第38話 復元再生の作業終了したけど....

「まあ、余り小さな事で、クヨクヨしても仕方がないよ」


「そうだ、そうだ、小さな事は、忘れちゃおう」


「純粋な乙女には、みんなが優しく接してくれるから大丈夫」


「小さな失敗なんか、ホットケーキを食べて忘れちゃえ」


 私は、落ち込みそうな自分に向けて、前を向くように、そして、奮い立つように励ました。


「よーし、忘れた」


「私、復活!!」


 自分の言葉で、沈む心を簡単に生き返せる、燃費がエコで安上がりな、とっても単純な私。


 そんな私は、擬似神眼に青い炎が宿るように、視界に青い陽炎かげろうが重なり合うように、見えて来た。


「私は負けない!!」


 誰も見ていない空間で、私は、この凄惨な空間に負けないぞという、気合の言葉を叫んでみて、更に自分に活を入れた。


「ありがと、私!!」


 そして、過去の自分に対して、一応お礼を言っておいた。


 過去の自分の応援の甲斐があって、私は落ち込まずに、次の作業に着手することが出来る。


「では、では、ここは、気合を入れて....」


 死神が起こしたとしか思えない、凄惨な景色の中で、気分が落ち込まないように、元気よく独り言を喋る私は、次の作業に取り掛かろうと気合を新たにしていく。


 それじゃー、次の作業行程──肉体再生作業に取り掛かろう。


 だけど、今の私の神水パワーでは、失敗しちゃうかもしれないから、ここは、やっぱり....。


 こうするっきゃ、ないよね。


 ──綺麗で──美しくて──優しくて──慈愛に満ちてて──。


 ──神水のように澄んだ御心を持った救世の女神。


「マリティカ様、お願いします」


「──哀れで──罪深くて──卑しい私に、どうか、マリティカ様の御力をお貸しください」


 私は、恥も外聞も脱ぎ捨てて、もう、マリティカ様相手には何度もやりなれた土下座を、この場でもやっちゃう。


 そんでもって、誠心誠意に頭を下げて、心の中でも祈りを捧げて、休戦中のマリティカ様に、救助の要請を求めていくの。


 そんな、私の言葉に反応して、マリティカ様の神威の波動が、実験区画の空間に、見る見る内に満ちていくのが、擬似神眼を通して見ると、はっきり見えてしまう。


「マリティカ神像を今度は、20体...嫌、25体..それじゃー..30体....ちくしょう、泣けなしで、40体、この国の各神殿に、振り分けて奉納します」


「それで、何とか助けてください──」

「──お願いします」


 背中の方から、細かい水しぶきが私にかかって、それと同時に、強い御力も感じとれる。


 多分、私の真後ろで、マリティカ様の神能──自由自在に操る神水を使われたんだろう。


 その、感じた御力は、神体を形作られたマリティカ様が、この世界に顕現したことによって生じた、女神様の力の余波なのだろうと、推察してみた。


「──アヴィ、頭を上げなさい」


 私の声が途切れるのと同時に、私の真後ろから、マリティカ様の柔らかい声が、私の声を引き継いで、発せられた。


「貴女の言葉を使えば、今は、休戦中なんでしょ」


 マリティカ様の言いつけに従い、頭を上げると、私の真横から、神水で御姿を形作られたマリティカ様が、ゆっくりとした歩幅で進んできた。


 そのまま私を真横を通り過ぎると、興味深そうに室内を歩き回ろうとしているのが、私の擬似神眼の両目に、情報として入ってくる。


「だから、今回は無料よ」

「直ぐに終わらせるから、少し待ってて」


 マリティカ様は、私に軽く話をしながら室内を見て回ると、おもむろに、両手から神水のミストを放出していく。


 その霧の触れた物は、光を放ちながら時間が巻き戻るように、修復されていった。


 霧に触れた、撒き散らされた薬剤の混じり合った水も──。


 霧に触れた、その辺に捨てられた水晶瓶も──。


 ──全てが霞がかり、光の粒子となって消えてしまう。


 多分、ここに撒かれた薬剤は、隣の部屋の工房室の薬剤棚に、元通りの状態で棚に収まったんだろう。


 そして、その霧に触れた2体の亡骸なきがらも──。


 私が、手に握っていた2つの魔導指輪イキルンルンも──。


 それは、眩い光を放つ粒子が、徐々に、擦り寄るように集まり、やがて眩い光を放ち結合して、神水の霧が漂う中で復元再生されちゃった。


 その、復元再生された2人なんだけど、ギレン兄は、汚れ一つ見つけられない真新しい鎧を装備して、イエラちゃんは、ほつれ一つも無い新品に見える神官衣装を着ていて、ちょっと前の凄惨な爪痕からは、考えられない程の、安らかな状態で、2人共に鼻から息をしながら、幸せそうに寝そべっているんだよ。


 ──お互いに──きつく──強く──しっかりと抱き合った姿でね。


 ──しかも、お互いに目を瞑って──甘い口づけを交わしながら....。


 これが、俗に言う、吊り橋効果の結果なんだね。


 うん、とっても、いい勉強になったよ。


 しかも、今の擬似神眼を装備した私には、しっかり、見えちゃうんだ。


 2人の間に、切れない赤い糸が、しっかり結ばれてるのを──。


 その、2人を結ぶ赤い糸は、マリティカ様の加護付きの糸だから、とんでもない効果付き。


 その赤い糸の、具体的な効果については、2人が、恋を育んでいく過程で、ゆっくりと解き明かしてくれるんじゃないかな?


 いいなー。羨ましいな。


 私も早くCHU♡!!CHU♡!!したいな。


 このまま、2人をこの場に寝かしていたら、どうなるんだろう。


 実際の死の恐怖体験をした後は、やっぱり....超最高に、燃え上がるんだろうなー。


 こうゆう時こそ、記憶を覗いて、恋愛授業として、しっかり勉強したいのにな。


 そうだ、実験区画の天井部には、魔導式映像記憶水晶球『ミルミルミルルン』が取り付けてあるから、後で確認しよう。そうしよう。


 後は、今度、夜の寝る時にでも、この後の記憶を覗けるように、サラにも、お願いして頼んでみよう。そうしよう。


 よーし、私も、早く恋愛レベル2になるように、しっかり勉強するからね。


 ギレン兄もイエラちゃんも、私の恋愛授業の題材として、しっかり色々頑張ってね。


 私が、そんな卑猥な思考をしているのを、神眼で全てを見て、しっかり状況把握してる筈のマリティカ様は、うっすらと笑みを浮かべてた。


「──終わったわ」


 その言葉をマリティカ様が発すると、全ての神水の霧は、忽ち薄くなり、次第に何も無かったかのように霧が晴れていく。


 ここに見える全てが、死神の呪縛からも解き放たれ、女神の御力の拘束からも、解放された様子が、私の擬似神眼に映った。


 そんな、周りの景色をみて、私は、今更ながら、気づいてしまった。


 ──これって、もっと最初から、マリティカ様に、全てを頼んで任せちゃえば、こんなに時間も掛けずに、もっと早く済んだんじゃ!!


 チクショー!!負けたー!!


 キーッ、悔しい!!


 でもね、でもね、いくらマリティカ様でも、魂がなきゃ、生き返らせることが出来ないって言うから、私の活躍も少しはあるんだからね。


 私の活躍も、忘れないでね。


 お願い。しょぼん。


 自信喪失した私は、擬似神眼の効果が勝手に解けて、普通のキラキラお目々に切り替わる。


 その、キラキラお目々は、何時もの見え方とは違って、なんだか、周りの景色が、いっもよりキラキラ光って見えちゃうんだ。


 これは、多分、擬似神眼のやり過ぎで、お目々が疲れたんだよ。


 きっと、そうだよ。


 そうに違いない。


 間違いなく、そうなんだから....。


 周りの景色が、眩しく見えてるだけで、涙ぐんでもいないし、泣いてなんか、いないからね。


 そう思いながら、私は、両目から下たり落ちそうになっている、目の汗をゴシゴシと右手の甲で拭う。


 2人が生き返ったら、本当は素直に喜びたいし、本当に凄く嬉しんだけど、マリティカ様への劣等感がそれを邪魔をして、素直に喜ぶ感情を表現出来ない──ねじれた心を持つ私....。


 そんな私は、重い囗を開く。


「──ありがとう....マリティカ様」


 ラスレちゃんに、例えで偏屈者と言われた私は、感謝の言葉を、ショボくれた小さな声で、マリティカ様に伝えた。


 マリティカ様は、そんな偏屈物の私にも、慈愛の微笑みを見せて....。


「私の眼で見ても、2人には、何の損傷も見られないわ」


「ただ、死ぬ体験をしたんだから、暫く、しっかりと見守ってあげて」


「じゃあ、私たちはお邪魔でしょうから、隣の部屋に移りましょうか」


「アヴィの方は、余り時間も無さそうだけど、仲直りの件も含めて、少しだけ話しましょう」


 女神の神眼で2人を見て診察した診断結果を私に伝え終わると、マリティカ様は、隣の工房室に移動して話し合おうと持ち掛けてきた。


 歩み寄る姿勢を示して、大人の対応をしてきたマリティカ様だけど、既に木っ端みじんに自信を叩き折られ、ショボくれてしまった私は、脳裏の片隅にあったメグフェリーゼ様のお言葉を思いだして、その言葉に素直に従うように頷いた後に、いやいやながら、一応返事をしておく。


「──はい....」


 そんな、超か細い空返事をした私を先頭にして、隣の工房室に場所を移そうと、1人と1神は歩き出した。


 魔導式の引き戸の扉の前に、私が近づくと、扉に取り付けた魔導感知器が作動して、ゆっくりと、2枚の引き戸の扉が、自動で左右に分かれて開いていく。


 完全に左右の引き戸が開くのを待つ間に、その様子を、腑抜けた顔で見詰めてると、ここで唱えたことで言霊ことだまさんになった、私の分身の幻影体が、「おかえりなさい。よく頑張ったね」と、出迎えてくれた気がしたけど、その言霊さんの掛けた声は、へにゃって、ふにゃふにゃになったような、かすれて弱々しい声だった。


 それもその筈、この扉を通る前に、散々生意気な声を上げたけど、見事、その自信ごとマリティカ様に叩き折られて、敗北したような、やるせなくて沈みきった気持ちの中、帰還するハメになったから──


 それは、もう、仕方がないし仕様がない。


 応援してくれたみんな、ごめんちゃい。ふにゃり。


 その気持ちを、察してくれた言霊さんは、そっと、何も言わずに、私に同化していくような気がしたよ。


 私は、完全に左右の引き戸が開き終わるのを確認してから、工房室に足を踏み入れた。


 その、工房室に、沈みきった重たい足を踏み入れた瞬間に、私の拗ねた心なんか、綺麗さっぱり引き飛ばすような感覚──そう、身体中に、今まで感じたことのない違和感が私を襲う。


 この感覚は──歓喜の波動じゃないかな?──多分だけど....。


 なんだか、とっても暖かい何かに、ゆったりと包まれてる感じがしたんた。


 私は、その暖かい波動に包まれながら、そのまま工房の中に入っていく。


 鑑賞魔導感知器は、マリティカ様を感知出来ないようで、そのまま左右の引き戸は、自動で閉じていくみたいだけど、マリティカ様は、何もないかのように、引き戸を素通りして、工房室に侵入してくるんだろう。


 私は、今は、前しか見ていないから、気配と左右の魔導式自動扉の閉まる音から、そう予測して、そう感じ取るしかなかった。


 何故なら、荒れ果てていた工房内の様子に、ビックリ仰天してしまったから。


 両目で、忙しなく工房内の見渡すのに、忙しすぎて、後ろにまで気が回らない。


 まず、工房内は、時間が巻き戻ったのが、正解じゃないかと思うほどに、つい先程の滅茶苦茶に荒らし回った景色が、嘘のように、全く違う景色に生まれ変わっていた。


 シフィ姉ちゃんが、荒らしまわった薬剤棚も、すっかり元通りになってるし──。


 滅茶苦茶に散らかっていた素材棚も、棚が辺りに放り出されてたのに、元通りになってる──。


 床に散らかった錬金道具類も、こぼれた薬剤類も、綺麗に元の位置に戻ってるし──。


 ぶっちゃけ、時間を巻き戻す御力を使ったのが、丸分かりなので、そこには、もう、全然驚かない。


 私がビックリ仰天したのは、今は、そこに居る筈が無い、もう1人の女神様が、またまた顕現されていて、しかも、中央作業台の椅子に、ゆったりと腰掛けていて、御自神の世界に浸っていたからなんだ。


 その女神様──メグフェリーゼ様は、同じく、ここに居る筈の無い神獣サラちゃんに向かって、凄く楽しそうに話してるのが、私の両目が捉えて注目しちゃう。


 本日2度目のご対面には、流石に驚き、豆の木、神樹の木なんですけど....。


 だって、今までに、そんな1日に何度も、女神様が顕現される出来事なんて、1度もなかったもん。


 夢世界では、何度もお目に掛かっているけど、現実世界では、今日が初めてだったんだよ。


 だけど....この世界では、私が知らないだけで、これが日常の風景なのかな?


 そんな訳ないよと、心の中で突っ込みをいれて、非日常の景色を受け入れられない私は、そんなの、私の地区の神殿にいる、業突く張りの神官さんからも聞いたことが無かったから、余計に驚いちゃって、一瞬固まっちゃった。


 因みに、神獣サラちゃんは、出べそを極限まで点滅させて、10本の淡く煌めく尻尾も、床にしおらせフニャフニャさせてるし、モフモフの神体もガクガクブルブルさせてるよ。


 これ以上無いくらいに怯えてるから、神獣サラちゃんは、漆黒の翼を揺らめかせてるメグフェリーゼ様に、どうやら、大の苦手意識を植えつけられたみたいじゃないかな。


 まあ、サラを神獣にランクアップさせたのが、あの女神様だから、サラがそんな感情を抱くのも、仕様がないかもしれないね。


「はい、わかりましたポン」


「力を使って、襲ったりしないポン」


「この力は、ちゃんとアヴィちゃんの為に使うポン」


「アヴィちゃんをしっかり守るポン」


「心に誓うポン」


 そんな、神獣サラちゃんは、女神様の目の前に床に正座して、今にも土下座しそうな姿勢をとりながら、怯え震えた超弱々しい声で、メグフェリーゼ様とお話してるみたいだよ。


 ──あれっ神獣サラちゃんがこの場にいるのに、一緒に居るはずのオロ叔父ちゃんは、この場にいないんだけど、どうしたんだろう?


 多分、オロ叔父ちゃんは、仲間外れにされちゃったと思うんだけど、今何をしてるか、ちょっと心配だから、確認しとこうかな。


 私は、毎度毎度のお馴染みの、神水加工を施した擬似神眼に切り替えて、アヴィちゃん工房の奥の廊下を見通そうとしてみた。


 でも、何時もの擬似神眼で見える景色が、しっかりと見えてなくて、抑制された視界で見えている。


 ──あれっこの部屋の奥が見えないよ。


 どうやら、私の擬似神眼の御力では、工房室の壁の向こうも、扉の向こうも、透明な障壁に遮られて、見通せないみたい。


 この場に顕現されている、あの女神様と、その周りに貼られた障壁から、簡単に予測してみると、この障壁を張ったのがメグフェリーゼ様で、多分【神結界】の御力を使って、外の世界と隔離した特別な空間を構築してるんじゃないかな?


 私の擬似神眼で、この工房室の景色を見つめると、何となくこの空間が、いつもいる空間と違う気がするからね。


 おそらくなんだけど、この空間は、次元を少しずらしているんじゃないかな?


 なんだか、そういう風に感じて見えちゃうんだ。


 どんな効果があるかまでは、私の中途半端な擬似神眼では、全てを見通すことが出来なくて、霞がかって良く見えないけど....。


 まあ、今の私の擬似神眼じゃ、これ以上の情報は得られないみたいだから、私は、擬似神眼の両目を解除して、いつものキラキラお目々に切り替える。


 そして、興味深そうに神獣サラちゃんとメグフェリーゼ様を観察しながら、そのまま歩みを進めていく。


 すると、私の放つ御力の波動と足跡から、私が自神の直ぐ側まで、近づいてきたと察知したんじゃないかと思う神獣サラちゃんが、後ろに勢いよく振り返ると、四つん這いの姿勢で、パタパタと手足を動かして、私の方に近づいてきた。


 そして、メグフェリーゼ様から、少しでも離れて隠れるように、横幅の大きい図体を必死に小さくして、私の真後ろにビクビクしながら、隠れようとしてる。


「サラ、さっき私を守るって聞こえたけど、全然、その言葉と行動が伴ってないよ」


「お願い、アヴィちゃん、サラを助けてポン」


「サラを助けてくれたら、アヴィちゃんが楽しみにしてる、夜のモフモフ祭りの間中──ず─っと、アヴィちゃんが攻めでいいポン」


「サラは、ずっと受けでいいポン」


「モフモフ祭りの間中は、絶対にアヴィちゃんに手を出さないから、今は、お願いだから、助けてポン」


 おやおや、ベロリのサラちゃんとは、思えない発言だけど、今のその発言は、信じてあげましょう。


 さてさて、それじゃー、ご降臨されたメグフェリーゼ様のご要件を、伺ってみようかな?


 例の件は、流石に早すぎるから、また違う要件で私に会いに来たのかな?


 前回は、色々ビックリする内容がありすぎて、メグフェリーゼ様のペースに、巻き込まれた感じだったけど、夜のモフモフ祭りの為に、今回は、ちゃんとするから。


 だから、応援してね──神獣サラちゃん。

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