第108話 ミト、コジローを尾行する

倒したハーピーの死体を全て亜空間収納(マジッククローゼット)に収納したコジローは、街に戻るため街道を歩いていた。


本当は転移で街の近くまで戻れるのだが、ミトを一人置いていくわけにもいかないので、街道を歩いて帰ることにした。


道すがら、ミトと会話をかわすコジロー


コジロー:「で、仇のハーピーは居たのか?」


ミト:「いえ、襲われたのはここではないある」


コジロー:(ないのかあるのかどっちなんだ)


ミト:「コジローさん、街で剣聖って呼ばれてたあるね?剣聖あるか?」


コジロー:「呼び捨ててでいい。それと剣聖ではないよ。剣の腕は三流の魔法使い見習いだ。」


ミト:「テイマーではなくて?」


コジロー:「テイマーでもあるな。どちらかというとテイマーかも。で、なんで後をつけてきたんだ?」


誤魔化せてなかったか?と焦るミト。


ミト:「いや、たまたま・・・」


コジロー:「たまたま?」


ミト:「たまたま、コジローが依頼を受けた時、食事してたある。」


コジロー:「あーなるほど、そうだったのか」


ミト:「で、たまたま森の中を歩いてたら、コジローをみかけたある。」


コジロー:「なんだ、そうだったのかー。」


誤魔化せたか?とミトは思ったが・・・


コジロー:「で、なんで森の中を歩いてたんだ?一人で?危ないだろう?」


ミト:「いや、それは、人を探していて・・・」


もういっそ、コジローを利用してやれ、まずくなったら殺してしまえばいいとミトは思い、話を始めた。


ミト:「実は、私、隣のバネダス共和国からきたネ。バネダスはクーデターがあって、お受けが倒されたの知っテルカ?」


コジロー:「そうらしいな」


ミト:「ワタシは王族の下で働いてたネ。それなりに腕も立つあるよ、一人で森を歩いて問題ない程度にはネ。だからワタシは殺されずに脱出できたね。」


コジロー:「そうだったのか。」


じゃぁ置いて帰っても良かったかなと一瞬思ったコジローであったが、そういうわけにも行かないかと思い直した。


ミト:「王族は皆殺されたんだけど、実は王女様と王子様が、旅行中で城に居なかったので助かったね。その二人と合流しようと探してたアル。どうやら二人共無事にこのウィルモア領に逃れたと聞いて、ここまでやってきたけど、行方が分からなくて困ってたある。コジロー、知らないカ?」


そんな事をコジローに尋ねたところで手掛かりもないだろうと思っていたミトであったが、コジローの返答はミトの予想外のものであった。


コジロー:「奇遇だな、知ってるぞ。多分、今、俺の住んでた村にいる二人がそうだろ。」


『住んでた村・・・』思わず過去形で言ってしまった。コジローの胸に、少しの痛みが感じられたが、それは小さくなってきていた。もうあまり暗くはならない。


ミト:「ホントあるか!!そこに連れてって欲しいある!!どこあるか?!」


コジロー:「んー、ああ、じゃぁ、一度村に戻るか・・・」


考えてみれば、もう数ヶ月、コジローは村に戻っていなかった。特に村に用もないし、必要であればゼフトとはオーブのペンダントでいつでも連絡がとれる。コジローの転移のレベルも上がっていたので、今ではゼフトの研究所にも直接転移することができるようになっていた。



――――――――――――――――――――



モニカは結局、コジローと離婚(わか)れた後、ジョニーとは一度も会っていなかった。同じ村に居るので顔を合わすこともあるが、モニカがすっと逃げるのであった。


コジローはもう長いこと、村に戻っていない。モニカは時折、コジローの家に様子を見に行っていた。鍵をまだ持っていたので一度中に入ってみた。


壁の棚を開けてみると食器など、モニカと一緒に生活するのに使っていたものは一部残っていた。(棚もすべて亜空間収納となっているので、埃も被っていない。コジローの亜空間収納の内部は時間が止まっているためである。)


しかし、コジローの荷物は一切残っていない。コジローは亜空間収納に私物をすべて入れていたので、もともと荷物は少ないのだ。


コジローはもう、戻ってくる気はないのであろうか?


モニカは、コジローにちゃんと謝ろうと思っていた。離婚れたときには、意地を張ってちゃんと謝罪をしていなかったのだ。いまさら謝ったところで元に戻れるとは思わないが、せめて、以前のような友達に戻れないか、と淡い期待を抱いていたのである。



――――――――――――――――――――



コジローは、ミトが村に行きたいというので、ネビルのギルドで依頼完了の報告後、ミトと村まで一緒に行く事にした。実は、いつも転移で気軽に移動していたため、つい、村に行くか?と気軽に言ってしまったのだが、よく考えてみれば、村の場所だけ教えてやれば良かったのかも知れないと後で気付いた。だが、コジローも特にやる事や目的があるわけでもなく、ただ気の向くまま「気晴らし」に領内の街を転移しながら討伐依頼をこなしていただけなのである。


それもそろそろ飽きてきた。そろそろ、ウィルモア領を出て他の貴族の領地へ、あるいは他国を見て回っても良いかなと思い始めていたのであるが。


ミトを転移で村まで連れて行くという方法もある。領主が転移魔法を使って領内を移動しているという噂と、コジローが転移魔法を使うという噂も少しずつ広まっている。もういい加減、転移魔法を隠さなくてもいいんじゃないかとも思い始めていたコジローであったが、考えるとやはり色々面倒が起きる事が想像できるので、不必要に宣伝拡散しないようにしたほうがいいという結論になるのであった。


モニカの事があってから、憂さ晴らしで街道や森の中を歩き回って魔物を狩りまくっていたので、それほど転移を使わない移動も苦ではなくなっていたのもあるので、ミトとの旅を楽しむ事とした。




道すがら、コジローはモニカの事をミトに話した。浮気されて離婚れた話を自嘲気味に話すコジロー。話を聞いたミトは酷い話だと自分の事のように怒ってくれた。


ミトは不思議な女性であった。髪の色は黒。コジローとモニカも黒であるが、黒髪はこの国は意外と少ない。そして、顔の彫りは浅めで、地球でいう東洋人的な顔立ちをしているのである。不思議な話し方をする事もあって、コジローは中国人と話しているような気になっていたのだが。


また、ミトは強かった。時折、ゴブリンなどが出たりしたが、ミト一人でも問題なく瞬殺してみせたのである。なるほど、本人が言うように、一人で森を歩いても問題ないようであった。




ミトと一緒に街道を歩いていたコジロー達を三台の馬車が追い越していった。商人の馬車と、護衛の冒険者の馬車、旅人を乗せた乗合馬車のキャラバンと言ったところか。乗合馬車には数人の子供の姿も見えた。


馬車の姿はコーナーを曲がって見えなくなってしまったが、数百メートル先で馬車が止まったのがコジローの索敵魔法の反応で分かった。(コジローは街の外では常時索敵魔法を起動している。)反応からして戦闘に突入したようである。馬車の周囲に4~50人の反応がある。

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