱風が飛ぶ。
「人間ではないな!?ま、魔族の生き残りだ!打ち取れ!」
男が叫ぶが、すでに火花は剣を全力で振り下ろしていた。
「てやぁぁぁああああ!」
その瞬間凄まじい爆発と火柱が上がり、馬も歩兵も空中に巻き上げられていった。その尋常ではない威力で体が引きちぎれ、悲鳴を上げていく。そして炎は一瞬で人間を炭に変えていく。一振りで半数は死に絶えていた。
「す、すごい威力。」
私の手は震えた。人をあんなにも簡単に殺してしまえたこと、なんかではない。スヴァローグの炎の威力と自分の意志で人が死ぬというこの現状を楽しく思えた。
「火花様!さすがです!」
「プワァフェクトですご主人様!貴女様こそスヴァローグの炎を完璧に使いこなすお人!」
「え、えへへっ。そうかなぁっ!な、ならおまけにまたやっちゃう!」
おだてられた私は調子に乗って今度は横なぎに振り払うと、残っていた人間達を炎で火あぶりにする。悲鳴と絶望の声が反響し、草原は焼野原の地獄と化した。
「さぁて、このまま進行するよ!」
街へ向かって剣を向けて歩き出したその瞬間、私の心臓は槍で貫かれていた。近くには誰もいない。どこからか投擲されたのだ。
「ごがぁっ!?」
口から大量の血が吐き出され、痛みが思考を支配する。
「火花様!?」
ミシロが倒れた火花を抱きかかえると、いつの間にか武装した4人の人間が立ちふさがっていた。
「騒ぎを聞きつけてやってくれば、とんでもねえ力を持った魔族が生き残ってたとはな。400人が5分もかからねえうちに死にやがった。」
剣と盾を持った男が慎重に近づいてくる。しかし白い魔導士が堂々と火花に近づき、顔を持ち上げて観察する。
「ロッツェ。エレナジャベリンを刺したが微かに息がある。この生命力、そしてあの火力。とんでもねえ化け物だ。普通なら触れた瞬間髪の毛一本すら残らねえってのに」
「エレナジャベリン代金は回収できそうね。高級魔法具だし。さぁ首をはねましょう」
のこぎりを持った女が火花に近づくと、ミシロが涙目でにらみつけた。
「ふふ、可愛い目ね。そそられちゃう。誘ってるのかしら?」
「なんだよその眼は!姉さんに失礼だろうが!ん?ライトニングエルフかよ!これで10年は遊んで暮らせるね兄貴!」
ミシロを蹴り飛ばした若い少年は嬉々と縄で二人を縛ろうとする。
「ひっ、嫌あぁ!」
ミシロが悲鳴を上げたその瞬間、瀕死と思われる火花の身体からどす黒い炎が吹き上がった。顔を持ち上げていた白魔導士は瞬時に蒸発し、灰すらも残らなかったのである。
「チャールズ!?どこにそんな力を!」
ロッツェと呼ばれた男が剣を構えて倒れる火花に駆け寄る。しかし炎の威力に装備している鎧が解け始めてしまった。
「バカな!?対魔法ミスリルのアーマーだぞ!?」
「逃げようロッツェ!分が悪すぎる!」
「兄貴危ない!」
仲間達へ振り向いたロッツェが再び火花へ顔を向けると、すでに自分の首は切り落とされていた。血が噴水のように吹き出し、落ちた首は足で踏みつぶされた。まるで落とした卵のように簡単に頭がつぶれ、脳漿が残りの二人へ飛び散る。
『あ…う……、ころ…コロス』
「ヒィ!?」
「や、いやだ助け」
私のおぼろげな意識はここで途切れた。次に気が付くと私は見知らぬ部屋のベッドで寝かされており、そばでミシロが小さく寝息を立てていた。
「夢…じゃないね」
私の手や腕のあちらこちらに血が黒くなりこびりついていた。初めて人間を大量に殺してしまったというのに自分の心はやけに冷静だった。
「ここ、どこだろう」
ミシロちゃんを起こさないように窓から外を見ると、巨大な街並みが目に飛び込んできた。
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