ヒロイン剥奪! ~オープニングで悪役令嬢を落としたらストーリーから蹴りだされました~
ぎあまん
01 ヒロイン剥奪まで後15話
水たまりに映る自分が黒く染まっていく。
麦わら色だった髪が、夏の空みたいだった瞳が、どちらも月のない夜の色に変わっていく。水に炭を落としたように滲んでいき、やがて全てを黒に変える。
ああ……これ、知ってる。
レイン。
私の名前はレイン。
ラッツビー村、ジョンの娘レイン。雨の日に生まれたレイン。
私はいま、魔女に変わろうとしている。
「……って、これあのオープニングじゃん!」
冴え冴えとした月光が降り注ぐ池の前で私は叫ぶ。
思い出した。
なんでだかわからないけど、これだけは思い出した。
私はこの光景を知っているんだ。
『サンドラストリートの小魔女』
それがこの世界を語ったゲームの名前。
そして私はその主人公。見習い魔女……小魔女のレイン。
いまの私の状態はタイトル画面をちょっと放置した時に出てくるオープニングムービー冒頭十秒ぐらいのところだ。
まだテーマソングも流れていないようなところ。
でも、私はあのオープニングとテーマソングが好きで何度も見ていたからわかる。
落ちてきそうな青い月。
池の中央で王者のごとく鎮座するレインツリー。
六歳の私は森で迷子になった末にこの池に辿り着き、そして魔女になる。
ああ、だけどまだムービーの先には向かえない。ムービーの中では数秒後だけど、実体験ならばそれから四年後。
「大変!」
本当にそれが四年後に起きるのならば、私は対策しなければいけない。
四年後の未来を打ち砕かなければならない。ゲームの中では設定で済まされてしまうけど、実体験となるならそんなものは回避しなければならない。
四年後……十歳のとき、村は賊に襲われて火に呑まれる。その時に助けてくれた騎士に見出され、私は魔女に弟子入りすることになる。
魔女に弟子入りはいい。
……いや、よくないかもしれないけど、それはまたその時に考えるとして……いまは四年後のことを考えよう。
「大丈夫、なんとかできる」
なぜなら、私はこの世界のことをよく知っているのだから。
確信と共に立ち上がる。もう髪と目は完全に黒になった。いや、光の加減でちょっと青くなったりするのだけど、そんなのは些細なことだ。
「……月の道をここに」
本当なら色々な条件を達成した後で手に入る合言葉だけど、もう知っているんだからそういうのは関係ない。
合言葉と共に池の水面にレインツリーへと続く光の道ができる。
ゲームの中ではよくある演出だけど現実で見たら「ほんとにできんのかよ⁉」って思ってしまうよね。ドキドキしながらつま先でツンツンする。よし、大丈夫っぽい。
光の道を歩き、レインツリーに辿り着く。
すると根本の当たりに大きな両開きの扉が現れる。私が前に立つと、それは音もなく開く。
中にあるのは透明感のある石っぽい素材で作られた広い空間。そこを占めるのは魔女の大鍋、儀式台、精霊鍛冶場、薬草温室などなど……このゲームのクラフト要素の全てが揃っている。
そして……その奥にある、邪悪な雰囲気が漂うぶっとい鎖で封じられた真っ赤な扉。
ここはこのゲームのクリア後のお楽しみ要素。
隠し工房と隠しダンジョン。
「雨は再び流れる」
二つ目の合言葉。
その瞬間、シンとしていた隠し工房に音が溢れる。魔女の大鍋が火に焙られ、儀式台の水晶器具がシャンシャンと音を鳴らし、薬草温室の空調魔道具が起動音を低く唸らせる。静かなのは精霊鍛冶場ぐらいだ。精霊と契約してないからね、仕方ないね。
「よし」
合言葉は三つある。三つ目で隠しダンジョンの扉が開くのだけど、いまはいい。
私のレベルが足りない。即死確定なダンジョンの封印を今解く必要はない。
この森ってクリア後要素が隠されているだけあってフィールドで採取できる薬草のほとんどが手に入るんだよね。
でも、フィールドの薬草は一度採取するとしばらく生えてこないんだけど、そこで役に立つのがこの薬草温室。ここに種を植えるとなんと三日で薬草が生えてくる。栄養剤が作れるようになるとなんと一日で!
このゲーム、クラフト要素でレベルアップできるからRTA(リアルタイムアタック)を目指すなら序盤でどれだけ効率的にクラフト素材を集められるかが肝なのだ。
ふふふ……だけど、現実のRTAだと設備を整えるところも予定に入れないといけないけど、この隠し工房には全部そろっている。いないのは精霊だけ!
でもそれ、序盤のレベルアップには関係なし。装備を揃えるには重要だけどね!
「ふふふふ……やってやろうじゃない」
弱気な村娘レインは死んだ!
いまここにいる魔女レイン。
まだレベル1だけど! 護衛がいないとスライムっぽい雑魚キャラのポニョンにすら負けるような弱さだけど!
最速レベルアップを実行してやろうじゃない!
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