隣の美少女がやたらと占いを無理強いしてくるけど、占いなんかで陰キャの俺がモテ男になれる訳ないだろ!
スズヤギ
第1話 キャラクター占い
「2年になって陰キャのあんたの隣の席とは新学期そうそう私もついてないわー」
「…………悪かったな」
「うわ!喋ったよ。その瓶底眼鏡で見られると目がデカすぎて怖いんですけど?ミ◯オン?」
「…………黄色くもないしオーバーオールも着てないぞ」
「一応会話のキャッチボールは出来るようね。はぁ〜何ヶ月も授業中に無言なんて私には耐えられないし相手してやるから感謝しなさい」
高校生活2年目になってのクラス替えは最悪のスタートだ。
隣には学校でもカースト最上位の美少女である市川佳純(いちかわかすみ)が不機嫌な顔をしてこちらを睨んでいる。
入学してすぐに持ち前の美貌で学校中の噂になった彼女だけど、評判は真っ二つ…
ストレートに俺の痛いところをえぐり込んでくる無神経な物言いと、クラスでは誰も話かけて来ない陰キャの俺にでも臆せず声をかけてくる気さく?な性格が原因だ。
男子に対してはもっぱら塩対応と噂はあるが。
ちなみに俺は正確には陰キャではない。
ラノベやアニメやゲームが大好きなだけでインドア派に見えるが、勉強もスポーツも得意な方だし他の趣味はアクティブ系が多い。
陰キャの原因は家族が大きく関係しているんだが……
授業が始まると10分とたたずに彼女が話かけてくる。
「さっきからこっそり読んでるのは……エッチな本だな!」
「ちょ、ちょっと何すんだよ!返せ」
「そこ!静かにしなさい!」
「はい。すいません……」
いきなり雑誌を奪われてつい大きな声を出してしまった。
俺だけ怒られるなんて理不尽だ。
隣ではニヤニヤしながらもアッカンベーをしている美少女が。わざわざ綺麗な顔を崩すのはもったいないよ。
「さーてさてどれどれ……なにこれ?あんたやっぱオタクのロリ好き?キモ。とんだ変態ね」
「今月号は好きなアニメクリエイターのキャラデザイン特集なだけだよ」
「ふ〜ん。まあいいわ。それよりこんな雑誌でもきっと…あったあった!」
雑誌をパラパラとめくり今月から始まった占いコーナーのページで手が止まる。
「えーと……何なのこの占い?」
今回連載が開始された占いコーナーはオタク系雑誌という事もあり特殊なのだ。
10種類の髪型をした女の子キャラの中から好きな子を選んで占うらしい。
「ちなみにあんたの好きな髪型は?」
「ポニーテールでその中では一番可愛いキャラ」
「キモ!しかも私の髪型と同じじゃない。こっちのツインテールにしておきなさいよ」
「ツインテールは幼くてロリコンっぽいからやだ。ポニーテール最強」
「マジキモいんだけど!?そんな事より占い占い」
『ポニーテールの隣のあの子と運命的な出会い。彼女の願いを聞いてあげて♡ ラッキーカラーは白!』
「げっ!?あんたもしかしてストーカー?これあんたが書いてんじゃないの?」
怪訝そうにこっちを見てくるけど俺のせいじゃない。
それに好きなアニメのポニーテールキャラはいつも笑顔で優しい表情だから似ても似つかない。ふっ偽物が。
「誰がストーカーだよ。占いそんなに好きなのかよ?」
「今の私は占いで出来てると言っても過言ではないわ」
どうだと言わんばかりに十分に発育した胸をあまりにも強調するので目を逸らす。
「ちょっと!いやらしい目で舐めるように見ないでくれる?犯罪よ」
「見てないし興味ないし舐め回してないし。それより占いで出来てるってひょっとして女子高生占い師?」
「ばっかじゃない!これだから素人は。私は占いで人生が変わったのよ。あんたも占いを信じてみればきっと生まれ変われるわよ」
占ってもらうだけなのに今って玄人になる準備でも必要なのか?
そもそも今の生活に満足してるし別に生まれ変わりたいなんて一言も言ってないよ?
「お前以外と面倒くさい……」
「ほほう喧嘩なら買うわよ。大好きなポニーテールのキャラの占い信じないなんてあんたのキャラへの想いはそんなもんか?」
「俺がミク(キャラ)を裏切るわけないじゃないか!!願いでもなんでも聞いてやるよ!あっ」
「じゃあ俺のつまらない授業をお願いだから静かに聞いてくれるか?」
「はい。すいません……」
隣のポニーテール美少女が息を殺して「ククク」と俯いて笑ってる。この女はいったい何者なんだ?
陰キャが目立ったら溶けちゃうからダメなんだよ?
授業が終わり休み時間になると得意げな顔をした隣の住人がこう言い放つ。
「さあ下僕に私の命令を下すわ。私が持ってくるいろいろな占いを信じて行動しなさい。最終目的はあなたに恋愛運……モテ期をもたらす事よ」
「下僕じゃないし命令じゃないし願いだし。占いを信じて行動すればいいんだな。モテ期はどうでもいいけどポニーテールへの愛を見せてやるよ」
「私を見て言わないでよキモいから」
「可愛い方のポニーテールに誓っただけだよ」
「やっぱ私じゃない」
「隣にいるのはどこかの武士ですか?チョンマゲですか?バカ殿ですか?」
「殺す」
もちろんカースト最上位のポニーテール美少女が可愛くない訳がない。
ちょっとからかってみただけで、個人的に3次元の女子が苦手で興味がないだけだ。
「あ、ちょっと待って。最終目的ってそんなロングな願いなの?モテ期なんて一生来るわけないし」
「やっぱり偽りの愛ーー」
「やってやるよ!」
即答。その後すぐに後悔したのは言うまでない。
昼休みになるとカースト最上位の力を思い知る。
「佳純〜お弁当食べよう」
「じゃあここ拠点にしよっか?」
勝手に隣の席で拠点基地を作るな。
女子数名がわらわらと集まってくる。
静かなお昼のひと時が台無しだ。
俺は1年の時からずっとぼっち飯を食べ慣れているので、得意技のノイズキャンセラーを発動させて自分の世界に入り込み、弁当を広げながらラノベを読み始めた。
「佳純は席運悪かったねー。せっかく一番後ろの席なのに肝心の……ねー」
「そお?私も最初は『げっ!』って思ったけど座ってみたら快適だよ。コイツ結構ノリも良いしキモいけど面白いよ」
「1年の時に同じクラスだったけど典型的な陰キャで無口で声も聞いた記憶ないんだけど?」
「ちょっとみんな聞こえるってば……」
「大丈夫だって今は官能小説に没頭してるから」
「「えっ!?」」
「多分ロリ系官能小説だな〜。みんなも目で犯されないように気をつけてね。目を合わせたら負けだよ」
「「う、うん」」
なんだかチラチラと視線の気配を感じるけど、毎度の事だ。
ラノベはまだまだ女子受けが悪いからなー。
今日はやけに空気が張り詰めてて緊張感が違うけど。
気にせず弁当を食しているとーーー
「これキャラ弁じゃない!しかもポニーテール女子のクオリティ高過ぎでキモいんですけど?あんたが作ったの?」
「妹」
「あんたひょっとして妄想癖まであるの?妹がキャラ弁…しかもそんなマニアックなの作るわけないじゃない。それとも妹にキャラ弁作らせたと現実と妄想の境がわからないのね……相当なロリ鬼畜ね」
し、しまった……
今まで俺を避ける奴はいても弁当を覗き込む物好きがいるはずもなく、普通に警戒心もなく弁当を広げて食べてしまった。
「妹は現実にいる…多分。こ、これは妹が無理矢理ーー」
「みんな聞いた?無理矢理だって!」
弁明しようとした拍子に、あどけなさの残る童顔の女の子と目が合う。
「キャー!目が目が合っちゃった!やめてー!犯さないでー!」
「俺はメデューサか!犯すって……ポニーテール!お前の仕業だな!」
俺はポニーテール美少女を睨みつけた。
「や、やだ!今度は私を穴が開くほど見ないで!………う、うう」
「ちょ、ちょっと佳純大丈夫?」
「う、うう……うははは!もう無理。超受ける!みんな嘘に決まってるじゃない。ね、コイツ面白いでしょ?」
「てーめー!」
俺が怒りに震えているとなにやら机から取り出した。
「いーのかなぁ〜?このイラスト特集号いらないのかなぁ〜?」
「ごめんなさい。私が悪うございました。」
「うん下僕らしくて素直でよろしい!」
「下僕ではございません。悪役令嬢様」
「誰が悪役令嬢だ!」
クッソー!占いを読んでからも雑誌は奪われたままなのだ。
今回の特集号はあまりの人気に当日完売しているので2度と手に入れる事は出来ないだろう。
約束を破られないように雑誌を保険として人質に占いを強要されるハメに……
取り戻すには占いでモテるしかない……無理だろ普通。
これでモテるならイケメンの必要性がなくなっちゃうよ?
肩をがっくりと落としているとーー
「な、なんだか佳純がこんなに男子と話すの珍しいね。いつも塩対応でこっちがドキドキするくらいなのに。すっかり仲良くなって」
「「仲良くない!!」」
「息もピッタリじゃない。鈴木くん佳純をよろしくね」
「鈴木って誰よ?」
「俺だよ。鈴木快斗(すずきかいと)」
「鈴木って……超凡人の匂いしかしないわね」
「全国の鈴木さんに謝りたまえ」
「申し訳ございませんえんよこしな」
「それじゃ喝上げじゃんか」
「夫婦漫才?」
「「誰が夫婦だ!!」」
ま、まずいコイツの連れだけでなく確実にクラスで目立ってる。
もともとカースト最上位の彼女だから男女を問わず注目を浴びている。
過去に一刀両断されたイケメン達がこっちを……俺を睨んでいる気がするのは気のせいではないだろう。
「そろそろ次は体育の授業だから着替えに行こーか?」
「覗きに来るなら今のうちよ」
「覗きは犯罪です。3次元に興味はありません悪徳代官」
「そこは悪役令嬢だろ!」
「ほら佳純ー!遅れるよー」
うう……昨日買ったラノベが全然進まなかった。
* * *
授業が終わり席に戻ると分かりやすいくらい落ち込んでるストレートの髪を下ろした美少女がいた。
「どうしたんだよ?」
「髪を結んでたゴムが切れちゃって……超最悪」
そういえば体育の授業で妹もたまにあるって言ってたっけ。
「これ使えよ」
「あ、白いシュシュ。こんなのどうしたのよ?」
「弁当のバンド代わりに使ってる奴だから良かったら使ってあげて。弁当箱より女の子の髪につけた方がそいつも本望だろうし」
「ありがとう……」
少し照れながら白いシュシュを使ってトレードマークのポニーテールを作る。
「ね!早速占い通りになったわね」
恥ずかしそうに、微笑む彼女はちょっとだけ新鮮に見えた。
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