第10話
「それじゃ今から言うものを一緒に探してもらっていいですか」
「うん。何でも言って。私は何を探せばいいの?」
「木の皮や乾燥した流木、枯れた植物です。あと軍手が漂流していたら着用した方がいいと思います。指の怪我を防げて安全ですから」
「了解。燃やす材料だね。でも肝心の火はどうするの?」
首を傾げる村間先生。
「ペットボトルかビニール袋があれば一緒に拾ってください。たぶん一つぐらい落ちているはずです」
「えっ、そんなのでいいの? それぐらいならいくらでも落ちていると思うけど……でも本当にそれで火を起こせるの?」
「それは見てからのお楽しみですよ」
半信半疑の村間先生をよそに木材をかき集める。
――およそ十分後。十分な量の材料が揃う。
「はい田村くん。ペットボトルだよ。それじゃお手並み拝見といきますか」
「ありがとうございます。ご期待に添えられるよう頑張ります」
村間先生からペットボトルを受け取った俺はすかさずラベルを剥がし、
「あれあれ? どこに行くの?」
「海水を入れに行くだけです。待っててください」
キャップを外し、ペットボトルを海水で満たしたら、
「はい。完成です」
「えっと……」
海水入りのペットボトルに困惑を隠せない村間先生。
予想通りの反応に口の端がつり上がるのを自覚する。
「何か思い付きませんか? きっと先生も小学生の頃に実験をしたはずです」
「ええー、本当に⁉︎」
「それじゃ答え合わせです」
言って洞窟に戻る俺と村間先生。
焚き火ができるよう落ち葉の周りは石で囲んである。
「まずはこの乾燥した木材を石で砕いて砂状にします」
「うん。それでそれで」
「砂状にしたものを乾燥した木材の上に置いたあとは……」
海水入りのペットボトルで陽光を集めて火種になるものに直接当ててれば――、
「そっか! ルーペだっ!」
「ご名答」
俺が火を起こすに当たって選択したのは太陽光で火種になるものを直接当てて熱を発生させる方法だ。
きっと小学生のころにルーペと黒い紙なんかを使って実験したはずだ。
「すごい! すごいよ田村くん!」
嬉々とした声音につられた俺は村間先生を見上げると、
「――っ!」
思春期の男子には刺激が強いものが視界に入ってしまう。
しかも上二つほどボタンが外れており、花の刺繍が入ったブラジャーまで見えてしまう。
たぷんっ、と重力に負けたそれは圧巻の一言。
デカい。そう思うや否や、俺はこきゅんと喉を鳴らしてしまっていた。
「えっ、なにどうしたの……あっ!」
俺の視線をなぞる村間先生。やがて俺の異変は胸元だと気が付いた先生は、
「……田村くんのエッチ」
「……面目ない」
なるほど。これがラッキースケベというやつですね。
人生で初めて遭遇したわけですが、内心で感想をば。
ごちそうさまでした。僥倖です。
☆
乾燥した砂状の木材から煙が上がればあとは簡単。
熱されたそれを枯れた植物(本当は藁なんかが理想)で囲み、適度に空気を送ってやるだけ。
あとは自動的に火が強く――、
「って、熱っちぃ!」
突然火が燃え上がり、手で持てない熱さを感知する。
すかさず落ち葉などを敷きしめた石囲みに火を投下する俺だったのだが、
「だっ、大丈夫⁉︎」
目の前で生徒が危険な目にあっていることで教師としての本能が動いたのか。
すかさず村間先生は俺に密着し、
「急いで冷やさなきゃ! 動ける? 田村くん」
「いや、あの大丈夫ですよ。それより」
「なに? 話したいことがあるなら後でいくらでも聞くから」
「その……えと当たってるんです」
「何が⁉︎ いいから早く――っ!」
むにゅりと俺の腕の中で歪む凶悪な果実。
俺の腕が当たっている感触をようやく自覚した村間先生は、顔を真っ赤にさせて言う。
「……田村くんのエッチ」
今回ばかりは理不尽だと思う俺だった。
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