第59話
「あアん?田村が欲しいだぁ?」
上村くんは私の激白に訝しげな表情を浮かべます。
その顔は何を馬鹿なことを言ってんだ、といったところでしょうか。
「上村くんは私たち三大美少女に偽告白をさせましたが、あの中で唯一、まんざらでもない――意外と乗り気だった人間が一人いるのです」
「それがお前だったってことか」
「はい。もしも田村くんが私だけを選んでくれるようであれば告白の返事はアリよりのアリでした。しかし、彼は全て断りました。全員を傷付けないために」
「……田村の評価がずいぶんと高いじゃねえか」
「ええ。そりゃ結衣ちゃんが見込んだ男性ですから」
私は照れ笑いを浮かべます。
「話が見えてこねえな。俺はお前が好きな男を殺そうとしているんだぜ?なのにどうして俺をサポートしたい、なんて提案が出てくるんだよ?」
それなりに成績が良かった上村くんは矛盾点を突いてきます。
私の言うことなら何一つ疑わない理沙ちゃんとは大違いです。これはこれで面倒ですね。
私はここで一悶着起きることも覚悟して続けます。
「理由は単純です。まず田村くんが貴方ごときに
正直に告白した私に上村くんは感情の読み取れない表情を浮かべています。
殺気が感じられないところを察するにこのまま戦闘の流れはなさそうでしょうか。
「ぷっ」
「はい?」
「あっはっはっは! 面白い、面白いぜ。ぶっちゃけ納得も理解もできないが、要は自分好みの男にするため――田村強化に俺を利用しようってんだろ?」
「否定はしません」
「いいぜ乗ってやる。俺も空腹感に禁断症状が出始めていた頃だ。食料を恵ってもらえるのはありがたてえ」
「そうですか。では我々はしばらく協力――」
「――ただし、一つだけ条件がある」
上村くんの顔つきが明らかに変わります。瞳には何か強い意志が感じ取れます。
やれやれ。交換条件ですか。まあこの世界には等価交換という法則がありますから、彼の言う条件とやらを聞いてみることにします。
「なんでしょうか」
「田村との決闘後、次の相手は大原――お前だ」
上村の放つ殺気に空気に緊張が走ります。
まあ、「田村を殺してお前も殺す」と言われたわけですから、空気がピリつくのも当然というものです。
どうやら彼が強い相手との命のやり取りに悦になるのは本当のようですね。完全に頭がおかしくなっていますよこれは。女好きの彼はどこに行ってしまったのでしょうか。
「わかりました。理沙ちゃんを処刑する時間さえいただければ条件は呑みましょう」
「決まりだな」
こうして私と上村くんは田村くんの決闘まで協力関係を結ぶことになりました。
もちろんこの賭けには私が勝利しました。結衣ちゃんの大勝利です。
上村くんとの決闘は必ず田村くんを成長させてくれると信じていました。
なぜなら綺麗事だけでは絶対に片付けれられない問題だからです。
上村くんが人を殺めることに快楽を覚える人間になってしまった以上、野放しという選択は絶対にありません。
田村くんは司ちゃんと村間先生の命を預かる身(だと思っていることでしょう)ですから決闘後のことも考えておかなければいけません。
私としては堕ちるところまで堕ちた上村くんの息の根を止めてもらいたいところですが、田村くんの性格から考えてそれはないでしょう。
獣化した上村くんは野放しにできず、殺すこともできない。
となれば、拘束するという答えに行き着きます。
私としては四肢を引きちぎって鍾乳洞に監禁するぐらいのことはして欲しいところでしたが、なんと田村くんのが取った行動は上村くんを自殺に追い込むことでした。
この決断には結衣ちゃんも興奮です。正直濡れました。ええ濡れましたとも。全身の震えを止めることができなかったぐらいです。
だって、そこまでの成長は予想していなかったからです。
私が思うに田村くんの欠点は聖人のような性格です。
人間社会は冷徹かつ冷静な判断を求められることが多々あります。
己の感情を切り離した上で行動しなければいけないこともあるでしょう。
まして無人島生活という極限状態の中、その意志力は必要不可欠です。
私は田村くんには機械的に、時には冷たい人間だと揶揄されようとも強く生きていける男に育てたいのです。今の彼は優しすぎる。脆いんです。
なので田村くんにはこれからどんどん試練を与えていくつもりです。
上村くんの死体を掘り起こし、別の場所に移したのもその一環でした。
彼の精神が壊れてしまうのが先か、それとも私の特訓に耐え抜き、より好みの男の子に育つのか。楽しみでなりませんね。ふふっ、オラ、ワクワクすっぞ。
しかし人間というのは優勢だとどうしても警戒心が緩むというもので、すでに田村くんの逆転劇が始まっていたことに私は気付いていませんでした。
まさか彼が禁じ手を使ってくるなんて――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます