第39話 革命前夜

◆領主の後悔


領主のクリス・ウィルモア辺境伯は、ギルドマスターのリエの手紙を受け取り、サンテミルの開発に注力しすぎてアルテミルを長らく放置してしまった事を後悔していた。


しかしすぐにはサンテミルから離れられなかったクリスは、とりあえず、娘のリヴロットと腹心の部下アレキシをアルテミルに送り込んだのだった。妹のアナスタシアまでついて行ってしまったのは誤算だったが。


アレキシは優秀な隠密部隊を部下に持っていた。姉妹がレメキを惹きつけている間、部下に屋敷の中を捜索させ、あっという間に裏帳簿まで発見していた。それによると、レメキは勝手に税金を何倍にも増やし、私服を肥やしていたらしい。


正直、レメキのバカさ加減にアレキシは頭を抱えていた。こんな分かりやすい私服の肥やし方していたら、すぐにバレるだろうに・・・


まぁ、そんな分かりやすい不正を見逃していた領主にも責任はあるのだが、逆に盲点だったと言えるかもしれない。正直、こんなすぐバレるようなアホな事を、まさかするとは思っていなかったのである。




リヴロットとアナスタシアは、本当は恩人であるコジローをいきなり呼びつけるなど失礼であるとは理解っていたのだが、レメキを引き付けておく必要があり、利用させてもらう事にしたのだった。


コジローも都合があるだろうし、いきなり来いと言われても、来られなくても仕方がないだろうとは思っていたのだが・・・。


そこに、ギルドマスターのリエが怒鳴り込んできた。


リエはレメキ子爵に面会を求めてきたのだが、


「リエ、久しぶりね!」


とリエを出迎えたのはリヴロットであった。


「リヴ?!アナ?!」


実は、リエと令嬢姉妹は旧知の仲であった。実は子供の頃からリヴロットに剣を教えていたのはリエだったのである。




◆代官ズは馬鹿だった


「・・・は?!」


リエからコジローをいきなり逮捕し牢に入れた理由はなにか?と姉妹に尋ねるリエ。

コジローが既に連れてこられていて、しかも牢に入れられていたと聞き驚くリヴロットとアナスタシア。


「な、何か手違いがあったようです、すぐに呼んでまいります!」


レメキは慌ててチリッソに事情を問い質したが、


「ええ、いつものように、丁重に、扱ってやりますから、任せて下さい。」


などとチリッソは言う。


実は、チリッソは馬鹿だった・・・。




「いや、丁重にというのは、令嬢に無礼を働いた男を懲らしめろという意味だと思ったんですが・・・。」


チリッソが言い訳をすればするほど、馬脚が現れるばかりなので、レメキはブチ切れて大声で遮り、大慌てで自ら地下牢にコジローを迎えにいったのだが、戻ってこない。


実はリエはコジローがもう牢に居ない事を知っていたが、それを言うわけにもいかない。


「たしかに牢に入れたとロボンは言ってるのですが」

「脱獄したというのか?!」


チリッソにどうなっているのか問いただすレメキ。姉妹から発せられている怒気がさらに強まる。


焦ったレメキは


「だ、大丈夫です、脱獄犯は直ちに指名手配しますから」


などと口走ってしまう。


レメキも馬鹿であった。。。




姉妹は怒りを通り越して、ついには呆れに至った。


コジローが出ていったのであればもういい、構うなと指示を出す。


コジローについては、また後日、丁重に謝罪するしかないと姉妹は思ったが、その前にレメキを取り調べる必要があった。


すでに姉妹のところには、アレキシから不正の報告が届いていたのである。




◆潜伏


一方、コジローは、リエが止めるので街を出るのは思いとどまったものの、脱獄してきてしまっているのは事実である。そもそも牢に入れられた理由が分からないのだが、脱獄したという罪状で指名手配される可能性もある。今更牢に戻るわけにも行かず、宿に戻るわけにも行かず。行き場がなくなってしまった。


そこに、冒険者の一人が声を掛けてきた。

実は、クーデター計画に協力している冒険者の一人だと言う。

コジローを、レジスタンスの隠れ家で匿ってくれるというのだ。


コジローはクーデターに参加する気はなかったのだが、行く宛もなく困っていたので、流されるままについて行った。隠れ家、と言っても街の魚屋の二階なのであったが。


そこで色々話を聞いた。実はクーデターは街の住民の中ではもはや公然の秘密となっていて、特に隠そうともしてもいないのだそうだ。


クーデターが実行されなくとも、その計画が領主に届く、つまり、民の声が領主に届くのであればそれでよし、というところがあったようである。クーデターなどと言うと物騒だが、デモみたいなものなのかな、とコジローは思った。


実は、古くからアルテミルに住んでいる者たちは、代官のレメキが来てからおかしくなったのを理解していた。クリスが領主をしていた頃は善政を為していたので、代官さえ交代させて、また以前のような善政に戻ってくれるならそれでよい、と言う事であった。


しかし、代官とその部下は、半ば公然のクーデターの計画すら気づいていなかった。もともと貴族至上主義で平民などなんとも思っていないレメキ子爵は、街の状況にも興味など抱かなかったため、住民に不満が溜まっている事にも気付いていなかったのである。




しかし、クーデターを計画しているレジスタンスの中には、単に代官を交代させる程度の事では許さない、レメキと部下達は殺してやる、と主張する者も居た。簡単に殺すのでは許さない、死んだほうがマシという目に遭わせてやると言う者まで居た。それは、レメキに家族を殺された者達であった。


レメキの部下の騎士に恋人を手篭めにされ。訴えてももなかった事にされ。恋人に自殺されてしまったという若者が居た。


娘が連れて行かれ、そのまま行方不明になったという者も居た。


レメキの屋敷に連れて行かれたが、生きて帰ってきたという娘も居たのだが、体はボロ雑巾のようになっており、寝たきりになってしまったという親も居た。


戻ってきた娘たちの体には酷い傷があったそうで、レメキが加虐趣味を持っているという噂は事実であったようだ。


レジスタンスのリーダーである魚屋の親父も、先日娘を連行されたばかりである。まだ他にも何人も拉致されたままの娘たちがいる。早く助け出さないと、取り返しがつかないことになる。


状況を知り、領主のクリスは収拾に乗り出していたのだが、時既に遅し。

クーデターは、連れ去られた娘たちを心配する親たちによって、今日にも決行される事となってしまったのだった。

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