第32話 護衛依頼1

◆護衛依頼


コジローたちは街に戻り、奴隷商と被害者の警備隊引き渡しとギルドへの報告・確認を済ませた。


その後ボルは、奴隷商と繋がりがないか調査され、単純に騙されていただけという結論になったが、犯罪に関わる依頼を直接受けたのは迂闊ということで、謹慎処分が言い渡されたが、それもごく短いもので、実質お咎めなしという扱いになったのであった。


ボルは謹慎が終わるまでアルテミルの街から出ることを禁じられていたが、その後もアルテミルに残り冒険者として活動することにしたらしい。ボルとガラハは何故か意気投合し、ガラハのパーティに参加することになったのであった。


コジローは再び、薬草摘みや低ランクの害獣討伐などの依頼をこなす日々に戻った。コジローはまだEランクの冒険者なので、商人の護衛等の依頼が受けられないのである。護衛任務はランク指定がない場合もあるが、最近は危険なモンスターが多く出没するため、依頼を出す商人側がDランク以上を指定する事が多くなったのである。


そんな時、コジローに護衛の指名依頼が来た。


依頼者は予算が少なく、高ランク冒険者を雇うことができなかったため、困ってギルドに相談したところコジローが紹介されたという経緯だった。


コジローを高く評価しているギルドマスターのリエとしては、早めにコジローをランクDに格上げしたいところではあるのだが、実績が少ないのということで、待ったを掛けられているのであった。実際、コジローにはこの世界で、そして冒険者としての経験が乏しいのは事実なので、コジローとしては焦る気持ちはないのであるが。。。


護衛の依頼主は、アルテミルの下町にいる薬師で、建設中の隣街サンテミルにいる子供が少し珍しい病気にかかっており、治療に必要な薬を届けに行くための護衛をしてほしいとのこと。


急ぎでなければ荷物はサンテミルへ行く商人などに託しても良いのだが、患者の様態が悪化しておりなるべく急いで届ける必要があるとのこと、また、この薬師しか作れない特殊な薬なのだそうで、服用直前に調合する必要があり、どうしても本人が行く必要があるとの事だった。


朝一で呼び出され、ギルドに顔を出し説明を聞いたのだが、既に依頼者は城門で待っていると言われた。サンテミルまでの距離は徒歩でも3時間強なので、日帰りできる計算なので、特に準備はいらない。昼食はサンテミルで食べられるとのことだった。朝食も食べていないのだが、道中食べようと、サンドイッチを買ってコジローは城門へ向かった。



◆サンテミルへ


コジローを城門で待っていたのは、一人の少女であった。名前はミル。薬師と言われてなんとなく老人を想像していたのでコジローは少し驚いた。


なんでも、薬師である父が最近亡くなって、跡を継いだのだとか。幼い頃から父親に仕込まれていたので腕は確からしい。


ミルは子犬姿のマロを気に入って撫で回していた。マロもまんざらではないようである。


一行はサンテミルへ徒歩で向かう。道すがら、事情を聞いたところ、急ぐということだったので、マロが手をあげてきた。


マロの背に乗せて運んでくれるらしい。


小さな子犬に乗れとか何を言ってるの?という顔をしているミルの前で、マロはサイズアップの変身をしてみせた。


戦闘態勢のマロは大型犬よりやや大きい程度のサイズであるが、その気になればもっと巨大にもなれる。普段街に居る時は子犬の姿である。コジローは、マロの本当のサイズはどれなんだろう?今度マロに訊いてみようと思った。


牛くらいの大きさになったマロに、まずミルが跨り、後ろにコジローが乗る。ミルはマロの首輪の後ろの部分に掴まり、コジローはミルを外側から抱えるように、首輪の側面に掴まった。


「しっかり掴まっていろよ・・・!」


言い終わるまもなくマロが走り出す。


一瞬にして景色が流れる。


これでも手加減してくれているのだが、それにしても速い!


街道には通行している人や馬車が多い、その中でマロが猛スピードで走り抜けると問題がありそうだったので、コジローは森を抜けるよう指示した。


木々の中を、猛スピードだがまったくぶつかることもなく走り抜けるマロ。時々大きくジャンプし、木々より上に出たりする。着地点に障害物があったらどうするんだ!?とコジローは焦ったが、マロは空中を "蹴って" 方向を変えることができた。


なんでもこの世界には空中を数歩だが歩くことができる魔道具があると聞いたことがあるが、魔狼は───もしかしたらフェンリルだけかもしれないが───そのような能力を持っているようであった。




歩くと三時間かかる距離を、マロはわずか数分で走破してしまった。これでもかなり抑えて走った結果らしい。あまり速いと乗っている人間が耐えられない。


地球ではバイクで山を走ったりしていた事もあるコジローであったが、さすがにジェットコスター級のアクロバチックな走行体験は、なかなかシンドいものがあった。


ミルは・・・目をまわして気絶寸前であった。


「す、凄いですね・・・」


サンテミルの城門の前で座り込んでいるミルに、門番の兵士が妙な顔をしていたが・・・。



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