第50話 ウィルモア伯爵の苦悩

クリストファー・ウィルモア。ウィルモア伯爵領の領主である。


彼がアルテミルの街を離れ、隣の城郭都市サンテミルへと移って10年になる。


ウィモア辺境伯の領土は面積はかなり広いが、辺境の山林地帯であるため大きな平野はなく、小さな盆地や平野、山中などに都市が散在していた。


クリスは、いずれ領主となるための勉強として、16歳で成人したときにアルテミルの代官に任命された。


15年ほどアルテミルの街で過ごしたが、その後、新しい都市を建設するプロジェクトを立ち上げた。

アルテミルの街が栄え人口が増えたため、いずれ限界が来ることが見えてきたためである。


17歳の時、幼馴染であったシャルロットと結婚した。シャルロットは平民であったが、ウィモア領内で手広く商売を行っている豪商の娘であった。


そして、18歳の時、娘が生まれた。娘の誕生にはっちゃけたクリスは、新たな城郭都市建設を計画し、突っ走ったのである。


無謀と言う声もあったのだが、若さと優秀な頭脳、父親になった高揚感で突っ走り、計画を成功させてしまう。


しかし、新たな都市の建設にかかりきにりなり、アルテミルには不在がちになる。次女アナスタシアが生まれて以降は、クリスはほとんどサンテミル常駐となっており、クリスを心配した妻シャルロットは娘たちを連れてサンテミルに移住したのである。




この世界には魔物が存在しており、特に辺境ともなれば危険な魔獣が闊歩している。その中で人間が安全に暮らすには、堅牢な外壁を持つ "城郭都市" とする必要がある。


しかし、城壁で囲われ面積が限られているために、住居や畑を簡単に増やすことができない。


人口が増えた時の対応としては、まずは街を囲うように外部に新たに城壁を築き、完成したらその内側へと移住していく方式あがる。


街を囲う壁が何層かの多重構造になっている街は、平野にある都市には多い。


しかし、この方法は、起伏の多い山間部の都市では少し難易度が上がる。山間部や渓谷などに合わせて立体的な城壁を作る必要があり、そこに資材を運ぶのも平地より難易度が上がっていく。


アルテミルでもこの計画はあり、進めてはいたのだが、なかなか捗ってはいなかった。


他に、一気に問題を解決する手段として、都市を作りやすい地形の場所を見つけ、そこに新しい城郭都市を建設してしまう方法がある。


もちろん、これも、決して簡単というわけではない。


街に隣接した場所を新たに開拓するのならば、人間も資材も街から供給できるのであるが、離れた場所となると、そこまで資材を運び、人間を大量に送り込む必要がある。そして、道中・建設工事中に、魔物に襲われる危険があるので、それを防ぎながらの工事になるのである。


新しい城郭都市建設は一大事業であり、ウィルモア辺境伯の領土でも、ここ100年度は新しい都市の建設は行われいなかったのだ。


クリスはそれを見事に成し遂げ、今や新しい街「サンテミル」は街として順調に機能しはじめている。




新たな城郭都市建設の功績を見て、任せられると判断した父親エイヴン・ウィルモア伯爵は、伯爵家当主の座をクリスに引き継いだ。


エイヴンは実は病を抱えており静養が必要であったのだが、それを押して領主を勤めており、それを知っていたクリスもまた、必死で仕事を覚え支えになろうと頑張っていたのだ。


病のためエイヴンがあまり遠出ができない事もあり、各地の街は代官に任せきりになっていたところが多い。そのため、目が届かないのを良い事に、私服を肥やす者なども出ていたのであった。


新たな都市サンテミルも、まだまだ建設途中である部分は多く、街としてまだまだ問題山積の状態である。

それに加えて、クリスが領主となってからは、領内の各都市を飛び回り、悪代官を粛清し圧政を改める必要があった。


ますます忙しくなったクリスは、精力的に各地を飛び回っていたものの、逆に、一番近く、一番よく知っている場所であるアルテミルの街が後回しになってしまっていたのである。




やがて妻のシャルロットもアルテミルに戻ってきて、居をアルテミルに戻したクリスであったが、それでも各地の視察・監察は数多く残されている。


結局、クリスは頻繁に領内を飛び回る日々となるのであった。


しかし、領内で、特にアルテミル周辺で、危険度の高いモンスターが頻繁に出没するようになっていた。商人や旅人の往来に、強い護衛が必要となってしまった。クリスも騎士達に街道の警備を指示していたが、限られた人数の中では限界がある。


いまだ建設途上、発展途上のサンテミルの街に関連した仕事はやはり多い。

せめて、以前のようにサンテミルにクリスが常駐していれば、移動の手間だけでも僅かでも減るのだが・・・、悪政を立て直すと住民に約束したのだ、今、クリスが居を移すということもできない。


そこで、アレキシは一つの提案をしたのである。


コジローを雇ってはどうかと。

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