第59話 モニカの正体1
モニカがコジローに訊いた。
「あなたはどこの出身?」
コジローは、ゼフトに魂だけ連れられてきて、いきなり成人の年齢でこの世界に転生したのである。そのため、なんと答えていいのか少し迷っていたが、次のモニカの言葉に衝撃を受けた。
「私は、福岡、博多よ」
へぇそうなんだ、とコジローは一瞬聞き流しそうになったが・・・
いや、ちょ待て!
モニカの出身は「ここ」、マドリー&ネリーの家のはずだ!
そして、福岡・博多という、聞き覚えのある、懐かしささえ感じる地名だが────それは、この世界にあるはずがない地名。
そう、モニカは、ゼフトによって地球から、日本から、転生の実験でこの世界に呼び寄せられた魂であったのだ。
モニカは、この世界の人間として、普通に赤ん坊として母親から生まれたので、本来であれば前世の記憶はなく、普通にこの世界の人間として生きていくはずであった。
しかし、なぜかモニカは、10歳の頃、前世の───地球での───記憶を取り戻したのだと言う。
転生前のゼフトの "面接" の時の記憶もはっきりとある。(ゼフトも問答無用で別世界に転生させているわけでもなく、一応本人の意思を確認しているのである。)
ゼフトは、時空間魔法と死霊術の達人である。他の魔法もトップクラスの実力があるが、死霊術と時空魔法はゼフトのライフワークのようなものである。
死霊術とは、昇天する前に死者の魂を捕え使役する事ができる魔法である。魂が転生することを阻害する事になるのが忌み嫌われる理由の一つなのだが、「まだ死にたくない」という者の魂をこの世に留める事ができるので、意外にも感謝される事もある。
死者の魂は、何らかの魔力の籠もった物質に憑依させ固定することで、アンデッドとして使役することができる。アンデッド系の魔物で一番多いのがスケルトンであるが、これは、骨には魔力が大量に残っている事が多いためである。死者の魂が死を拒否してこの世に固執し、そこに魔力の籠もった物質があり、瘴気や魔力が大量にあるという時、アンデッドとして蘇るのである。資料術はそれを人為的に起こす手伝いをする魔法なのである。
魂のないただの物質をあたかも生きているように使役する魔法もあるが、その場合、使役される魔物はゴーレムと呼ばれる。ゴーレムはあくまで物質、地球で言うロボットのようなものなので魂は必要ない。ただ、ゴーレムは生み出す術者の組む術式によって制御されるので、あまり複雑な行動や判断ができない事が多い。ロボットと同じ、複雑なプログラムを組むほど複雑な事ができるが、プログラムを組む技術者の腕次第なのと同じ。ゴーレムの場合は魔法使いの力量次第という事になる。
死霊術では、物質の体を持たないアンデッドも作り出せる。非常に強い魔力が要求されるが、死者の魂が、肉体を持たず、そのままエネルギー体のような形でこの世に残る。何らかのエネルギーに憑依するようなものとも言える。いわゆる幽霊や悪霊という類のものになるが、この世界ではレイスと呼ばれ、物理攻撃が一切効かない魔物として恐れられている。
つまり、アンデッド系の魔物というのは、それを動かしている────以前は生きていた────魂が必ずあるのである。その魂が昇天するまえに、この世に残れるようにしたモノがアンデッドでるならば、ゼフトは、では昇天した後はどうなるのか?この世に誕生する前はどこから来たのか?ということに興味を持ったのである。
ゼフトは、魂の出元と行先について研究し、転生という現象があることを知った。また、異なる平行世界が多数存在している事も。
それを研究することは、この世の仕組み、生命の仕組みを解き明かす事でもある。ゼフトは、資料術を超え、生命魔法にまで発展させた。ゼフトはこの世界と命の構造の研究者なのである。
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