30.アキラ、イクラを嫌う。

 釣り上げた大きな魚はサケっぽい?  いや、サケかイワナじゃない? サケだったらイクラ食べれないんだよね・・・。多分、アレルギーだと思うから。


そんな僕の好みをよそに、おじいさんが慣れた手つきで素早く締めると、暴れていた魚が一瞬で動かなくなり、体色も血が抜けるようにサァーっと変わる。


そして、魚のエラ部分にナイフを入れると、そこから血が勢いよく垂れ出す。


「ほいじゃ、これに木の枝さ入れて・・・。おお、出るな出るな。硬てぇ、硬てぇな。」


Oh、早業・・・。おじいさんは手際よくワタを取り出して、文字通り魚を串刺しにする。


「ほい、できた。」


さっきまでの工程のグロさはどこへやら、綺麗に捌かれててますよ、これは。


 おじいさんは捌き終わった血濡れた手を湖の水で、綺麗に洗い落してから、フゥーーーとため息をつき、


「もう一匹釣れたし、やめるさ・・・。こりゃ、えらいな・・・。」


そう言うので、今日の釣りは終わりだな、釣れたしいいっか、一発目でいきなり大物来ちゃ駄目だよ・・・。


そう思いながら、気持ちのいいそよ風を受けながら、


「そこの小屋さ、わしの家だ。船さ着けてけれ。」


おじいさんの指さす方向をよく見ると、何やら家らしきものが見える。近づいていけば、その全体像が見えてくる。テラの家とは違い、質素なツリーハウスのような家。


そこに向かって船を漕いでいく。


よくよく見ると、湖を一望できる美しい湖畔に臨む場所に大きな巨木は鎮座して、よく作ったなと思う様なツリーハウスがそれにくっ付いていた。


そうこうしているうちに、手作り感満載のおじいさん特製船着き場に到着する。


「おお、お兄さん。そこを持っててくれ。」


そうおじいさんは、船着き場に小舟を止める柱のようなものにロープで固定する。


「よし。さぁ、降りるべ。今日は大物が釣れたべさ、うみゃい鍋こっさ作ってやる。」


僕はそれに思わず、嬉しくなると同時に、テラ達に対して罪悪感を覚えてしまう。自分だけ、食事にありついていいのだろうか、彼女たちのことが気掛かりに思う。


すると、それを見透かしたようにおじいさんが、


「なぁーも、心配せんでええ。こげーな大きな魚ばって、ふたりでとてもじゃないが食べきれんで。そじゃけ、土産の分はちゃんとあるけ、安心せい。」


釣ったでっかい川魚を指さす。僕は、それを聞いて安心する。


それで、このツリーハウスはどうやって、登ればいいのだろうかと、辺りを見渡すが出入り口らしきものはないし、梯子らしきものもない。


「ほじゃ、どっこいしょ。」


そうおじいさんが、言った瞬間。僕の身体がふわっと浮く。


「ファッ。」


気が付けば、身体は本日二度目の空へと飛び立つのであった。

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