第26話 次なる相手はなんと……
控え室に戻っている間に、スイが文句を言ってきた。
「ひどいよユメお姉ちゃん、まだ待ってくれてるファンもいたのに」
「あのねえ、スイちゃん、わたしたちはアイドルじゃないの。ただの冒険者なの」
「……疲れた。冒険者ってこんなものなの?」
そこで、ハジキが珍しく、自分から言葉を発した。
「まさかぁ、若い女の子が六人も組んでるからちょっとはしゃがれただけよ。もし次の試合、負けでもしたらみんな手の平を返すわよ」
「なあ、ユメ、あたし組み合わせとかよく見てなかったけどよ。後何回勝てば優勝なんだ?」
剣舞を演じていたにも関わらず汗一つかいていないヒロイが訊いてくる。
「えっと、二回よ。さっきのヘル・ウォールズとの戦いが準々決勝だったもの。あいつら、一回も戦わないでシードでベスト8に選出されたわけ」
「そんな連中をほんの半年も冒険者やってないあたしらみたいなガキンチョがぶっ飛ばしちまえばそりゃ、ファンも付くかあ」
そんなこんなで試合は進み、女子力バスターズの次の試合が巡ってきた。
相手は試合会場を対にした向こう側の控え室から出てきたのでどんな連中かは見てみないと分からない。
「ぎおおおおおおおおおおおおおおっ!」
なにやら自分たちに向けられているものとは違う種類の歓声が響く。
まるでモンスターの鳴き声の様だ。
ユメはますます敵がどんな相手か早く見たくなって目を凝らし、我が目を疑った。
なんと、敵チームの相手は全員ゴブリンだったのである。
『何やら先程観客席に現れたとのことで、大人気の女子力バスターズ! 二回戦ではヘル・ウォールズを奇策であっという間に破りました! 対するは、な、ななんと、メンバー全員がゴブリンという異色のチーム、その名もそのまんまゴブリンヒーローズです!!』
ユメは目の前にしたゴブリンを見て取ったが、それぞれが普通のゴブリンではない。
人間同様、モンスターも長く生きれば知恵も付ければ力も付ける。そんなモンスターたちの中に在って実はゴブリンは最も可能性に満ちた種族であると言われているのだ。
言葉も喋るようになるし、魔法だって使うようになる。
ゴブリンには生産性がなく、相手から奪うことしか考えないが、いずれ強く成長する個体も出てくる。
まずは長く生きれればハイゴブリンかホブゴブリンへと進歩し、魔法を使うようになればゴブリンウィザードに進化する。
人間には見分けができないが一応雌雄があり、繁殖力も同じ最弱モンスターのコボルトと並んで非常に高い。故に中には魔族が信奉する「邪教」への信仰に目覚め、そいつが雌だった場合ゴブリンシスターなるものになるらしい。このゴブリンシスターは回復魔法まで使いこなし、群れを率いていることもあるという。
ナパジェイだから起こりうることであるが、ゴブリンが力を付けロードやチャンピオンが誕生すると多くの群れを引き連れ、集落のようなものを作ることさえあるという。
大陸では誕生したてで人間に暴力を振るうか、村を襲うなどして、初心冒険者や憲兵に退治されてしまうのでそこまでのゴブリンは生まれない。しかし、ナパジェイでは「退治されない生き方」を選ぶ自由がある。ゴブリンが自己研鑽に励んでいても別に人間は見て見ぬふりだ。
今、目の前にいるゴブリンどもはどういう経緯でか、ゴブリンロードやゴブリンチャンピオン、ゴブリンシスターなどが六匹も群れ、最弱モンスターの汚名を返上すべく集ったのだろう。
なるほど、先程の鳴き声のような歓声は観客の中にいるゴブリンたちが上げたものか。
『ゴブリンヒーローズはゴブリンロード、ゴブリンチャンピオン、ゴブリンウィザード、ゴブリンシスターがゴブリンパラディン……パラディン? がゴブリンキングに率いられ、まとめ上げられたれっきとした六人組の冒険者パーティのようです。解説のトモエさん、驚きですね!いくらナパジェイとはいえ、ここまでゴブリンがお互いに協力し合っているのは!』
ユメが黙考しているとその疑問に答えるように実況が答えを言ってくれる。
『そうねえ……、でもこれこそが天上帝の目指したものだったのかもしれないわ。ゴブリンがゴブリンであるというだけの理由で差別されず、可能性を摘み取られない世界』
しかし、それでも、負けてやるわけにはいかない。
「みんな、やるわよ。まずは補助から!」
ユメは皆に補助魔法をかけていった。
ヒロイとヨルが前衛に立つ。
普段と違う赤銅色の銃を構えたハジキ。いったい如何な弾丸が詰まっているのやら。
スイは攻撃魔法を詠唱を始め、オトメは回復のため、最後列に位置した。いつもの配置だ。
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