迷惑メール


ぴろん♪


就寝前の日課であるミステリー小説を読んでいるとき、

炬燵の上に置いてあった携帯が鳴った。


「今、いいところなのに」

没頭していたことを中断され、少し苛立ちながら起き上がり、携帯を手に取った。

二つ折りの携帯を両手で開くと、ぱかっとアナログ音を立てた。



ーーーーーーーーーーーーーーー

このメールを5人に転送すると、

一週間以内に好きな人と幸せになれるかも!?


ーーーーーーーーーーーーーーー



「だれからだろ。しかもこんなの嘘に決まってるじゃん」


ぼくはこの迷惑メールをゴミ箱に移そうとしたとき、親指が止まった。



『好きな人と結ばれるか…』




ぼくには好きな人がいる。


幼なじみの、みのり。

性格は明るくクラスの人気者で、ぼくが言うのもなんだが、かわいい。

ぼくとは正反対の人生を歩んでいる。


家が隣同士のご近所さんだから、

小さい頃からずっと一緒にいたし、たくさん遊んだ。

年を重ねるにつれ、遊ぶ時間も無くなっていったけど、みのりは1人でよくいるぼくのことを気遣って話しかけてくれる。


この気持ちに気付いてからは、

自分から話しかけるのも恥ずかしくなってしまった。

みのりはぼくがこんな気持ちでいるなんて、

1ミリも知らないだろう。

だって恋人がいたことはお互いないし、

あいつはそういうのに鈍感だからだ。



『ぼくみたいな自分から切り出せない人間には、こういうのにあやかってもいいよね』



指は無意識に動き出し、気づいたら仲の良い友達5人に転送していた。

そしてそっと二つ折り携帯を閉じた。




明くる日、学校に着き教室に入ると、

勢いよく話しかけられた。


「おい、昨日のメールなんだよ!お前好きな人できたのか!?」


「違うよ。ぼくじゃなくて、他の人たちが幸せになるきっかけになったらいいな。って思って」


「本当かよ?お前だけ抜け駆けとか許さないからな!」


「そんなことしないよ。ほら、先生きたよ」


「朝のホームルール始めるぞー。席つけよー」

先生ナイスタイミング。


なんとかごまかせた。気がする。

こんな大事になるなんて思わなかった。


『そうだよね、送られた側はそう思っちゃうよね』




それから何日かが経ち、

いつもと変わらない朝を迎え、

学校にいった。


朝のホームルールで必要事項を述べた後に、

先生が一つぼくたちに注意をした。


「迷惑メールがこの学校で出回っているようだが、届いた人は次の人には送らない事。以上」


『そんなに校内で広まってるんだ。みのりにも届いたのかな』




その日の夜、

いつものように小説にふけっていた。

もう一冊が読み終わる頃、携帯が鳴った。


「だれだろう」


いいところなのに、なぜか、今すぐ見た方がいい気がした。


「あっ、みのりからだ」



ーーーーーーーーーーーーーーー

このメールを5人に転送すると、

一週間以内に好きな人と幸せになれるかも!?


ーーーーーーーーーーーーーーー



「どういうことだ。今日先生に注意されたばっかりなのに」


と思っていると、握っていた携帯がレトロな音を立てて振動した。

画面は、みのりからの着信となっている。



「もしもし。メール見た?」


「うん、今ちょうど見てたけど。今日先生に注意されたのになんで?」


「メール最後まで読んでないの?」


「最後って何?」


「知らないんだ」


「じゃ、この電話切ったら見てよ。そして部屋の窓開けてね」


「窓?うん、わかった」


電話を切り、さっきみのりから届いたメールを開く。

確かにぼくは上の文を読んだだけで、全文は読んでいない。



ーーーーーーーーーーーーーーー

このメールを5人に転送すると、

一週間以内に好きな人と幸せになれるかも!?



このメールを5人に転送した後に、

再度このメールが回ってくると…

その人と結ばれるかもっ!

ーーーーーーーーーーーーーーー



『ん、どういうことだ』


思考が追いつかない。

ただ部屋の窓を開けるように言われたのは覚えている。

カーテンを開け窓を開けると、

みのりも同じように窓を開けてこっちを見ていた。



「これ、どういうこと?」




「好きだよ」

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短編小説集 serendipity @gun1208

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