第35話 おまえのその薄っぺらい正論は単なる言い訳だろ?(3)

 その後、備品のポットが壊れているという事実が発覚しました。壊れているといっても尋常な壊れ方ではなく、私がお湯を沸かそうと取っ手を持ち上げたとき、底からガバッと取れてしまうような状態でした。仮にお湯が入っていたら大やけどです。私はそれを知らずに取っ手を持って本体を下げました。そして「壊れてます」という付箋を貼っておきました。その隣には代わりの白いポットがすでに横に用意してありました。

 私はその時ピンと来ました。「これは壊れたのではなく壊したのだ」と。しかもそれは日にちが特定でき、その時の人間も限られると。日にちを逆算すると、4日前に私が壊れているポットに水を入れたので、その日には壊れていないはず。3日前はA子とバイトのおばちゃんの2人。2日前は全員が休み。そして当日の朝、ポットがこんな状態になっている。ということは、ポットがこの状態になったのは3日前と予想されます。ということは、その時いたのはA子とバイトのおばちゃんだけ、ということになるわけです。

 そもそも、私は犯人捜しをするつもりはありませんでしたが、ポットといえ備品であり自分のものではなくみんなで共有しているわけです。値段だって7,800円くらいはするでしょう。そして、ポットがそういう状態になってから少なくとも3日は経過しているわけです。報告くらいすぐにあってもよさそうなのにA子がLINEでその報告を写真付きでしたのが、夕方の4時過ぎです。どう考えたって遅すぎます。自分以外のほかの人も知ってるわけですから。そのLINEには「ポットが壊れました。隣の白いポットを使ってください」とある。そんなのは既知のこと。なぜに報告が遅くて「壊れた」という書き方なのか?私は「A子が壊したのではないか?」という疑念が払しょくできないでいました。そして気になったのは、「壊れている」ポットの横に既に代わりの白いポットが置いてあるということです。ではなぜ使えないポットを置いておく必要があるのか?使えないからどこかにおいておけばいいのでは?とも思いました。

 閉所した時間に事務処理をするのですが、A子に自分の書類の確認をしてもらいました。するとしばらくしてその書類に付箋がついて帰ってきました。その書類はすぐにFAXする必要があったため、少し気がもめました。付箋には「??は確認しなくてもいいのですか」とあった。その確認は内輪の人間の確認事項であり、後日でも全く構わない事項でした。「それを確認してまた書きなせってこと?今やる必要性が感じられない。しかも時間ないのはA子も知ってるはずなのに」という思いが沸いてきました。

 「この付箋はどういう意味合いで貼ってあるの?いまこれをやるべきなの?」

とA子に問いました。私はある意味の嫌がらせとして受け止めていました。

「確認したほうがいいと思って書きました」

そらそうよ、そんなのわかってる。だけど俺の言いたいのは

「俺が聞いている意味わかってる?」

とA子に言うが、知らない、わからない、そんなつもりはないの一点張り。おそらくA子自身の真意を言うつもりがないのだろう。その勢いに乗じてポットの件をA子に問いました。

 「このポットの件ってどうなってるの?3日前になったんでしょ?」

 「壊れました」

 おいおい、壊れたっていう状態じゃないから敢えて聞いてるんだろうよ。しらばっくれると困るんですけど。

 「よく考えると3日前にいたのはA子とおばちゃんだけだよね?この壊れ方って壊れたっていうレベルじゃないよね?」

 「いや壊れたんです」

 「じゃあ、3日前のいつ頃壊れたんだ?」

 「帰り際です」

 「報告するのが遅すぎるんじゃないの?LINEならいつでもできるわけでしょ?備品なんだから会社のものだよ」

 「夕方にしたじゃないですか。忙しかったから遅くなったんです」

 おいおい、それだから言ってるんだろうが。普段は些細なことも懇切丁寧に書かなくてもいいことを速攻書くくせして。そんなに言うほど激務じゃねーだろ。しかもちゃっかり代わりの白いポットが用意してあるじゃねーか。こいつを取りに閉所後、鍵開けて2階まで取りに行くほうがよっぽど手間だろ。

 「俺が言いたいことわかってるの?別に壊そうがいいけどすぐに報告してないっていうのはどういうことか?ってことなんだけど」

 壊れたのは事実なのだから、それをすぐに報告していないのはよくないという意味合いを全く理解していないという言い分だ。というのもあるが対応の「不誠実さ」がどうもひっかかてならない。うすうす「壊した」という事実を隠すための工作だとわかってきた。

 「会社の備品が壊れたのにそれはどうなの?その真の意味合いがわかってないよね?本当にわかってるの?」

 私はまあまあ強い口調で問いただしました。その問答がしばらく続いた後、

 「10分聞けばいいですよね?」

とA子が言い出した。わたしは、はぁ?何をおっしゃってるの?説教10分聞けば無罪放免なんて聞いたことないし、お前さんは何もまともに答えてねーじゃないか。ちっとは「謝罪の念」とかないのか?失礼極まりねーな。するとA子はだれか呼びますよと言い出した。私は警察でもなんでも呼べばいいじゃないか、と言ってやりました。A子は受話器をとるふりだけしていました。もういい加減いやになってきてらちが明かないと思ったので、もう帰れと言って残業しました。

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