39
第二部という言葉で思い出した。
そして、私はやらかしてしまっていたことに気付いてしまった。
「ありがとうね~ん」
赤竜女帝が手……ではなく尻尾を振りながら空へと昇る。
その後ろには彼女の魔力で卵の群れが浮いている。
あのまま雲の上まで誘導されると、後は自力で空を流れ運よくオス竜に出会って受精するか精霊になるかするという。無駄がない。
つまり精霊……そして私が工房で契約している精霊王は竜の無精卵からできているという驚愕の真実が発覚したわけだけど、いまはそれはどうでもいい。
「ああ……しまったなぁ」
「どうかしたの?」
「う~ん。フラグ的には大丈夫かなぁ? ああ、でもなぁ」
「レイン」
「はっ! ああ、ごめん。よし、目的も達成したしすぐに山を下りよう!」
「え? ええ、そうね」
やばいやばいと内心で呟きながら撤収を始める。
が、遅かった。
頑張って建てた将校用テントの片づけにもたついていると大勢の気配がこちらに近づいてくる。
その騒々しさはアンリシアも気付くぐらいだ。
「レイン……なにか近づいてくる」
「みたいだね」
ああ、間に合わなかったか。
いや、まだチャンスはある。アンリシアを抱えてダッシュすれば逃げられないこともない!
「そこに誰かいるのか!?」
「あら、人だわ」
「アンリ、逃げるよ」
「え? だめよ。兵隊みたいだもの。ちゃんと事情を話さないと」
ぬわぁ。ここでアンリシアの真面目な性格が裏目に出ている。
いや、大丈夫だ。
いくら真面目でもちゃんと説明すれば大丈夫。
「アンリ、連中はどっちの方角から来てる?」
「方角……?」
アンリシアはきょろきょろと辺りを見回し、そして首を傾げた。
「どっち?」
あああああああああああああああ!
まさか、ここまで一緒に色々巡ってきて気付かなかった。
この子、方角ちゃんとわかってない!
なんでこんなとこでドジっ子要素出してくるの!?
可愛い!
いや違う。落ち着け私。
「アンリ、落ち着いて聞いて、あっちはマウレフィト王国じゃないよ」
「え?」
「この山は境界線も兼ねてるから」
「え? それなら……」
と、そこまで呟いてアンリシアも気が付いた。
「サンガルシア王国」
「そう」
疫病と聖女の国。
「お前たち! 動くな!」
間に合わなかった。
木々の間を縫って現れた兵士たちが槍や剣を構えてこちらを威嚇し、そのまますばやく包囲した。
「貴様ら! ここはサンガルシア王国の国境だぞ」
「いやいや、マウレフィト王国の国境内でしょ?」
こうなったら仕方がない。
私はアンリシアの側に寄りながら答えていく。
「いいや、サンガルシア王国だ!」
「どこにそんな証拠ありますかぁ?」
「なっ! この!?」
「マウレフィト王国の人間が、マウレフィト王国の領内を歩いてて、なんでサンガルシア王国の人間に文句を言われないといけないんですかぁ?」
「貴様……ふざけるのもいい加減にしろ!」
「なに? やるの?」
よし、このまま乱闘に持ち込んで全員気絶させて知らんぷりして逃げるっていう選択肢が見えてきた。
そもそもこの山そのものが国境線状態なんであって、どこからが~っていうのは明確になっていないはず。
「そもそも、こんな国境があいまいなところに兵隊を連れて来てるそっちの方があやしいんじゃないの!」
「ぐっ!」
よし勝った。
相手が言い負かされていると思っている内に逃げてしまおう。
「では、そういうことで。アンリ、行こう」
「あっ」
と、引っ張ったところでアンリシアから抵抗があった。
違う。
誰かが彼女の反対の手を掴んでいる。
いつのまに。
「触れてしまったな」
一般兵士の格好をした男がにやりと笑う。
だけど、その兜の下にある顔を私は知っている。
「サンガルシア王国の人間に触れた以上、疫病が伝染した危険がある。であれば、マウレフィト王国との取り決めでそちらの国に帰すわけにはいかない」
「あんた……自分が何をしたかわかってるんでしょうね?」
「聖女に睨まれるのは悲しいな。……いや、そちらの国ではいまだに魔女と呼んでいるのだったか?」
「この子はそこらの一般人と同じじゃない。国際問題にしたいわけだ?」
「国境線上を少数でうろつく貴人などいるわけがないだろう」
「よく言う」
「……お前、俺が誰か知っているな?」
「それで変装したつもり? その偉そうな喋り方をやめてから言え」
「くっ、言ってくれるな」
「レ、レイン?」
ああ、最悪。
こいつの名前はダイン・ラン・サンガルシア。
サンガルシア王国の若き王様だ。
ああ、もう忘れてた。最悪。
第二部始まっちゃったじゃないか。
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