異世界から聖女が来るようなので、邪魔者は消えようと思います

人物紹介／プロローグ

◆◆◆人物紹介◆◆◆

□フェリシア・エマーレンス

グランカルスト王国第二王女。前世で知った乙女ゲームの世界に転生。

薬草毒草に興味があり、薬の調合が得意。

□ウィリアム・フォン・シャンゼル

シャンゼル王国王太子。

常に笑顔で、甘いマスクに甘い声――だが、裏の顔がある？

□サラ

乙女ゲームのヒロイン。

黒髪・黒目の異世界から来た聖女。

□アイゼン

フェリシアの兄。

グランカルスト王国の国王に即位。

□ライラ

フェリシア付きの侍女。

□ダレン

医師。見た目は屈強な男性だが、中身は乙女。

□フレデリク

近衛騎士。

◆◆◆

　大国グランカルスト。

　大陸のおよそ四分の一の領土を持ち、先々代国王が野心溢（あふ）れる性格だったため、その御（み）代（よ）が終わるまで血なまぐさい国家として恐（おそ）れられていた国である。

　それが先代国王に代（だい）替（が）わりすると、今までは〝外〟に向いていた軍事力が今度は〝内〟に向けられた。外ばかり見ていたせいで、内政がおざなりになっていたからだ。

　賢（けん）王（おう）として名を馳（は）せた先代は、しかしすぐに己（おのれ）の息子（むすこ）に王位を譲（ゆず）ることになる。

　そうして、今日。ついに新たなグランカルスト王が即（そく）位（い）した。

　兄王子の──正しくは兄元王子の晴れ舞（ぶ）台（たい）に、フェリシアはおよそ似つかわしくない青ざめた表情で目の前の人物を凝（ぎよう）視（し）する。

「うそ、でしょう……？」

　ぽつりとこぼれた情けない声は、意外にも一人の部屋に大きく響（ひび）いた。大国の王女として生まれたにもかかわらず、フェリシアの周りには使用人すらいない。

　でもそんなこと、今さら嘆（なげ）くようなことではない。それが、たとえ異母きょうだいたちからの嫌（いや）がらせだったとしても。

　だから、そう。フェリシアが現に驚（おどろ）き、途（と）方（ほう）に暮れそうになっているのは、全（すべ）て目の前にいる人物のせいだった。いや、目の前に在る、姿絵のせいだった。

　それを見た瞬（しゆん）間（かん）、脳に走る衝（しよう）撃（げき）。まるで脳をジャックされたように勝手に映像が流れてくる。

　柔（やわ）らかそうな黒の髪（かみ）。ヴァイオレットサファイアの高貴な瞳（ひとみ）。常に甘い微笑（ほほえ）みを浮（う）かべて、たくさんの人々を虜（とりこ）にする一人の男──ウィリアム・フォン・シャンゼル。

　小国シャンゼルの王太子。

　そして、その横に並ぶ、かわいらしい女の子は──。

「ああ……そんな、うそよ……っ」

　フェリシアは理解した。思い出した。いわゆる、前世の記（き）憶（おく）というものを。

　ここが前世で知った乙（おと）女（め）ゲームの世界で、自分が転生者だということを、フェリシアは思い出してしまった。記憶の中の〝フェリシア〟は、王太子ルートにおいてヒロインをいじめ、最終的に殺される。つまり。

「私は、悪役!?」

　空は快晴。外は賑（にぎ）やか。

　誰（だれ）もが新国王を祝う最中（さなか）。

　ただ一人、フェリシアだけがこれからやってくるであろう未来に絶望していた。