第64話
大原の奇襲に驚きを隠せない俺。
まさか俺と香川が繋がっていたことがバレていた……?
ハッタリか? いや、しかし大原はわざわざお絵かきボードで、と言った。
つまり俺たちの連絡手段を知っているということだ。
どういうことだ……香川が裏切った? もちろん大いにあり得るだろう。
まずはとりあえず時間を稼ぐしかない。大原がカマをかけている可能性もある。
「なんのことだが――」
――バンッ‼︎
わからない。そう口にするより早く俺の頬スレスレに弾丸が通り抜けていく。
大原が構えた銃口からは煙が立ち上がっている。
振り返ってみれば確かに発砲されていた。大きな木に弾丸がめり込んでいる。
あれだけ銃声を気にしていた彼女がなんの躊躇いもなく発砲しただと……?
「――探り合いをしている時間なんてありませんよ田村くん」
「何?」
大原は銃口を俺に向けたまま「うーん」と口に指を持っていき、真っ黒な笑みを浮かべる。
「……最近、理沙ちゃんを見ましたか? ふふっ、今度こそどこに行ったんでしょうね?」
「大原っっっっ! お前――‼︎」
「落ち着いてください。彼女はまだ死んでいませんよ。まだ、ね」
意味深な発言に呼吸すらも忘れてしまいそうになる。
失敗した失敗した失敗した失敗した!
どこでぬかった⁉︎ 何がマズかった⁉︎
大原の発言からするにどうやって香川の信頼を得たのかまではわかっていない様子。にも拘らず、虎視眈々と寝首を狩るつもりであったことはバレていた。
「もう一度お聞きしますよ? 一体どうやって好感度がマイナスにまで振り切れていたはずの理沙ちゃんに耳を傾けさせたんですか? 次は――容赦しません」
次弾は外さない。そう告げられてしまっては打ち明けないわけにはいかないだろう。
ここで俺が死ねば最悪の場合、皆殺しだ。死ぬわけには――いかない。
「……上村の死体を掘り返しただろう?」
「はい。田村くんの心を本気で壊すつもりでしたからね。ですが、それが何か関係しているのですか?」
「医学にも精通しているお前のことだ。壊死していた上村の左腕を見れば絶対にブルーシートの中を確認しないと踏んでいた。この島で悪病に感染することは死に直結する。衛生面から考えれば当然だ」
「……悔しいですが田村くんのお見込みの通りです。ですが、男子生徒一人分の重さは間違いなくありました。持ち運ぶのにはものすごく苦労しましたからね。大変だったんですよ? となると私が掘り返したのは一体――」
上目で正体を思案する大原。やがて、
「ふっ、ふふ。あははははーっ! そうですか、そう来ましたか⁉︎ なるほどそれは想像外でした。まさか田村くんが禁じ手を使ってくるなんて。さてはあなた――私が掘り返すより早く、中村くんと上村くんの死体を入れ替えましたね?」
「ああ、そうだ」
「なるほど。私が持ち帰ったのは中村くんの死体だった、と。ボーナスポイントと課題クリアの時間を使って理沙ちゃんに上村くんの死体を目にさせたわけですか。私に掘り返されることを承知で墓地を掘り返した挙句、死体を入れ替える。罰が当たりますよ田村くん」
「お前だけには言われたくないな」
「……へえ。言うようになりましたね。合格です。さすが私が見惚れた男性です。まさかこんなに早く卑劣な手段を使えるようになるとは」
「なんとでも言え」
「いやいや。私は褒めているんですよ? なにせこれから田村くんが生き延びるためには――冷徹な判断をしなければ大切な人を守れない場面が多々出てくるんですから」
「なっ、それはどういう――」
「まあ先の話をしても仕方ありません。ですが、覚えておいてください。サバイバルに同情や共感は不要だってことを。貴方は優しすぎる。それでは本当に守りたいものを守り抜くことはできません。私が田村くんに贈りたかったのはそういう残酷な現実――まっ、今は何を言っても意味深にしかなりませんから目の前の
まるで俺と大原がこの島で会うのは最後みたいな口ぶり。
なぜだがそう感じた。
「質問には答えたんだ。今度はお前が質問に答える番だ」
「もう。本当にせっかちですね。銃口を向けられているにも拘らず、他人の心配ばかり。そんなに理沙ちゃんが心配なんですか? 私が言える立場ではないですが、彼女は田村くんに酷い仕打ちをしてきた性格が悪い女ですよ? どうしてそこまでして」
「司が香川を助けてやって欲しいと、そう俺にお願いしたからだ。十分すぎる理由だ。何より大原という黒幕の存在を認識させたのは俺だ。もしも今、彼女が危険な目に遭っているならその責任は俺にある」
「ずいぶんと司ちゃんにゾッコンですね。妬いちゃいます。と同時にやっぱり失望しましたよ田村くん。最後の試練を与えます。本当に守りたい人間は守り通してください」
「さっきから何を言って――」
俺はおそらく大原の次の言葉を生涯忘れることはないだろう。
「司ちゃんはいまどこにいるんでしょうね? 少なくとも貴方が建てた立派なマイホームにいないことだけは間違いないですけど」
「大原あああああああああああああああっー!!」
「さあ最終決戦です。私の期待を裏切らないでくださいね田村くん!」
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