第60話 モニカの正体2

ゼフトは、その研究の課程で、当然、命を生み出す事も研究した。


死霊術では、魂を魔力の籠もった物質に留めて固定することができるのだから、例えば死にかけた者を、異なる体に定着させて生き残らせたりすることもできるわけである。(それを人はアンデッドと呼ぶのだが)


では、この世に誕生してくる人間の魂は、どこから来るのか?人の魂が昇天し、また転生してくるのであれば、その間に居る世界とは?


それはゼフトにとっても未だ分かっていない事が多い領域なのであるが・・・


例えば、死にかけた魂を物質に憑依固定できるのであれば、新たに生まれてくる命に入れて固定する事も可能ではないか?また、自然に生まれてくる人間の胎児の魂は、どこから来て、どのタイミングで胎児の中に入るのだろうか?


そのような研究のため、ゼフトは、人間の夫婦の協力が必要となったのである。マドリー&ネリーともそのような時に出会った。


マドリーとネリーは冒険者として活動していたが、ある時、魔物との戦いでネリーが腹部に大怪我を負ってしまった。幸いにも、治癒魔法が使える魔術師が居て、一命はとりとめたものの、子供ができにくい体になってしまったのである。


子供については諦めていたマドリーとネリーであったが、ゼフトと奇遇があり、ゼフトの研究に協力し結果として子供を持つ事ができたのであった。


ただ「死霊魔術師に死者の魂を使って子供を産ませてもらった」そのような噂がマドリーとネリーについて囁かれるようになり、二人は街を出て死霊の森の近くに住むようになったのである。人間の協力者が居ることは、ゼフトにとっても思ったよりメリットがあることが分かったため、ゼフトも二人のために住む環境を提供する事に吝かではなかったのであった。


反面、不妊治療ができる魔術師の噂は独り歩きし、水面下で広まっていた。そして、真剣に噂を追い、マドリーとネリーのところまでたどり着いて来る者もあったのである。


二人はそのような、子供が欲しい夫婦とゼフトの間を取り持つようになり、現在に至る。

今でもたまにマドリー&ネリーの家を訪ねてくる客というのは、相談に来ていたのであった。




そのようなケースでは、ゼフトは基本的には "死者の魂" や "異世界の魂" を使ったりはしない。自然にこの世界に生まれてくる魂を、胎児のうちに肉体から脱落してしまわないように固定化する魔法を使っているだけである。


ただ、研究の過程では、実験として、死者の魂や別世界の魂を使う実験も行ったことがあった。そうして生まれてきたのがモニカだったのである。




モニカは、日本では、引きこもりのヲタク系少女であった。家に引きこもっている時、住んでいたアパートでガス漏れ事故があり、爆発に巻込まれて死んだのである。たまたまネリーと相性がよさそうな魂であったため、ゼフトが(本人の了解を得て)この世界に連れてきたのであった。


本来は、前世の記憶はなく、この世界の人間として普通に生きていくはずであった。しかし、ゼフトの調整がうまく行っていなかったのか、地球からの転生に無理があったのか、記憶が蘇ってしまったのである。


モニカの前世の記憶が蘇ったことを、当然ゼフトは知っている。ゼフトは心が読めるので、隠しておく事などできはしなかった。だが、両親には話していない。ゼフトがそのほうが良いだろうと助言したのである。ゼフトが異世界から魂を引っ張ってきて、ネリーに産ませたと言われても、ネリーはあまり良い気持ちはしないだろうとの配慮である。


だが、モニカには、日本での記憶がある。そして、同じ日本で生きていたコジローの事をゼフトから聞き、話がしたいと思ったのである。




二人は、二人しか分からない日本の記憶・文化について盛り上がる。この世界でそのような話ができる相手は初めてあり、いつまでも話は尽きない。


マドリーとネリーは、恋でも始まったかと余計な気を回し、やたらと泊まっていくようにコジローに勧め始める。


実はモニカは、コジローが日本にいた頃好きだったアイドルに少し顔が似ていたのである。コジローとしては、モニカとそういう関係になる可能性も否定はしない、という感じではあったのだが・・・残念ながら、モニカはあまりその気はないようであった。


日本の話ができるのは楽しいが、コジローの顔は、悪くはないが、十人並みの平凡な顔であった。もし、もっとハンサムであれは、反応は違ったのかも知れないが・・・



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