第4話「私、燃やし尽くす炎を受け継ぎます。」

 街へ到着すると、先ほどまで賑わいを見せていたであろう街中は燃えており、黒焦げの人間であったものや異種族であったものがあちらこちらに散乱している。


「うっ。酷い匂い。」


「私が逃げて来た時にはこんな状況ではなかったです…。一体なにが…。」


「ご主人様、この先に見える宮殿の方角から微弱な魔力を感じます。」


 私とミシロちゃんは口元を抑えながら魔力を感じるという場所へ進んでみる。進むたびに焦げた炭の死体は増えていく。


「キモチワルイ。ん?なにこの像?」


 宮殿の前にある広場には絵に描いたような巨大な赤色の竜の像が倒れていた。


「火花様!これは像ではなく6大竜の一匹、スヴァローグです!本当に存在していたなんてっ!?」


「スヴァローグ?」


「はい、このスヴァローグと呼ばれる竜は500年前に人類と争った6匹のうちの一匹です。しかしスヴァローグは紅蓮の女神様に敗れ、力を認め、その世界を焼き尽くさんばかりの炎の力を女神様に与えて消え去ったと。」


「そんな竜がなんでここに?でも死んでるみたい」


 ー貴様は人間かー


「誰!?」


 咄嗟にミシロちゃんを抱きかかえて後ろに下がる。突然私の頭の中に女性の声が聞こえてきた。


 ー忌々しい人間め。街に生き残りはいないと思ったが。もう一つの街まで命が持たなかったかー


 それは竜が私達に話しかけてきていた。


「私はこの街の人間じゃないよ。むしろこの世界の人間じゃない。この街を燃やし尽くしたのはあなた?」


 ー異なる世界から来た者か。久しく見ていなかったが、まだいたとはな。この街は私が燃やした。ー


「6大竜とまで言われるあなたがなぜなのです!」


 ー恨みを知らしめるためだ。この国の人間は、眠る私の力を奪おうとしたのだ。遥か昔助けたこと恩も忘れてな。ー


「あなたの力を奪おうとした理由は?」


 ーこの炎の力で異なる世界を襲おうとしていたのであろう。別の国から依頼されていたようだがな。お前は何者なのだ?異なる世界からきたとはいえ人間なのになぜこのスヴァローグを恐れないー


「私はこの世界の人間全てを滅ぼしにきた東雲火花って言います。恐れないのは、この世界の人間を滅ぼすための憎しみが恐れを消しているから。そして何より、貴女から恐怖を与えようという気がしないの。」


 ーこの世界の人間を…はっはっは!死ぬ前に面白い冗談を聞いたわ。貴様のようなか弱き女子(おなご)に何ができようかー


「スヴァローグさん、貴方の力を私にいただけませんか?」


「火花様!?なんと恐ろしい事を!?」


 ミシロは信じられないことを聞いたと驚いている。伝説の竜の最後に、この少女は死ぬならその力をよこせと言うのだ。ミャノンもさすがに言葉が出なかった。


 ーふははは!面白い!死ぬならば我の力をよこせとな!確かにそうだ。この恨みの炎、貴様になら託せそうだ。ー


 スヴァローグの右目が落ちると、それは突然燃えて空中をふわりと漂う。その炎は黒く赤く燃え、禍々しい。


 ーさぁ、それを剣に取り込めー


 私は言われるままその炎を剣(鞘)に押し当てると、熱い何かが私の体の中に入ってくる。


「熱い……。あなたの恨み、憎しみ、憎悪、受け取った。必ずこの力を使って人間を滅ぼしてみせる」


 ー頼んだぞ。同じ裏切者よ。その内に秘めたる闇に飲まれるでないぞー


 そう言うとスヴァローグから生気が失われていき、赤い身体は錆びついたように崩れ落ちていった。私は剣を持つと、鞘に先ほどの赤黒い炎が纏った。


「これがスヴァローグの炎。なんて禍々しいんだろう。おりゃ!」


 私は宮殿に向かって試しに振り下ろしてみると、爆発かのような火柱があがり一瞬で宮殿は燃え尽きた。


「あ、あはは!いい火力だよ!」


「火花様!その力があれば人間の軍勢など埃同然でしょう!」


「さてミシロちゃん。試しにさ、ここより先にある街の人間消し去りにいこう。スヴァローグが、行こうとしていた街。」


 宮殿から見える草原の先にはまた大きな街が見えており、そこを指さした。おそらくスヴァローグが向かおうとしていたもう一つの街。


「火花様の思うままに。」


「じゃあすごい力ももらったことだし、始めようか。人間殲滅。」


 私はこのスヴァローグの炎の恐ろしい威力を、次の街へ行く途中で味わうことになった。

そして、私の中の何か。

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