第73話 剣聖、バトルマニアに迷惑する1

コジロー:「どうしてもやるのか?」


男:「無論だ」


森の中、谷間にある、開けた場所。コジローが一人でよく剣や魔法の練習に使う場所である。


そこに、一人の男とコジローは対峙していた。もちろんマロも一緒である。


コジローは今からこの男と決闘をする羽目になっているのである。



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先日のネビルの一件で「剣聖」の噂は益々広まり、コジロー自身さえも市中で噂を耳にするレベルになっていた。


これまでの噂に重ねて、


「サイクロプスとギガンテス、それに数百匹のトロールを相手にたった一人で戦い、ネビルの街を救った英雄」


という新たな伝説が追加されたためである。


しかもその目撃者は多く、公式なギルドの要請による仕事であった事も相まって、公式情報として広まってしまったのである。


そして噂は───伝聞を面白おかしく膨らませて伝えようとするのは人の習性なのだろう───例によって、事実以上に誇張されて広がっていた。トロールの数が数十匹から数百匹に増えているとか、中には、ギガンテスが千匹が押し寄せてきたなどありえない盛り方で話を膨らませようとする輩も居たとか。


過剰な噂が広まったせいで、コジローはやたらと声を掛けられるようになっていたのである。




噂が広まって、評判を聞きつけた者から危険な魔獣の討伐の指名依頼が来たりするようにもなった、それは良い。可能な内容なら受けるし、無理なら無理と断るか、無理が可能になるようにギルドマスターに相談して協力者を募り作戦を考えればよい事である。


だが「腕試し」で試合を申し込まれるのが困るのであった。


コジローは「バトルマニア」ではない。


この世界に来た当初こそ、剣道マンガで得た知識にゼフトの剣と魔法があれば、無双の活躍ができるかも?などと調子に乗っていたコジローであったが、強い奴と戦える事を


「オラ、ワクワクすっぞ!」


などと喜ぶ事は、既にできなくなっていた。


現実を知れば知るほど、自分の実力がごく平凡な一般人レベルを出ていないのを思い知らされるばかりなのである。


次元剣と「加速」と「転移」の魔法のおかげで、結果としては活躍した事もあるわけだが・・・しかし、この世界の人間は、コジローの常識の範囲を上回った超人が多いのを知ってしまった。


道具をしっかり活用するのも実力の内という考えもあるだろうが、それが通用しなかった時、自力・地力がない者は一気に大ピンチに陥るだろう。


たまたま道具の力で勝ちを重ねても、いつ、それを上回る相手が現れてもおかしくない。そんな者(人にせよ魔物にせよ)が普通に居る可能性がある。それを、この世界で経験を積むほどにヒシヒシと感じさせられるのだ。


そもそも、腕試しの試合など、受けても迷惑なだけ、コジローに何のメリットもないのである。


せめて、ギルドを通して指名依頼にしてくれれば、模擬戦であれば検討の余地はないわけでもないだろうが・・・


とは言っても、金を積まれたとしても、基本的には試合を受ける気はコジローにはなかったが。


そもそも、ギルドを通して依頼として申し込んで来る者などほとんど居ない。強者を倒して名を上げようなどと考える者は、たいてい、街中でいきなり声を掛けてくるのである。




コジローは勝負を挑まれてもすべて断って相手にしないようにしていた。だが、そうなると今度は、問答無用で襲いかかって来たりする者も多いのである。


相手が剣を抜いて襲いかかってきたのであれば、正当防衛が成立するのだから、殺してしまってもいいのかも知れないが・・・


殺してしまえば後腐れないかと思いきや、遺族に「仇」呼ばわりされたりする。


手加減しても、もし、大怪我をさせて後遺症など残ろうものなら、それはそれで恨みを買う。本当の実力者であれば、上手く手加減ができるかも知れないが、コジローは手加減は苦手であった。次元剣を使えば、確実に相手を斬ってしまうのだから・・・


それに、もし相手がとんでもない実力を持った「怪物」であったら、自分が怪我をするか殺される事になってしまう。


自分から強い相手を探してまで挑んでくるような者達である。並外れた実力がある者が多いだろう、コジローが絶対勝てるとは言い切れないのである。


ゼフトのくれた、ほぼ鉄壁と言えるマジックシールドがある限りは、そうそう負ける事はないであろうが、しかし、マジックシールドを打ち破る者が絶対に居ないという保証はない。


それに、やはり、奥の手はなるべく隠しておきたい。挑戦されたからといって自分の手の内をほいほい見せて広まってしまえば対策を講じられてしまうだろう。そうなれば、コジローの身がより危険になるのである。


しっかり実力がある強者であれば、弱点などないと動じないかも知れないが、実力のないコジローは、道具を使った奥の手はなるべく秘匿しておきたいのである。



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