22.アキラ、発達する。

 先を急ぐ、テラのことが心配で。時間が立つにつれ、左脚の感覚が戻ってくる。しかし、イリスの介助なしにはうまく歩けず、現状、一時的に木の枝を左脚に括りつけている。


少しでも早くテラの元へ急ぐため、その一心で森を進んでいく。


そうして、森を抜けてはるか向こうに家らしき建物が見えてくる。


「あと、もう少し。」


最後の力を振り絞るように、脚に気合を入れて歩き続け戻ってくる。その時には、日は沈みかけていて、辺りは暗くなり始めていた。


ついにやっとの想いで家に辿りつく。僕は扉を開けて、テラの元へと駆け寄り右手を握って呼びかける。


「テラ、いま戻ったよ。独りにしてごめんね、もう大丈夫だよ。僕がずっといるからね。」


そう語りかけると、微かにテラの口が緩み、彼女は笑みを見せてくれる。


それがテラなりの気遣いなのだと、すぐに僕は察し、イリスに彼女の容態を見てもらう。


「かばり、きざぐちはかぬうしとん。アキラ、テラをばおかえつけてなり。」


イリスはそう言って、持ってきた荷物の中から壺を取り出す。中身は、草とかがいろいろ混ざって見るからに薬草っぽいものをテラの傷口に塗りたくる。


僕はテラが暴れない様に、身体を最小限に抑える。


だんだんとテラの顔が痛みで歪んできて、彼女は、無意識に傷口を掻こうと右手を動かそうとする。それはまずいと僕は思い、制止する。


その間に、イリスはテラの傷口を布で覆っていく。


「痛いよね、痛いよね。でも、今は我慢してくれテラ。」


そう彼女に言うことしか今の僕はできない。痛がる彼女を見ていて、悔しさと自分の無力さを痛感する。


そうして、テラが傷口を掻かない様に、僕は彼女の右手を握り続けていく内に、テラは痛みから意識が遠退いたようで、再び眠りにつく。念のため、右手にも布を覆って掻かないようにする。


これで、大丈夫なのだろうか・・・。少し不安になりながらも、今はイリスを信じるしかないと考える。それと同時に、ドォッと疲れが押し寄せて、僕の身体を押し倒す。


「か、身体が重い・・・。そ、それ以上にね、眠い・・・。」


そのまま、僕は眠りの深淵へと突き落とされ、意識が途絶えるのであった。



∴ ∴ ∴ ∴ ∴



 朝日の光と異様な空腹の唸りで、意識が戻る。


僕はすぐさま、テラの様子を確認する。彼女はスゥー、スゥーと寝息を立てながら、安静に寝ている。


僕は少しホッとして安心する。それにより、胃君が目覚め・・・、


「グゥゥゥウウウウウウウウウウ。」


と自己主張を始める。僕の隣で寝ていたイリスがその音にビックリして、目を覚ます。


「うぅぅ・・・アキラ、おばよぐ。すげなおばらのおどぢけど、らいじょうぶか? 」


「うん、めっさお腹減ってるだけだと思うから、大丈夫大丈夫。というか、訛りすごいっすね・・・。」


そう僕は感心する。その直後、ハッっと気付く。


「ん? イリスの言ってる言葉の意味が多少なりともわかる? なんでだ? 」


「宿主、お目覚めになりましたか。」


そうタイミングよく精霊さんが目覚めてくれる。


「精霊さん、なんで急にイリスの言葉が理解出来始めたの? 」


そう精霊さんに問うと、しばらく沈黙された後、


「多分、宿主のあらゆる器官が発達して、脳もその内に含まれて言語学習能力が高まったことによるものでしょうか・・・。そのデメリットで、宿主はすぐにでも、何か食べ物を食べないと飢餓状態になりますよ。」


ああ、なるほど。そういうことか・・・。


「で、この異様に腹が減ってるってわけか・・・。」


そう言いながら、とりあえず台所にあった刃鹿のアバラの肉をさっと焼いて、骨ごと食べながら、空腹を満たす。いや、骨って意外とうまいもんなんだと思いながら、タンパク質とカルシウムを補充するのであった。




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