29.アキラ、飲み込まれる。
ミミズは良くて、イモムシは駄目な理由は、と聞かれたらはっきりと答えられる。
「ミミズは虫じゃないから。」
ただ、それに尽きる。
差はない感じにも見えるが、ミミズって人間と構造は近しいものがあって、親近感が湧くというか、まぁ不気味さはないですよね。
そんなことを考えながら、竿をぼぉーーーっと眺めていると、隣で釣っていたおじいさんに当たりがくる。
「おおお、来たぞ来たぞ。こりゃ、デカいぞ。」
そう言いながら、竿をぐぅーーっとしならせ、踏ん張っている。
小舟も それに影響を受けるように、上下に揺れ始める。
小舟が揺れ始め、しばらくした後、大きな魚影が水面に現れてくる。
そのデかさに驚く。小舟ほどはあろうかという大きさ。
「ハハハッ、こりゃ大物じゃこりゃ大物じゃ。」
おじいさんは、興奮気味に竿を引き、踏ん張る。
船の揺れは次第に大きくなっていき、捕まっているのが精一杯なほどになる。
それがしばらく続き、あまりの揺れに僕は酔い始める。
僕と同じようにおじいさんの顔にも疲れが見え始める。
「お兄さん、す、少し変わってくれやろうか・・・。もう腕が上がらんようになってきたんじゃ。」
まさかのおじいさんのSOSに戸惑いながらも、竿を受けとる。
受け取った瞬間、ぐっと身体が引っ張られそうになる。
確かにこれを長時間は腕がへばってしまうのも納得である。
びくともしない竿を、なんとか持っていかれないように踏ん張って、魚が疲れるのを待つが、そんな悠長なことはしてる余裕はなかった。
しなる竿をぎゅっと握りしめ、
「精霊さん、お願いします。」
「了解しました。」
精霊さんのその言葉と同時に、電流が竿から糸へとほとばしり、水面に電光が駆ける。
うまくいけばこれで、魚の力も弱まると確信したが、少しだけ止まったかと思えば、突如として魚は決死に暴れ始める。
「奴に、お兄さんの力は通じんのか、こりゃまいったなぁ。」
おじいさんがへばった身体でそう言う。
これは持久戦になるなと思いながら、竿を握り直したその時、
竿がものすごい勢いで、引っ張られて身体ごと水中に飲み込まれてしまう。。
こういう時、竿を離せば良かったのだろうが、僕自身はこんな大物逃してたまるかという気持ちで、竿をぎゅっと握り締めて離さなかった。
だが、身体はぐいぐいと水中を進んでいく。いや、引っ張られていると言った方が正しい。もう息が持たない、もう手放すしかないかと思ったその時、おじいさんの声が聞こえる。
「兄さんさ、わしの攻撃さ避けれ!! 」
と言うと同時に、凄まじい空気の塊が身体を横切り、底に消えていく。
その直後、底からは無数の気泡がどんどんと浮かび上がってくる。
そして、僕の目の前に大きな気泡が浮上してくる。
直感的にそれを服で受け止め、襟口から空気を吸う。身体に酸素が行き渡り、脳が瞬間的に機能を取り戻し、ある一計を閃く。
「兄さん、もう一発いくけぇの。」
すぐに片手で、服の袖のボタン、塞ぐことのできるボタンはすべて塞ぎ、気泡を必死に集める。
その間に、気休め程度にもう一度電流を竿に流す。少しだけだが、魚の動きが止まる。その直後、湖の底から大きな空気の塊が浮かび上がってくる。
これをガバっと服の中に入れる。すると、身体が空気の浮力によって急浮上する。その瞬間、両手で竿を持ち、魚ごと緊急浮上、その浮力の勢いが強すぎたため水面から大きく飛び立つ。
空に飛んでしまったことに驚いていると、水面からバカでかい魚も一緒に飛び出てくる。
それを見届けると一回転して、小舟へと見事着地するのであった。
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