10年前に消えたあの子が現れた話

九條恭

第1話 こんにちは、おかえり。

「おはよう、幸。よく眠れたか?」

 

 僕は今、舗装されていない道をガタガタと進む箱に輸送されている最中だった。

「おはよう父さん。もうそろそろ着きそう?」

「そうだな〜多分、いや恐らく、道が合っていればあと30分くらいだろ!」

 どうやら自信が無いようだ。少なく見積っても1時間はかかるだろう。

 父は明るく常に元気だが、少々抜けているところがある。気にしても仕方がないため、僕は再び眠りに落ちようと深く息を吸った。

「そういえば幸。村に戻るなんて10年振りじゃないか?なぁ。」

 が、すぐに阻止された。話していないと間が持たないのだろうか。正直、運転に集中して欲しい。

「まぁ…10年ぴったりくらいかな。小学生の頃にあのでっかい山に入って遊んだ記憶はあるよ。」

「おぉ、やっぱりそのくらいだよなぁ。いや〜あんなに小さかった幸が帰ってきたら、婆ちゃんたち喜ぶぞぉ。」

 父さんはカラカラと笑う。

 そう。僕こと『一宮幸』はこの夏、故郷の村へ帰省するのだ。これは一時的な帰省ではなく、今後は村の学校へ通い、村で働く。

 若者心としては、都会で作った友人達と遊びたかったが、親の仕事の事情とならば仕方がないだろう。

 世の中不景気なのだ、本当に仕方がない。

「そういえば幸、村ですっごく仲良しだった子がいなかったか?何だっけなぁ、あの男の子…」

「居たっけそんな子。昔のこと過ぎて忘れちゃったよ。」

「おま、そんな寂しいこと言うなよ〜。一緒に花火したり虫取りしてただろ?なーんか昔はアグレッシブだったよなぁ。」

言われてみれば、そんな風によく遊んでいた気がする。幼い頃は毎日が楽しくて特別だった。

自堕落な現在と相対してか、それを思い出そうとすると胸の辺りが嫌に傷む。


「きっと、あの子も楽しみに待っててくれてるよ。」

 車は僕を載せてスイスイと進んでゆく。

 父さんがぼそりと呟いたその一言を、僕は聴き取ることが出来なかった。





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