第23話 ユメの作戦2

「ヨルちゃんヒロイちゃんは仕上げがあるから、ここで待機! オトメちゃんに傷を治してもらっていて!」


 ユメは叫ぶ。


『あなたの魔法は、殺す魔法じゃなく、壊す魔法』


『仲間のために魔法を使う、魔法使いになりなさい』


 脳裏に師匠に言われた言葉が思い出される。


「さて、わたしもそろそろ行くかしらァ!」


 ユメは走った。相手の『真横』に魔法が届く距離まで。


 その頃にはスイとハジキがかなり穴を空けてくれていた。


 そう。二人が狙っていたのは、ヘル・ウォールズではなく、その横の地面。


「ファイアー・アーチ!」


 ドッ!


 またヘル・ウォールズの真横の穴が大きくなる。


「アイシクル・ランス!」


 カキン!


 これはヘル・ウォールズの足元に撃ち、地面が凍り付き狙い通り滑りやすくなる。


「フレア・ボム! バーニング・バースト!」


 炎の魔法を空撃ちしまくると、そろそろ人一人が埋まるくらいの穴がヘル・ウォールズたちのいる場所の横の地面にできていた。


「仕上げ! ヨルちゃん、ヒロイちゃん!」


「おうよ!」


 さすがにもう二人ともユメの狙いが分かったようで、ユメのところまで突っ走ってくる。


「光輝剣!」


 シャイニングソード。ユメがキョトーに来た、ヨルが仲間になったあの日、食人鬼をヒロイごと貫いた、物質の硬度を無視する光の剣だ。


 ユメはクリスとの修行で同時に二本、それも効果時間も十秒程度では収まらないほどこの魔法を極めていた。


「いくぜおらあっ」


 光輝剣を受け取った二人はヘル・ウォールズに突っ込んでいく。


 あの剣なら、敵の甲冑が如何な金属でできていようと関係ない。魔法で防御される恐れはあるが……。


「やばい、避けろ皆!」


 ヘル・ウォールズの前衛が焦り始める。流石に光輝剣を防ぐほどの魔法は鎧にかけていなかったか。


「よ、避けるったって、横には穴が。あ、あ、ああああああああああ!」


 ドスン!


 ヒロイが振り下ろした光輝剣を避けた右端の前衛が、スイたちが魔法で掘った穴に落下する。


 ヨルが振った光の剣が相手の左端の敵の甲冑を切断したところで、もう片手の攻撃をかわしたところで、足元の氷に滑って穴に落ちた。


「わあああああああっ!」


 ドテン!


「ひ、怯むな! あれは魔法の剣、いつまでも使えない! 撃て! 撃て!」


 流石に光輝剣が消えかけたところでヘル・ウォールズの後衛が魔法を詠唱しようとするが、もう遅い。


 ハジキの弾丸が後衛の甲冑の隙間に突き刺さる。


 使っているのは銃だが、「介者剣法」と呼ばれる、甲冑で覆われていない柔らかい部分を攻める戦い方だ。


 後衛は後衛なりに武装しているのだが、前衛ほどガチガチに固めてはいなかったのだ。


 そして、まだ落ちていない前衛の残り一人に手を当ててスイが言う。


「タッチ!」


「うっ、うわあああああああっ」


 特に何もしていないのに、慌てふためいた前衛は勝手に逃げて氷に滑って穴に落下していった。


 さて、残りは後衛だが。

 こちらにはあのミラーシールドもない。前衛ほど武装もしていない。


 おまけにハジキに遠くから鎧の隙間を撃たれまくってボロボロだ。


 そこでユメが言う。


「まだやる? 早く落ちた連中助けてあげないと自重で苦しそうだけど」


「ま、負けなど認めるものか……。せめて最後に一撃! ヘル・フレイム!」


 まだしぶとく魔法を詠唱していた最後の一人が自爆覚悟で魔法を放つ。


 ドッカーーーーーン!


 凄まじい爆風が辺りにまき散らされる。


 しかし、ユメたちは無傷だった。


「これ、便利だねー。魔法はね返せる盾」


「いっ、いつのまに!?」

 

 ヒロイがあの前衛が使っていた魔法をはね返す盾を奪って魔法を放った後衛に向けていた。

 ユメは微笑んで、言う。


「ヒロイちゃん、使いなよ。わたしたちじゃそんな重そうな盾持てないよ」


「ああ、もらっとくぜ」


「こ、降参だ……」


 後衛の一人が、か細い声でつぶやく。


『ななななんとおおおおおおおっ! 第二試合! 勝者は女子力バスタァァアアアズです! あの帝国最硬のチーム、ヘル・ウォールズを奇策で下しましたあああああああっ!』


 何がそんなに嬉しいのかと言いたくなるほどの大声で女性実況が女子力バスターズの勝利を宣言した。


『さあ、解説のトモエさん、まさかの結果となりましたが、この結果に関して何かありますでしょうか?』


『ええと、最初から光輝剣を使っておく、って手は駄目だったのかしら? ってちょっと思ったけどお、相手の重さを逆手にとって落とし穴に落とす作戦は見事だったわねえ。魔法の射程の長さそのものが女子力バスターズが勝っていたのも勝因ね。これは次も楽しみよお』


『ジャイアントキリングです! 女子力バスターズ、まさかの優勝候補を二回戦にしてくだしてしまいましたあああああああ!』


 それを聞くと、お調子者のスイが観客席に向かって手を振った。


「うおおおおおおおっ、ナイスぅ! スイちゃーーーーーーーーん!!」


 すると、観客に混ざっているロリコンたちから激しい歓声が上がる。


 さて、次はどうなるのかと動向を見守っていると、


『えー、観客の皆様にお知らせがあります! 彼女たちが会場を穴ぼこだらけにしてしまったので、ヘル・ウォールズを救護し次第、会場を修復しますので、しばしお待ちくださーーーーーーいっ!!』


 女子力バスターズ一行はどちらかというと実況のテンションの高さに疲れ、互いの健闘を称える間もなく控え室へと戻っていった。

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