第31話 勝つには勝ったが……

『な、な、なんとおおおおっ、あっという間に女子力バスターズ五人を倒したゴブリンキング、そのカエサル選手をいともたやすく下したのは魔法使いユメ選手の体術でしたあああああっ! 信じられません! 信じられませんねえ、解説のトモエさん!?』


『…………』


『トモエさん? あまりの展開に言葉も出ませんか? あーっと、今担架を持った救護班が会場に到着しました! 全員命はある様子です!』


『……今の試合、一番命をすり減らしたのはおそらくユメちゃんね』


『あーっと! やっと解説のトモエさんが口をきいてくれました! そうかもしれませんね! 彼女が体術であそこまで戦えるという話はここまでの試合ではまるで分かりませんでした! 人は見かけによらないものです!』


『できれば、二度とああいう戦い方はして欲しくないものだわ』


 声を張り上げる実況とトモエのやり取りは試合後も続いている。


 トモエは自分が女子力バスターズと戦うときを恐怖していたのだと、ハイテンションな実況はまるで理解していないのだった。


『では、女子力バスターズの奮戦の熱も冷めやらぬままですが、次の試合に進みたいと思います。えー? ……ここで情報が入ってきました。ゴブリンヒーローズ、女子力バスターズ、ともに重傷者多数のため、本日の試合は公平を期すため、次の試合を最後にする運びとなりました!』


 やたらでかい声で実況がわめいてくれるおかげで控え室でヒロイたちを見舞っていたユメにも状況が伝わってきた。


 はっきり言って、決勝戦を明日以降にしてくれるのは大賛成だ。


 何をしてしまったのかははっきり思い出せないが、今日はもう意識を失ってしまいたいくらい疲れた。


 本当ならヒロイたちに回復魔法をかけてあげたかったが、そういうことは軍のスタッフにまかせっきりにしている。


 それでも、仲間一人づつの無事を確かめたい。オトメが殴り倒されたところまでは覚えているのだが……。


 ユメがふらふらと立ち上がると、思わぬ人物が憤怒の形相でこちらを見てきていた。


 その人物はユメの元まで足早に歩いてくると、いきなりバチン!と頬を平手打ちした。


「あれほど、『よっぽどのときじゃないと使わないように』って注意したのに!」


「師匠……」


 平手打ちした人物、クリスはいささか怒気を緩めて続けた。


「試合だったじゃない。殺し合いじゃなかったじゃない。『優勝しないと北伐できないわけじゃない』って言っておいたじゃない」


「わたし、宝石を……飲んだんですか」


「無意識にやったなんて余計たちが悪いわ。あの戦い方は北伐中に『死ぬよりマシ』ってときだけに使うように思って教えたのに。だいたい、誰も彼もが宝石を飲めば強くなるわけじゃないのよ。それはあなたが持ち得た、とても珍しい体質なんだから。あそこまで強くなったのもたまたま、あなたが飲み込んだ宝石に適合しただけ。運が良かったのよ」


 でなきゃみんな竜みたいに宝石を飲みまくるわよ、と付け加えてもう一発クリスはユメの頬を叩いた。


 修行中ですら、一度もユメにもスイにも手を上げたことがない師匠がここまで怒っている。


 ユメはオトメから渡された宝石を飲んだ時のことをよく覚えていなかった。


 ただ、負けたくなかった。それだけだった。


 やがて、呆けたままだったユメの耳に本日の最終試合が終わった旨の実況が聞こえてきた。


『けっちゃーーーーーく! チーム・ラストアライブ! 準決勝へコマを進めました! 皆さま、明日の試合はこのラストアライブVSアストリット選手の試合から始まります。そして、その試合の敗者が先程激闘を繰り広げたチーム・ゴブリンヒーローズとの三位決定戦を行います!

その後は、待ちに待った決勝戦でーーーーーす!!』


 相変わらずアホみたいなテンションのハーピーの亜人の実況が状況を説明してくれている。


『現時刻は十五時! 予定では本日中に決勝戦まで行われるはずでしたが、先ほどのチーム・ゴブリンヒーローズVS女子力バスターズの試合で負傷者が多く出たため、また会場も選手たちが予想よりも破壊してくれたために、一旦修復のために残りの試合は明日という運びとなりました!! 業務連絡を終わりまして、いやー! 解説のトモエさん、先ほどの試合、どう見ますでしょうか!?』


『ラストアライブ、種族がバラバラでかつバランスが取れたいいチームだったわねえ……。少し女子力バスターズに似てるのかも』


 さて、今トモエが解説しているラストアライブとかいうチームとあのソロのエルフ少女、アストリット、どちらかと決勝で戦うことになるわけだ。


 ユメはなんとなくだが、アストリットがまた圧勝する気がしていた。

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