第87話
【????】
全く想像していない怪奇現象に驚きを隠せない。
まさかあの地獄の苦しみは夢や幻だったのだろうか。
いや……そんなはずはない。
俺は思い出したくもない記憶を無理やり引き摺り出してみる。
あの痛み、恐怖、苦しみ、孤独。
大学生活を始め、これから楽しい人生が待っているであろう無限の可能性が、ある日突然遮断された無念。怒り。恨み。
全く想像していないところで俺の人生は閉じることになった。
……赦せねえ。
俺から楽しみを奪った田村が憎くて憎くてたまらない。
恐怖を――俺と同じ苦しみを――意識が朦朧とし、冷たくなっていくあの孤独を味わせてやる。
マグマのように湧き上がる感情と鮮明過ぎる記憶。
間違いない。これは現実だ。何が起こったのかはわからないが、五感で感じ取れるものが全てだ。原理や理由なんてどうでもいい。
田村に復讐できる機会を与えてくれた存在――ああ、神さま――感謝するぜ。
とはいえさすがにビビったよ。
まさか
一周目――あえてこういう表現を使わしてもらうが、その記憶があるのは俺だけ、なのか……?
それに予想外だったのは改変だ。
鈴木孝義先生とクラスメイトの橘真司と工藤瑛太、そして町田舞と西野春奈、小山奏。
まさかの新規メンバー追加ときた。
正直、これが田村への復讐にどう影響するか未知数だが――パッと思いつくかぎりでも色々と使い道がありそうだ。
俺はもうただの学生じゃない。一度人生を終えた人間だ。死という存在を誰よりも知っている。おかげで達観できたと言ってもいい。
人間の命なんて簡単に失われる。だからこそ尊いんだが……俺は俺以外の命の輝きが消えようが気にしねえ。
つーか、どうでもいい。俺からすりゃ残機が六つ増えたようなもんだ。むしろ好都合。
さあ、始めようか田村。俺の
お前が大切にしているものを全て奪って惨たらしい最期を与えてやる。
覚悟しておけ。
☆
【????】
暗く沈んでいく記憶。
馬鹿な。俺は死んだはずだ。一体何がどうなって――。
俺は身に起きた現実を把握するため周囲を見渡してみる。
ここは……無人島なの、か? まさか漂流した?
ということは沈んだあと、流されてここに――?
いや、そんなわけがない。
俺は間違いなくあいつらを船で窒息死させ己だけ脱出したはず。たしかそのあと波に飲まれて意識を失った。
事前に部屋から抜けた俺だけならともかく、生徒たちが漂流できるわけがない。
……クソッ、意味がわからない。
だが、ここで取り乱すわけにはいかない。殺したはずの彼らもなぜか俺の正体に気付いていない。
夢や幻を見ていた? いや、あの首を絞めた感触、指に伝わる命の鼓動、間に涙をためて必死に命乞いをする姿――。鮮明に記憶されている。船の中での快楽殺人は現実だったと考えるべきだ。
殺したはずの人間が目の前にいる。それも記憶と違い漂流という形で。
くくく……あははは! いい! 実にいい! 素晴らしい! この際己に何が起きたのかは置いておくとしよう。
まさかもう一度こいつらを自分の手で殺せる機会を得られるとはな!
その上、俺が長く遊べるように、黒石たちまでいるじゃないか! 駄目だ笑うなよ。ここで不審に思われたら殺りにくくなる。
おそらく俺が漂流したのは無人島だろう。それが確認でき次第、お楽しみの開幕だ。
皆殺し――も面白そうだが、ここが本当に無人島なら、殺人は貴重な娯楽になる。
楽しみは取っておかねえとな。となるとやはり一人ずつか。ああ、想像しただけで脳が震えるぜ。
信用しきった相手から裏切られたことで垣間見せる絶望の表情。早く見せてくれ。
俺はそんな内心をおくびにも出さず、上村たちを引率することになった。
作者からのコメント
一周目の記憶があるのは田村を含めて三人
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