第18話 シフィ姉ちゃんの深層思考の考察②

 さ─私の考えも上手くまとまったから、さてと、そろそろシフィ姉ちゃんの他の記憶の断片を見てまわろう。


 おっと、その前にちょっと補足しとくよ。


 なんかさ─シフィ姉ちゃんの記憶を辿たどるのに、結構なんだかんだ時間がかかってるよね。


 だからさ─ちょっと前に私自信が考案した自己魔法オリジナルマジック『常時並行思考』を使っちゃった。


 テヘヘのヘ─!!へへへのへ─!!


 この魔法は、簡単に言うと脳内にもう一人の私を出現させる魔法で、私の人格ともう一人の私の人格ができるんだ。


 今は、もう一人の私の魔法人格が、ベロリンサラちゃんの教えてくれた目的地に向かって、もう移動を開始してるからね。


 私がここで、シフィ姉ちゃんの深層思考の考察をしてる間に、目的地を目指して移動してるから、多分、シフィ姉ちゃんの深層思考の考察が終了する頃には、目的地に到着してるんじゃないかな?


 んじゃ─、そういうことで、引き続きシフィ姉ちゃんの記憶の断片や、危ない日常生活も出来たら、しっかり覗いちゃおう!!


 ん─で、シフィ姉ちゃんのやばい秘密を沢山暴いてやろう!!


 その次ぐらいにシフィ姉ちゃんの深層思考の考察、やってみよう!!


 準備はいいかい??じゃ─元気よ─く言ってみよう!!


 行ってきま──す!!


 その挨拶を心の中で叫んだ私は、一番大きな記憶の断片を、しっかりと見つめ観察する。


 すると、なんだか記憶世界に引きずり込まれるように周りの風景が変わっていく。


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 ちょっと、視界がフラフラするから、暫く待ってみよう。


 少し待つと、視界のフラつきも取れてきて、周りの様子もわかってくる。 


 うーんと....この場面は、王国騎士団約1000名と、学生志願者約200名が王国学校から、歩いて15分ほどの山の奥にあるダンジョンに到着したところからだね。


 そこまでの道のりは、道路が整備されていることもあって、魔物の襲撃もなく秩序だった行軍で、やすやすと現場にたどり着くことが出来たみたい。


 ザッ..ザッ..ザッ..ザッ..ザッ..ザッ..ザッ..ザッ

 ザッ..ザッ..ザッ..ザッ..ザッ..ザッ..ザッ..ザッ


「ぜんた─い、止まれ」


 ザッ..ザッ......................


「姿勢をただせ!!」


「これより、我らはダンジョン攻略を開始する」


「今後我が団は、小隊に分かれて作戦行動に移る」


「衛生班は、この場で待機」


「拠点建設部隊は、ダンジョン近辺に速やかに拠点を築け」


「警戒監視部隊は、この周辺に魔物を1匹も近づけるな」


「各自、小隊長に従い、作戦行動を実施せよ。」


 王国騎士団第5騎士団長ブリュ─エルドの掛け声が辺り一帯に鳴り響いているよ。


 このブリュ団長さんは、白髪のおヒゲが風に揺られて、太陽の光に照らされピカピカ輝いた頭と、力強い印象の顔立ちをしたおじいちゃんだよ。


 金色の魔導騎士鎧を装着した凛々しい姿のブリュ団長さんは、ここにいる者達、全てに威圧するかのような眼光を正面に見据えて、直立不動の佇まいをしているから、超渋々な感じでピリッとしてるよ。


 団長さんの命令に従い作業を開始した王国騎士団等は、予めあらかじ決めたように秩序を維持していて黙々と作業をしているんだね。う─大変そう。


 そんで、侵入部隊が、10人小隊とそこに学生志願者等を数人含めたパ─ティ─を組んで、次々とダンジョン内に進入していくのよ。


「みんな、危なくなったら、直ぐに魔導転移版カエルンルンを使って離脱しろ」

殿しんがりは、俺が何とかするから、遠慮せずに使えよ」


 ギレンさんは、自分の装備を1つずつ、入念に確認しながら、みんなに最後の忠告をしている。


「何言ってるんだ、ギレン。皆で協力して、この難局を乗り越えるんだ」


 シフィお姉ちゃんは、相変わらずの脳筋さんだった。


「は─シフィ。お前には、もう、何も言うことね─よ」


「だから、俺の言葉を遮るんじゃね─」


 ギレン兄は、シフィ姉ちゃんを侮蔑の眼差しで凝視して、睨みつけた。


「もう、ここまで来て、争わないでよ」


 ラスレちゃんは、手で握んで離さない様々な文様や魔法陣が描かれた、私が作成した特性の魔術杖を振り回して、争い合う2人に向かって、争いをやめるように文句を言う。


「あ─、もうやめろ。今はもう争うな」


 ここでも、また、セルディさんが2人の仲裁に乗り出してくる。


「みんなで、これから一致団結して協力していくんだ」


「ダンジョン内まで、揉め事を持ち込むな」


「そんな調子だと、みんな、その争いに巻き込まれて全滅するぞ」


「だから、頼むから、もうやめてくれ!!」


「無事に帰還してから、思う存分、喧嘩してくれていいから、今はお互い腹の虫は収めてくれ」


 2人に強い叱責を浴びせて、なんとか場を収めようとするセルディさん。


 なんで、こんな大変そうにしてるのに、シフィ姉ちゃんにアタックするのかな?


 もしかして、私ともっとコネを深めたいから、シフィ姉ちゃんに猛烈アタックしてるのかな?


 恋愛レベル1の私だから、全然わかんないや。


 おっとまだ、演説は続いてたよ。


「さあ、みんな、いつも通りの隊列でいくから、よろしくな」


「しっかり、いつものように協力して、みんなで必ず帰還しよう」


「俺もいつも通り、与えられた役割をしっかり果たすから、安心してくれ」


「みんなも、自分達の与えられた役割を、しっかりとこなしてくれ」


 セルディさんは、身振り手振りを加えて、真剣に仲間達に訴えかけてるね。


 やっぱ、真面目さんだよね。


「いつも通りやりば、必ず生き残れる」


 仲間達1人1人の目をしっかり見つめて、心に訴えかける。


「いままでだって、そうだったはずだ」


「だから、変に突っ走らなくていい」


「無謀に魔物に立ち向かわなくてもいい」


「変な功名心なんか、迷わず捨ててしまえ」


「敵に敵わないと思ったら、迷わず助けを呼べ」


「みんなで、しっかり声を掛け合うんだ」


 仲間達1人1人の目を準々にしっかり見つめて、心に訴えかけていく。


「俺たちは、仲間だ。そうだろ」


「一緒に何度も死線を掻い潜った仲間だ」


「何度も臭い飯を分けあった仲間だ」


「怪我をしたときも、みんなで助け合っただろう」


「迷宮で迷子になった時も、みんな最後まで諦めなかっただろ」


「お互い蟠りわだかまもある奴もいるだろうが、今まで信じてやってきただろう」


「1人1人出来ないことも、仲間なら助け合える」


「仲間を信じて協力し合うんだ」


「そして、いつも通り、みんな一緒に帰還しよう」


「みんなで帰還して、この冒険も笑い話にしてやろう」


 セルディさんの身振り手振りを加えた、熱い演説は終わりを告げた。


 は─、やっぱ、このパ─ティ─は、セルディさんがいないと、間違いなく空中分解するのがわかった。


 それは、この演説を聞いて、確信がもてた。


 そんで、この『幻獣の守護者』には、シフィお姉ちゃんがいらないね。


 シフィ姉ちゃんのせいで、『幻獣の守護者』にギシギシ歪みがでてるよ。


 おっと、つづき、つづきっと!!


「あ─、わかったよ。俺がお前らを必ず守るからな」


 ギレンさんもギラついた目をやめて、笑顔を見せている。


 どうやら抜いた矛を収めてくれたようだ。


「よし、『幻獣の守護者』の最初の活躍だ」

「ここから、私達の活躍が始まるんだ」


 シフィお姉ちゃんの、脳筋具合は重症だと、このシフィ姉ちゃんの発言から、また発覚してしまった。


 今までシフィ姉ちゃんに、あまあまに接しすぎて、ここまでみんなに迷惑かけてるなんて、全然知らなかった。


 本当、みんな、ごめんなさい。


 今度から、ちゃんとをつけて管理します。


「わかったわ。最初は魔法節約していくから、よろしくね」


 ラスレちゃんには、魔法が使えなくなってもいいように、彼女専用の杖をこの前プレゼントしたから、そう簡単にやられないようにしたはずなんだけど、ラスレちゃんは、どうなったのかな?


 生きてて欲しいな。ラスレちゃんと話すると、色々参考になるし、面白可笑しく話すから大好きなんだよ。


「危なくなったら、私が守ってあげるよ、ラスレちゃん」


 イエラちゃんは、皆の緊張を解そうと笑顔で右手に持っているライトメイスをブンブンと振り回しながら、ラスレちゃんに話しかけてる。


 そうした打ち合わせが一区切りついたのを見計らって、彼らのすぐ傍で侵入準備を完了させた騎士小隊の集まりの中から、1人の騎士が『幻獣の守護者』の待機している場所を目指して、ゆっくりと歩み出てきたけど.........。なんだろな、あの騎士の人?


 確か、さっき見た記憶の断片に出てたよ。


 シフィ姉ちゃんの記憶に鮮明に残ってる人だよ。


 その人物は銀色の魔導騎士鎧を着込み、魔導剣を腰に刺した風格のある騎士で、『幻獣の守護者』の面々が準備している場所に、ゆっくりとした足取りで近づいてくるよ。


 あ─この人か─思い出したよ。記憶の中でシフィ姉ちゃんが、学校の待機時間に訓練しているのを見て憧れを抱いた人だ。


 確か....名前は....そうそう、コスタドルさんだ。


 御免、御免。


 私の記憶じゃなくて、シフィ姉ちゃんの記憶だから、うっかりしてた。


「おい、どうだ君達、準備できたかね?」


 声を掛けてきた人物は、この場の小隊を指揮する小隊長のコスタドルさん。


 小隊長を任せられるだけあって、凄く頼りになりそうな怖い感じのおじちゃんだよ。


 黒髪の短い髪の毛に肌もすっかり日焼けして、渋面のお顔が板についてるね。


 シフィお姉ちゃんの脳筋センサ─に反応した人だよ。


「準備出来次第、侵入するぞ!!大丈夫か?」


「君らは、我ら騎士団の後ろから、しっかり付いてこればいい」


「決して、我らより前に出ようとするな」


「私も、お前らの面倒は、見てやるつもりだが、洞窟内では、何があるかわからん」


「君らは志願したんだ。自分の命は自分で守るぐらいの気持ちで挑め」


 コスタおじちゃんは、『幻獣の守護者』のみんなに向けて、洞窟内の忠告やら心構えやらの注意事項を説明していく。


「はい、コスタドル様、宜しくお願いします」


 シフィ姉ちゃんが、高揚した顔と尊敬の眼差しでコスタおじちゃんを見つめて、直立不動の姿勢で受け答えをしているよ。


「はい、了解です」「はい」「了解」「はい」


 他の面々も返答して、そろそろ準備が出来たみたいだよ。


 そうして準備のできた『幻獣の守護者』のみんなは、10人小隊の王国騎士団と共にダンジョン内部に進入していく。


 そして、この場面で私が見ていた記憶の断片が崩れてしまう。


 しかし、その崩れた記憶の断片は、直ぐに寄り集まり新たな記憶の断片に生まれ変わった。


 次の記憶の断片を見る前に、少しだけ考察しようかな。


 ここまで、見て感じたんだけどさ──そもそも、ここで何とか踏みとどまって引き返しとけば、『幻獣の守護者』のみんなが負傷しなくても済んだんじゃないかな?


 あ──あ、もう、本当に可哀想。


 全てはお姉ちゃんが、厄介な種を持ち込んだからだよ。


 それは、もうちゃんと理解できちゃった。


 絶対に、みんなを全回復させて、しっかり謝ろう!!


 本当、駄目駄目なお姉ちゃんで、ごめんなさい。


 それじゃあ、まあ、気をとりなおして、続きをスタ─ト!!


 声の出ない身体もない精神体の私は、心の中で思いをつづり、新しくなった記憶の断片を、しっかりと見つめ観察する。


 すると、記憶世界に引きずり込まれるような感覚を覚えながら、周りの風景が移り変わっていった。


 次の場面は、いよいよダンジョンの中みたいだね。


 その侵入した初級ダンジョンは、普段とは全くかけ離れた殺戮さつりくの世界となっていて、普段の弱い魔物達しか出現しないダンジョンとは、全く違う世界に変化を遂げてるんですけど....。


 こりゃ──、凄いや!!


 うわ──、私がこのダンジョンで実習訓練した時と全く雰囲気も周りの風景も違っているよ。


 ちょ──怖そう。ブルブルした。


 ダンジョンにいる魔物は、ダンジョンが考え出した幻想の魔物が、ダンジョンの一部である魔石の力で実体化してるんだ。


 だから、魔石を破壊すれば、簡単に消滅できるんだけど、魔物によって魔石の位置が違うから、なかなか厄介なんだよ。


 でも、魔物達を切っても血がドバ─ッて噴出ふきださないから、血が吹き出すと顔が真青まっさおになる私でも、ここのダンジョンなら、ちょっと怖いけど、なんとか戦えるよ。


  私が、色々考えている間にも、時は動いていて、彼らは小規模な戦闘を、騎士小隊が全面に押し出す陣形で、何度も繰り返していたけど....。


 少しずつ、苛烈な戦闘状態に陥ってるような気がするよ。


 向こうの方が、魔物がひっきりなしに数を武器にして、襲いかかってくるから、ちょっとずつ、後退しながらの戦闘を余儀なくされたようだよ。


そんな騎士小隊と『幻獣の守護者』の面々は、追い込まれるように、大空間に侵入しちゃう。


 人間側の都合なんか、気にしないでお構いなしに、魔物達も大広間に雪崩込んできたよ。


 更には、首なし騎士デュラハンやら邪黒犬妖精ヘルハウンドやら 女面鳥ハ─ピ─とか、他の種類も混ざった混合集団が空間の隅からも出現して、最初の遭遇戦そうぐうせんが始まっちゃった。


 魔物の方は大体100匹ぐらいの集団で、数は向こうの方が圧倒的に多いね。


 だけど、王国騎士団の騎士等は、全員、全身魔導鎧装備してるから、生半可な攻撃は、全て魔法障壁が弾いてて、数の不利があるのにも関わらず、広い空間を利用して、圧倒的に騎士団が有利に戦闘をすすめてた。


 なんだ、狭い空間だと、戦いにくいから、広い空間に誘導したんだ。


 王国騎士団の装備は、見た感じだと、かなり充実してるから、魔物達が紙屑のように次々に切り刻まれてる。


 そんな戦闘場面が繰り広げられる中で、特に凄いのが、騎士小隊長のコスタおじちゃん。


「小隊!!密集隊形を維持しろ」


「飛び出してきたまとを集中して倒せ!」


「魔銃班、飛んでる獲物を早く仕留めろ!」


「しっかり狙えよ!」

「グランド、俺の後ろは、任せた」


「しっかり守れよ!!」


「魔術班、私が奴らを惹きつける」


「準備出来次第、構わず放て!!」


 コスタおじちゃんは、的確な指示を出してる。


 最前線で、剣筋が全く見えない凄い剣技を高速で繰り出している中で。


 さらには、コスタおじちゃんの間合いに入った魔物等を一網打尽に切り刻みながら。


 しかも、見たことも無い剣舞いで、そんで、足さばきも凄い早くて的確なんだよ。


 もう私はこの記憶を見て感動したよ。


 今まで見た中で間違いなく最高の剣技だよ。


 本当に凄い剣技で、口が思わずアングリと空いちゃった。


 そんなコスタおじちゃんの間合いの内側が台風の目のようにスッキリしてた。


 台風の目の外側では、灰の小山がどんどん積み重なっていってる。


 そして、ちゃんともう1人の騎士も、コスタおじちゃんの後ろで、同じように剣の結界をつくって灰の小山を量産させてた。


 王国騎士団の実戦なんて、見たことなかったから、超ビックリだよ。


 私達ぐらいの年代の男子達が、王国騎士団を尊敬の眼差しでみつめて、憧れる気持ちがわかったよ。


 あんまりにも、騎士団のレベルが高くでビックリしてけど、勿論シフィお姉ちゃん達『幻獣の守護者』もしっかり、連携し合って騎士団の後ろで戦っているんだから、わすれちゃ駄目だよ。

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