第65話

「お見それしました。本来なら田村くんを心酔させるはずでしたが、理沙ちゃんがそちらに付いてしまった以上、私に勝ち目はありませんからね。降参です。白旗を振ります」


「大原のゲームには最後まで付き合ったんだ。そして俺はお前を出し抜いて香川に耳を傾かせた。この後に及んで銃口を向けるのは卑怯なんじゃないか?」


 村間先生と黒石の安否が気になって仕方ない俺は大原の目をまっすぐ見つめて言う。

「拳銃は二丁あったんです」

「はっ?」


「おそらくこの三日間、田村くんは私の所持品を奪うタイミングと決着をつける作戦を考えていたんじゃないですか?」

「……」

 図星。正解だ。


「沈黙は当たったと見なします。相手はこの私、結衣ちゃんですからね。きっと慎重に作戦を練っていたんでしょう。けれどここで田村くんが予期していない計算外が起きたんです」


「計算外?」


「理沙ちゃんが自発的に盗もうとしたんですよ。弾の入っていないダミーの拳銃を。おそらく彼女なりに頭を回したんでしょう。田村くんは所持品を気にしていましたからね。次の指示は拳銃を取り上げることだ、って短絡的に考えたんでしょう。それが私がばら撒いた餌だとも知らずに。正直に言えば理沙ちゃんが私の意思に反した行動を取った時点で私の負けです。だからこうやって見苦しく強行手段を取っているというわけです。理沙ちゃんだけは生かしておけませんからね。だからこれはリベンジです」


「リベンジだと」

「そうです。私はまだ憎き理沙ちゃんを殺めていません。それどころか、救出も可能な状況で放置しています」

「話が見えてこないな」


「この島に鍾乳洞があるって知ってました?」

 嫌な予感がした。全身に寒気が走る。

「田村くんから七歩後ろの岩の陰に地図を二枚置いておきました。それぞれの紙に理沙ちゃんと司ちゃんを監禁・拘束した鍾乳洞の場所を記しています」


「……二人は無事なんだろうな?」

「ははっ。映画のようなセリフですね」

「大原」


 もしも拳銃を手にしているのが彼女ではなく俺だったら引き金を引いていたかもしれない。

 それぐらいに怒りが胸の底で煮えくりかえっていた。


「安心してください。現時点では無事ですよ。ですが制限時間があります。私が発見した鍾乳洞は時間帯によって海水が満ち引きするんです」

 脳にピキッとヒビが入ったような痛み。

 鏡を目にしていないにも拘らず、目が充血していることがわかる。

 

「田村くんは司ちゃんと理沙ちゃん、どっちを助けて、どっちを見捨てるんでしょうね? まあ、結末なんて分かりきったことですけど」


 大原が言い終えるよりも早く地図を拾って駆け出す俺。

 今の俺の頭には一人しか浮かんでいなかった。

 無事でいてくれ司……!


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