第98話 コジロー、恋の行方

モーボヤのダンジョンから帰ってから、ジョニーとモニカの中は急激に近づいていた。


実は、モニカはダンジョン内で助けてくれたのがジョニーであると勘違いしていたのも理由のひとつだったのだが、それをコジローもジョニーも気づいていないのであった。


さらに、ジョニーはイケメンであった・・・


コジローの顔は、平凡を絵に描いたような顔である。

モニカはイケメンのジョニーには最初から好感を抱いていたが、平凡な顔立ちのコジローについては、悪感情はないものの、モニカにとっては「いい人」の域を未だ出ていないのであった。


コジローの顔も極端に悪いという事はない。が、良くもない。決して女にモテるという顔ではなかったのだ。対してジョニーは女性が誰でも好感を持つようなイケメンである。もしモニカが顔で選ぶとしたら、コジローに勝ち目はないのであった。


ジョニーがマドリー&ネリーの家の従業員・村人用食堂棟に、毎日食事をしにくる。


そして、その時に合わせるようにモニカが客用の食堂に隣接する食堂棟のウェイトレスを勤める。そのうちついには、モニカは仕事のない時も、客としてジョニーの食事に付き合うようになっていた。


それを離れたテーブルで食事しながら見ているコジロー。さらに離れたテーブルから見ているゼフト。気の毒そうな顔で見ているマドリーとネリー・・・。




コジローはゼフトのテーブルに近づいていき、思い切って恋愛相談をしてみた。


ゼフトは数千年を生きた、言ってみれば人生の大先輩である。その数千年の大部分はアンデッドとして生きた?ので人間の感覚を忘れている部分もあるだろうが、それでも生身の人間として千年近くは生きたと聞いている。さらには、ゼフトは人間の心が読めるのである。何かしら、アドバイスが貰えるかもしれない。


だが、


「恋愛など、ただの気の迷いじゃよ。どうでも良い事じゃな・・・。」


とゼフトは言った。




人間の若い男女が恋愛をするのは最初の10~20年程度。その時期にはそれがすべて、それが一番大切などと思うものだが、実際には、数十年後にはお互いに恋する感情などなくなるという。


大部分の人間が、100年も200年も続くような恋心は維持できないのだそうだ。


そもそも、恋と愛は全く違うとゼフトは言う。若い人間は恋を愛と勘違いするが、恋は生殖のための本能による生理的反応に過ぎないのだそうだ。


エルフやドワーフなどのように、人間の数倍以上の寿命を持つ種族になるほど、あまり恋愛=生殖に拘らなくなる。長命の種族ほど、子供が増えにくいという現象の原因かも知れない。


本当の愛というものがあるとしたら、それは、自分のためではなく相手のため "だけ" を考えられるものだろう。だが、人間同士の現実の恋愛というのは、自分が相手を 欲しい という欲求を満たす目的のものでしかないのである。


もし、自分が惚れた相手が、他の人間を好きになったとしたら、その相手と上手くいくように、相手が幸せになれるように協力してやることこそが愛であろう。


相手の幸せだけを考えるのが愛であり、ならば、その相手が自分である必要はない。自分と結ばれたい=つまり自分が欲しいという欲求をみたしたいのは、自分の「欲」の充足を求めているだけであって愛ではない。


そうと言われて、コジローは言い返せなかった。


つまり、もし、モニカがジョニーを好きだというのなら、ジョニーとうまくいってモニカが幸せになることを願うのが真の愛であり、自分が結ばれたいと思うのはただの自分勝手な性欲似すぎないとゼフトは言うのである。


実際のところ、モニカが「面食い」で顔でジョニーに惹かれている事を、コジローも責めることはできない。コジローもまた、日本に居た時に好きだったアイドルに似ているという、外見の好みからモニカに惹かれたのが始まりであったのだから。


人間の事例を見てみても、実際、結婚した夫婦は、かなりの割合で、晩年には不仲になっているか離婚している。


離婚しないまでも、お互いに「情」と「惰性」で共同生活をしている状態の者が多いという。それは男女の愛情というよりも、パートナーの友情に近いのかも知れない。


長命な種族も、全てとは言わないが、百年も一緒にいると、ほとんどの夫婦が別居状態になり、とくに制約がないなら離婚して二度と合わないようになるのだとか。


確かに、若い男女がお互いを求め合うのは、ある意味肉体に惹かれていると言える部分があるわけで。


老年の夫婦がお互いを思いあう気持ちは、出会った頃ののような本能に任せた激しい衝動というような恋愛感情とは違うのだろうと、コジローも思う。


ゼフトが言うには、数千年もの時を過ごすと考えた時、恋愛など、人生の極初期の僅かな時期の出来事であり、言ってみれば幼年期の戯れのようなものなのだという。


人間というのは、良い面というのは、あって当たり前の空気のようになってしまう。だが、嫌な面、不満はいつまでも目につくのだそうだ。


長く付き合うほどに、お互いの嫌な部分が見えてきて、それが積み重なっていく。


数千年も生きると考えた時、同じ相手と、その長い時をずっと一緒に居ると、やがて苦痛でしかなくなる事が多いとの事だった。


良い関係を維持するためには、適度に離れていて、たまに会うくらいで良いのだという。




なるほど、とコジローは思った。


言ってることは分かる。


分かるのだが・・・


そういう事を聞きたかったのではない。。。




自分も、ゼフトのようにアンデッドになって数千年を生きるのか、それは正直分からない。コジローにとって、寿命が来てその選択を迫られるとしても、それはまだ数十年以上先の話なのだ。


今は、生身の、若い人間として精一杯生きたいのである。




相談した相手が間違っていた・・・。




だが、肝心な事は聞けた。


「モニカは面食い。」


それは間違いないと、モニカの心を読んだゼフトが言っていたのだ。


だが、


「そんなものは、単なる性欲に基づく感情なので、長い目で見れば意味はない。」


ともゼフトは言っていた。


「モニカは、コジローの事を嫌っているわけではない、恋ではないにせよ、十分好意的な感情は抱いている。」


とも。


コジローにチャンスがないわけではないとの事だったのである。


だが、このままでは、いずれモニカの、イケメンを求める欲望が恋という衝動に変わっていくのは時間の問題である。


その前に・・・


まだ、モニカがはっきりとジョニーに心を捕らわれる前に、コジローは思い切って告白をすることにした。


出会ってから2年以上、もう十分であろう。



――――――――――――――


コジローに告白されたモニカ。


だが、ジョニーに心惹かれいている状態で、コジローの告白はモニカにとっては、即答できるものではなかった。


さらにマズイことに、モニカはコジローに告白されたことを、ジョニーに相談してしまったのである。


ジョニーも、出会ってまだそれほど長くはないが、モニカの事を好ましく思っていた。そして、ライバル心なのか独占欲なのか、コジローがモニカに告白したと聞き、ジョニーもまた、モニカに愛の告白をしたのである。


期せずして二人からプロポーズされた形のモニカ。


だが、考えるまでもない、モニカが女として惹かれているのは間違いなくジョニーである。


コジローは決して嫌いではない、いい人だとは思うが、男性としての魅力はやや劣る。


答えは考えるまでもなかった。


モニカはジョニーを選ぶ決心をしたのである。。。


だが、マドネリ村恋物語は意外な結末を迎えるのであった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る