第10話『まだまだ』
「ユムル、昨日のご飯で好きな物見つけれた?」
ティリア様はまっすぐ私を見ながら聞いてくださる。私の好きな物…
「どれも美味しかったですがセレネさんのパイと…チュチュさんがくれたケーキ…それが特に美味しかったです。」
「まぁ!それアタシも好きな物なのよ。お揃いね!」
「お揃い…?」
「えぇ!…あ、嫌かしら?」
「そんな!とんでもありません!!」
「良かった。これから一緒にどんどん好きな物を見つけましょうね。」
「はい、よろしくお願いします。」
頭を下げるとすぐ近くの扉からノックが3回聞こえました。
「失礼致します。」
バアルさんを先頭に大きめの移動配膳台…ワゴンが入ってきました。綺麗な銀色に装飾が施されて尚のこと綺麗です。バアルさんはワゴンを押していた給仕さんからお皿を受け取り、私とティリア様の前に音もなく置いてくださった。
お料理はサラダとベーコンエッグですね。それにロールパン。あれ?私も作っていました…。魔王様も召し上がるのですかね…?
ティリア様はナイフとフォークを持って不思議そうにお料理を見つめていらっしゃいます。そして目線はそのままバアルさんに呼びかける。
「ベル。」
「はい。」
「これだけ?」
「あとスープもございますよ。」
「主食って小さなパン2つ?」
「えぇ、多いくらいですよ。」
「えぇ…?ユムル達って低燃費なのねぇ…。」
頬杖をつきながらベーコンをナイフでつんつんするティリア様はどこか呆れていた。
…“私達”?
「ティリア様…もしかして私に合わせて下さったのですか?」
「え?当たり前じゃない。アタシ達魔族のご飯はユムルにとってゲテモノでお腹を壊すといけないでしょ?ベルが気を遣ってくれたのよ。」
驚いてバアルさんを見ると、彼は無表情でした。
「…坊ちゃんの機嫌を損ねると私が大変な目に遭います故、苦労は惜しみません。」
「だって。流石ベル、わかってるぅ!
…という訳でいっただっきまーす!」
ティリア様が手を合わせるので私も慌てて
「い、頂きます!」
と言って食べ始めた。ティリア様はナイフでベーコンを切ってスクランブルエッグを乗せて召し上がる。
「…うん、やっぱり美味しいわ!流石ね。」
私も同じように食べてみる。
…!卵がクリームのように滑らかで香ばしく焼かれたベーコンととても合います!
「…凄く美味しいです…!」
「それは何よりでございます。」
無表情のままのバアルさんにティリア様は口の中のパンを飲み込んだ後に
「ベル、ユムルと2人にして。」
と指示した。
「畏まりました。」
バアルさんも給仕さんもワゴンをそのままに退出なされた。あれ?バアルさんが怒らない…?宜しいのでしょうか?
「なんか不思議ね、誰かとこうして面と向かいあって食べるご飯ってこんなにも美味しいのね。」
「え…?」
どこか寂しそうなティリア様はパンを1口サイズにちぎって口に運んだ。
「どう?ユムル。ウチの料理人の作るご飯は。」
「す、すっごく美味しいです…!学びたいです!」
「っふふ…勉強熱心なのね。さっきのミートパイ、とっても美味しかったわ。また作ってくれる?」
「も、勿論です!わ、私なんかの料理で良ければ…」
するとティリア様はむすっとした。私、何かお気に障るような事をしてしまったのでしょうか…!
その表情のまま左手で頬杖をついて右手でフォーク先を私に向けて数回小さく振る。
「また私なんかって言ったわね。アズとチュチュから聞いたわよ。ペナルティって。」
「あ。」
そういえばそうだった気が…。
「ま、アタシ優しいからノーカンにしてあげる。次から気をつけるのよ?」
「は、はい。すみません。」
「すぐ謝らないの。」
「す、すみません!…あ。」
「っふふふ…!ユムルって面白いわね。でもアタシ、謝罪よりも感謝されたいの。だから言葉を変えてちょうだい?」
言葉を変える…?感謝…?ということは
「ありがとうございます…?」
疑問を持ちながら言うとティリア様は頬杖をやめてニッコリと頷いた。
「どういたしまして。あ、ベルー!スープちょうだーい!」
「はい。」
給仕さんが扉を開け、バアルさんがスープの入ったお皿を両手に持っていらっしゃった。
「どうぞ。」
「わぁ…………ん?」
スープを見るティリア様の顔が輝いたと思ったらだんだんと曇っていく。
「では失礼致します。」
踵を返して退出しようとしたバアルさんを
「ベル。」
の2文字で止めるティリア様はどこか怒っている。バアルさんは足を止め無表情のまま振り返る。
「如何致しました?坊ちゃん。」
「これ作るように指示したのブレイズじゃないわね。アタシの嫌いな物を固形で出してくるような命知らずはアンタしか居ないわ、ベル!」
「はて、なんの事やら。…しかし坊ちゃん?食う食わぬは今回どちらでも良いです。」
「なら食べな」
「ユムルお嬢様の眼前で子供のように嫌いだからと駄々をこねる姿を見せつけていることに恥じらいがなければ、の話ですがね。」
睨んでいるかのような鋭い眼光を受けたティリア様は目を見開いて固まってしまった。
「…………………。」
このスープ…大きな人参とジャガイモ、みじん切りの玉ねぎが入っているコンソメスープですね。ティリア様がお嫌いなのは…もしかして人参…?
バアルさんは歩いて私の真横に立った。
「ユムルお嬢様、坊ちゃんはご覧の通り野菜が嫌いでして。私が坊ちゃんの健康を思ってお出ししているのにも関わらず全く召し上がらないのです。そんなのかっこ悪…じゃなくていけませんよねぇ?お身体に。」
それは確かにです!
「は、はい!ティリア様のお身体の為の大事な栄養分ですよ!食べましょう!ティリア様!」
「むっ!ズルいわよベル!ユムルを味方につけるなんて!!」
「大人しく食べれば良い話ではありませんか。それで万事解決ですよ。そうすればお嬢様だって坊ちゃんの味方に早変わりです。」
「食べてからなら敵味方関係ないじゃない…。」
でもお野菜は栄養満点で大切です。食べて頂きたい…。食べざるを得ない状態を作った方が宜しいのでしょうか…。取り敢えず味を知るために自分で食べてみましょう。
「はむっ………とても美味しいですよ!ティリア様!」
スープが染み込んでいて本当に美味しいです!それを伝えたいのですが…
「……(じと)」
どうやら言葉じゃダメのようです。
うーん……あ。お行儀悪いですがもしかするといけるかもしれません…!
「ティリア様。」
「…なぁに。」
私は自分のスープの人参をフォークで刺し、ティリア様にゆっくりと近づけた。
「本当に美味しいですよ。あ、あーん……なんちゃって…。」
やってて恥ずかしくなってきました…。
顔が熱くなっていることが分かってしまうほど真っ赤になっている気がします!!ティリア様を見れない……あれ、フォークに違和感が…
「……………ユムルのお陰で超最悪がまぁまぁまで跳ね上がったわね…。」
ティリア様のお口がもぐもぐと動いて…フォークに刺した人参が無くなっています!
「ティリア様!」
「…………ユムルが差し出してくれた物を拒む訳にはいかないわ。」
「ではお嬢様。その調子で坊ちゃんの口に全ての野菜を捩じ込んで下さいまし。私は失礼致します。片付けの際にお呼びください。」
「え」
バアルさん、本当に退出してしまいました…!ど、どうしましょう…!
「…ユムル…かっこ悪い姿はもう見せないわ。ちゃんと食べるもん。…嫌だけど。」
「素晴らしいです。」
「!ほ、ホント?」
「はい。感情を持つ者は誰しも苦手意識があるはずです。それを克服なさったのですよ。素晴らしい事です。」
「…今度から頑張って食べるわ。」
「はい!」
それから食事を終えるまで話し続けた。私は自分のことがよくわからなくてティリア様に沢山話して頂いてしまいました。私もこれからティリア様にお話出来るようになりたいです。ティリア様のお話の1つに、ペットが居るという。とても可愛い子だそうです。とっても気になります。と言うと後で見せたげると言ってくださいました。ティリア様のお話はキラキラしてて聞いている事が苦ではありません。キラキラの理由は多分、ティリア様の感情が分かりやすいから。ティリア様の表情はとても豊かで…あぁ、とても楽しそう。ということが凄く伝わってきて、聞いているこちらも同じ感情になるからなのかなと…勝手に思ってます。
「ユムル?」
「は、はい!」
「どうしたの?ボーッとして。」
「す、すみません!ティリア様のお話を聞くのが楽しくて!」
と言うとティリア様は少し驚いた顔をして、すぐに微笑んでくれた。
「ふふ、なら良かったわ。じゃあ準備して向かいましょうか。ユムルの元お家へ。」
「………はい。」
「大丈夫!絶対、アタシが護るから!」
「……ティリア様…。」
「アタシを誰だと思ってるの?泣く子もこの美しさで黙らせる魔王様よ!任せて頂戴!」
温かいティリア様の手が護ってくださるのです…ウジウジしちゃだめですね。
「…はい…!」
「さて!超絶可愛く御粧しするわよー!ベル!片付けしといて!」
「は。あ、そうだ坊ちゃんお耳を拝借。」
「ん?」
バアルさんがティリア様に耳打ちしてます。
私に聞かれたくないことなのでしょうか。
「ふぁっ!!!!!???」
と、突然ティリア様のお顔が爆発 (?)しました!!
「おやおや、まだ餓鬼でしたか。」
「か、揶揄わないでっ!ユムル行くわよ!」
「は、はい!」
お顔が真っ赤っかのまま私の手を引っ張ってダイニングルームを後にしたティリア様。
な、何を言われたのでしょう??
…
「良かった。坊ちゃんはまだまだクソガキですね。たかが“お嬢様と出会って2日目にして間接キスおめでとうございます”と揶揄っただけなのに。っふふふ…!これは良い
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