第22話 ユメの作戦
さておき、五分ほどの休憩の後、女子力バスターズはこのヘル・ウォールズとの連戦となった。
ユメとしては対戦カードの不公平さに不満を述べたかったが、これがルールなのなら仕方がない。
『だーいにしああああああい! 初戦を見事に勝利で飾った連戦の女子力バスターズVSヘル・ウォールズの対戦が今始まります!! さて、解説のトモエさん、このカード、改めてどう見ますでしょうかッ?』
『そうねえ、明らかにヘル・ウォールズの方が有利だけど、そこは女子力バスターズの戦略と戦術次第じゃないかしらあ。個人的には女子力バスターズに頑張ってもらってジャイアントキリングが見たいんだけどね』
『おおっと、どうも解説のトモエさんはかなり女子力バスターズ推しのようです。そしてそれは観客とて同じ。声援はかなりの割合で女子力バスターズに向いております!』
実況が言うように、今回の試合の観客の熱もかなり女子力バスターズに投げかけられている。
が、相も変わらず「結婚してくれ」だのそんなのばかりだった。
『第二試あああああああい! かあああああああぁぁいぃしいいいいいいいいいいイイ』
「はあ……、とにかく補助かけていつも通りに行くわよ」
ユメはさっきよりも多めの補助魔法をヒロイとヨルにかけ、突撃してもらった。そして、スイには魔法で攻撃してもらうように指示を出し……。
カキン! カキン!
「!?」
ヨルの二刀流による攻撃も、ヒロイの刀による攻撃も、まるで相手の前衛に通らない。
そしてヘル・ウォールズの後衛が撃つ魔法攻撃をまともに食らい、戻ってきた。
「ユメ、すまねえ、あの甲冑、まるで斬れねえや」
「なにか魔法で防御を講じてやがる。刃が通らねえ」
ユメが二人の話を聞き終えたころ、スイの魔法攻撃が相手に飛んで行った。
「バーニング・バースト!」
すると、相手の前衛が鏡のように磨かれた盾を掲げ、スイの魔法に当てた。
ビカッ!
まるで反射されるかのように、スイの魔法がそのままユメたちに飛んでくる。
まずい!
防御しなければ。
「オーラ・ウォール!」
ユメが光の魔法で壁を作り、スイの魔法をやり過ごす。
「くっ!」
しかし、威力はスイが放った魔法そのものだ。なんとかしのぎ切ったが、こちらの魔法をそのまま相手に返すマジックアイテムか何かを持っているらしい、ヘル・ウォールズは。
なるほど、これにヒロイとヨルの攻撃を受け付けない硬さを誇りつつ、後ろから魔法で敵を倒す戦術なら無傷で冒険から帰ってくるのもうなづける。
「全員後退! 控え室直前まで下がって! 相手の魔法が届かない位置まで逃げるの!」
ユメは即座にそう指示を出した。
このままではこちらは攻められない上に相手にダメージすら与えられない。
「一旦作戦タイムよ」
ヘル・ウォールズはユメたちが距離を取っても前に出てくる様子は見せない。
普段モンスターばかり相手にしているため、敵が作戦を立ててこちらに向かってこない、なんて状況は想定していないのだろう。
「作戦って、どうするつもりだよユメ」
「剣も効かねえ、魔法は反射される、多分ハジキの弾丸も効かないぜありゃ」
「…………」
なにか、なにか、作戦は無いか。
ユメは必死で考えた。
落ちたら間違いなく死ぬ高さの巨塔の螺旋階段を上り、クリス師匠のところまで行って、修行した日々の中に答えは無いか、探した。
「待てよ。落ちたら死ぬ……?」
ユメは相手に弱点が無いか探した。
あの甲冑。あの重さ。あの硬さ。
それを見つめ続けたとき、ユメに天啓が降りてきた。
「スイちゃん、前進! 魔法を撃って! ただし相手の真横に。威力の高い魔法をわざと外すの。当てちゃ駄目よ? できる?」
「う、うん。わかった! わからないけどわかった!」
そしてスイはユメの指示通りにたった一人で魔法が届く距離まで突っ込んでいき、
「フレア・ボム! ボム! ナパーム!」
ユメの指示通りに、今やっとのろのろとこちらに近づいてきているヘル・ウォールズの隊列の横に魔法を放っていった。
それで石畳が割れ、地面が深くえぐれる。
「ハジキちゃん! それ、手榴弾だよね? それも相手に当てないように投げて! 敵の真横に放って爆発させるの!」
「……ん」
それだけでハジキは何かを察したようで、前に出ていき、手榴弾のピンを抜いて、敵に投擲した。
ただし、相手の横に。当てずに。
「おいおい、全然当たってないぞ! やる気あんのか!?」
「ただのやけくそだろ」
ヘル・ウォールズはこちらに魔法が届く距離までは防御を固めながらじりじりと追い詰めるつもりらしい。
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