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「うーん」


 さてどうしたものか?

 教えるべきか、教えないべきか。


「レイン?」


 別に教えてもいいような気もする。

 気もするんだけど……怖い部分もある。

 来たこともないこの国のことを知っているとか、この世界は私の前世にとってはゲームだったんだよとか。

 あっ、ゲームとは何かっていうのも説明しないといけないのか。チェスっぽいのとかボードゲームはあるから、それと吟遊詩人とか講談師を兼ねたようなものって言ったら納得してくれるかな?


「あの、レイン?」


 でも、前世がある上にこの世界はゲームなんだよって説明、誰が信じる? 自分で言ってても頭に指さしてくるくる回しそうな案件だよ。


「あっ、レイン、モンスターよ!」


 なにか、いい言い訳とかないかな?

 この国のことは前から調べていた。

 でも、それだけだと国が嫌いな理由にはならないよね。

 興味があったから調べた。その結果、この国の疫病の原因も判明したし、さらにその根にあるこの国の罪も知ってしまったとか?

 やっぱこれが妥当かなぁ。

 でも、これで説明しちゃうとアンリシアはすぐの解決を求めちゃうかな?

 ていうかそれでもいいか?

 あれ? いいんだっけ?

 なにか問題あるかな?

 普通にゲームのときの流れをなぞるつもりでいたけど、そんな義理はないのか。

 そもそも第一部だってグダグダにしちゃったし。

 なら、ここもグダグダにしちゃっていいのか。

 いや、アンリシアに『さすがレイン! 素敵! 抱いて!』と言わせるような華麗な活躍をすることだって……。

 え? ここの連中の攻略?

 いらんいらん。


「レイン!」

「はっ!」


 気が付くと周りにモンスターがたくさん倒れていた。


「なにごと!?」

「なにごとって……レインが倒したんじゃないの」

「むむ……」

「もう……レインのことだから大丈夫だろうけど、こんなところで考え事したらだめよ」

「あはは……」

「それで、なにを探しに来たの?」

「ああ……アンリはなにもしなくていいよ」


 考え事しながら歩いている間に森のけっこう深いところまで来たみたいだ。

 というわけで採集開始。サンプル代わりに一個ずつ採ってから簡易ゴーレムを大量召喚して、そいつらに集めてくるように命令する。

 これでよし。


【魔女の園】


 魔女の鍋を用意しておく。ついでに倒したモンスターの処理をしておこうと、全部を鍋に放り込む。


「それはどうするの?」


 倒したモンスターは猿系が多かった。この間の熊みたいな食肉に向いているのはいなかったから……そうだねぇ。


「アンリのお守りを作ろう」

「え? でももう貰っているわよ」


 彼女にあげているのはライノロードに襲われた時に出てきたゴーレムのことだ。

 物理的な脅威ならあれで大概なんとかなるだろうけど、今回はね。


「うん、あれとは別系統のお守りだね」


 疫病対策に状態異常系に強いのを用意しよう。

 さっきも言ったけどここはマウレフィト王国よりもレベルが高い段階で来るから得られる素材のレベルも高い。お守り用のアイテムを作るのもそれほど苦労しない。

 それにもう、ここはゲームではないし、私は『システム上越えられなかった技術』を手に入れつつある。足りない素材があったとしても、その素材が何の力を宿しているのかさえ分かっていれば、それを他の物で代用したり、私自身の魔力で生み出したりすることができるようになってきた。

 その技術はいま着ている白ゴス衣装を作った時にも応用している。

 こいつに使っている素材はレアすぎるから完全再現はむりだったけどね。

 モンスターたちはこの森の恵みで生きてきたから、森にある素材に存在する因子を微量なりとも体内に蓄えている。

 それらを取り分け、整え、膨らませ、新たに混ぜ合わせ……。


「できた」


 ポンと出てくるのはゲームだと普通だけど現実に目にするとなんだか非現実だ。だけどこれがいまの現実。

 そのうち、前世の光景が非現実だと思えるようになる日が来るのかな? いやもうかなりそうなっているんだけどね。でもまだまだ強い。前世の自分が何者かもわかっていないくせに向こうの現実感でこちらを皮肉げに見てしまうことがある。

 自分の感覚ながら……なんだっていうんだろうね?

 魔女の鍋から飛び出してきたお守り……血中の鉄分をより集めて作った赤い鉄片のタリスマンには目的の能力を付与することができた。これを旅の前に上げていたネックレス型のお守りのチェーンに合流させてできあがり。

 で、自分にも。


「お揃い」

「そうね」


 でも、これだけだと安心できないから簡易ゴーレムたちの採集品が必要になる。


「それで……話しにくいことなの?」

「ん、ん、ん~~~~~~~~~」


 さすがアンリシア。誤魔化されてはくれませんでした。


「そう……わたしには話せないことなのね」

「ち、違うよ! そういうのじゃないよ!」

「いいのよ。レインとわたしとでは違うものね。わたしだってレインに話せないことができるかもしれないし」

「ア、アンリ~」


 うひぃ!

 なんて……なんてずるい! アンリずるい!

 可愛いアンリが拗ねるとさらに可愛い! そして罪悪感が半端ない。罪悪感で殺されそうになっちゃう! アンリずるい! 超ずるい!


「うわ~ん。もうわかったから!」


 GOAAAAAAAAA!!


 半泣きでアンリシアに泣きつこうとしたところで木の影から隙を伺っていたデカい猿……デモリウータが襲いかかって来た。

 邪魔すんな。


【樹母の愛は永遠】


 私とアンリシアの周辺をガード特化ゴーレムである塔盾の守護者を召喚して守らせつつ、奴を捕まえる魔法を発動させる。

 木の精霊力を利用するこの魔法は森の中で最大限の効果を発揮する。周辺の木から生えた棘付きの蔓植物が空中にいたデモリウータの軌道を遮る網を作り、受け止める。


 GIっ!!


棘付き投網に捕まってしまったでっかい猿は強固な毛皮を無視して突き刺さる棘の痛みにびっくりして暴れ回っている。硬さが自慢の猿がまさか棘を痛いと思う日が来るとは思わなかっただろう。

 レインちゃんの実力を舐めてもらっては困るのだ。


「うわ~ん、アンリ怒っちゃいやだぁ」

「そんな可愛い顔しても誤魔化されないわよ」


 うん、そしてデモリウータの襲撃にもびくともしなかったね。

 それは完全に私を信頼しているということ。

 私がいればアンリシアが傷つくことなんて絶対にないという完璧なる信頼。

 それを裏切るなんてできるわけがないよね。

 なら仕方がない。

 全部話しちゃおう。

 そして思い知るがいい。

 レインちゃんの愛は、とてもとても重いのだ。


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