第89話 剣の修行は長く厳しいのです3

ブラックジャックのアイデアをオヤジに話し、いくつか試作品を作ってもらった。打撃部分は長さ30cmほど、中に重量のある金属を芯材にして、周囲を皮と綿などで包んである。グリップ部分はしなりがあり、手から抜けないようにストラップがついている。記憶の中にあったブラックジャックから貰ったアイデアである。


振った感じも良さそうであり、コジローは気に入った。ただ、これとて、相手に絶対に怪我をさせないという事にはならないだろうが・・・


とりあえずコジローは、人間相手の時には、よほどの強敵でない限りは、加速の魔法とこの武器だけで、次元剣を使わなくて済むようにはなったのであった。




それから、コジローは弓も購入した。遠長距離攻撃の手段をコジローは持っていないためである。


コジローは転移しながら攻撃するのが可能である。それは遠距離の相手には十分有効なのであるが。ただし、空を飛ぶ相手にはあまり有効とは言えない面がある。空中に転移で移動し、斬った後瞬時に地上に転移で戻るという方法は可能ではあるのだが、空を飛べないコジローには落下のリスクは大きい。


それに、この世界では割とよく弓矢の名手を見かける。コジロー自身も、弓を人並み程度には扱えるようになっておきたいと思ったのだ。


本当は、魔術師なのだからファイアーアローなどの魔法を使えるようになるべきなのだが、時空系以外の魔法を身につけるには、まだまだ長い時間がかかりそうなので、仕方がない。


マルスも弓をやりたいというので、マルスが使えそうな弓も一緒に購入した。



―――――――――――――――



早速、村に戻って裏庭の練習場で弓の練習を始めて見た。


コジローもマルスも弓は初体験、いきなり上手く行かなかった。


一度誰かに教えを請うたほうがよいかも知れないと思ったコジローは、ネリーが弓の名手だったことを思い出したが、毎日オーベルジュの仕事に追われるネリーの仕事をさらに増やすような事を言い出せず、独学で練習を続けるのであった。


しかし、数日も経つと、マルスはどんどん上手くなっていった。しかしコジローは思うように上達しない。


コジローの得意の時空魔法も弓の得手不得手にはまったく関係ない。マルスには才能があり、コジローには才能がない、ということなのか・・・


まぁ、予想通りだとコジローは思うのであったが。

やったらやっただけの上達はしている。

だが、才能がある者の上達速度には敵わない。

それが「ミスター平凡」コジローだろう。


ただ、やっているうちに、時空系魔法を弓に活用する方法を一つだけ思いついた。転移魔法を使って、弓の射出される場所と的(ターゲット)の直前とをショートカットしてしまうのである。


コジローが番える矢の前、そしてターゲットの直前に魔法陣が浮かぶ。コジローが放った弓は転移魔法陣を通過していきなり的の前に現れる。これならそうそう外すはずもない。ないはずであるが・・・


至近距離でも、正確に的の真ん中を射抜くのは、コジローには難しいようで、時々外してしまう・・・

コツコツ努力を続けるしかないと、肩を落とすコジローであった。。。



―――――――――――――――



もちろん、剣の修行も続けている。

今日はコジローは、マルスを連れてギルドを尋ねていた。


実はコジローは、冒険者で剣が上手い人を紹介してもらい、時々練習相手になってもらっていたのである。


魔法による補助を一切使わず、素の剣の練習をする。そのための剣の指導者を紹介して欲しいとリエに相談したのだ。


最初はリエ自身が教えると言ったのだが、ギルドマスターとして忙しく時間が取れない事が多く、結局、剣術が上手く人柄も良いCランク冒険者を紹介してもらったのである。


「コジローの剣の実力が大したことない」という真実が広まって、剣聖という噂が真実ではないという事になる事をリエは危惧していたのだが、それはむしろコジローにはありがたい話なのである。勝手に剣聖という噂が広まって過大評価されても良いことは何もないだろう。


師匠となったそのCランク冒険者の名前はコーグ。面倒見の良い人柄で、人望も厚い。ただ、コーグは現役の冒険者であるため、コジローは、時々、そのコーグに指名依頼という形で練習相手をしてもらう事にしたのだ。


ギルドの訓練場が空いている時はそこを借りて練習している。


最初、「剣聖がCランク冒険者に稽古をつけてやるらしい」という、例によって誤解された噂が飛び、見物人が集まってしまったのだが、始まってみれば剣聖のはずのコジローがコーグに歯が立たない。剣聖の噂は事実ではなかったのかと、見学者はそのうち居なくなった。


コーグに付き合ってもらい、加速ももちろん転移も使わず、素の状態でひたすら打ち合う。そして、時々悪いところを指摘してもらう。コジローはそんな練習を続けた。


努力の甲斐あって、コジローは素の剣技でも、Dランク冒険者と打ち合うことができる程度には上達していた。コーグは、コジローはこの調子ならすぐにCランクに届く剣技は身につくだろうと言ってくれる。だが、そのCランクであるコーグに、コジローはまったく勝てる気がしないのであったが。


だが、平凡であるということは、才能がないと言うこととは違う。一足飛びに才能が開花することはないが、努力した分だけは、地道に進歩するのがコジローの良いところでもあるのだ。努力は続けていけば、いずれより高いレベルに到達できるだろう。


マルスも練習に参加するようになった。真面目に練習に取り組むマルスをコーグも可愛がるようになった。剣の才能も意外とあるようだ。うらやましいとコジローは思うのだったが、仕方がない。


コジローはコツコツ続けるしかないと思った。日本に居た頃はそれほど努力家であったわけではないのだが、この世界は、みな生きるのに精一杯のところがあって、娯楽もなにもない世界であったため、暇な時にやる事があまりない。それが地道な努力が続く原動力であったかも知れない。


振り返ってみれば、日本に居たときには刺激が多すぎて、忙しかったのだなぁなどとコジローは思ったのであった。


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