第12話 シフィの乱入③

 よーし、分析もおわったし、そろそろ面倒くなったから、早くこちらのペ─スにしちゃおう。


「お姉ちゃん!!もしかしてだけど.....」


「私と交わした契約書の約束をやぶったんじゃない??」


 シフィ姉ちゃんの魔導銃の銃音が突然途絶えた。


 ビクッ..「「うっ違う!!破ってない!!」」


 ....ビクッ....ビクッ..ビクビクッ..


 構えた魔導銃の重心が、ブルブルと震えているのが見える。


 シフィ姉ちゃんの話した声も、吃った覇気のない声音に聞こえた。


 あっ弱っ....シフィ姉ちゃん、体がビクッて震えたんですけど...。


 お姉ちゃんに新作魔導ポ─ションの被検体になる契約書では、学校の休みの前の夜だけ、飲む契約になっているけど、シフィ姉ちゃんの動作が全てをものがったっていて、その契約を破ったのが、もう、まるわかりなんだけどな。


「もしかして、私に隠れて臨床試験用の魔導ポ─ションを学校で飲まなかった??」


「「知らん!!私は知らんぞ!!」」ビクッ..ビクッ..


「「飲んでない!!私は飲んでないぞ!!」ビクビクッ....


 ビクッ..ビクビクッ...ビクッ...


 は──い。確定しました─。はい、撤収!撤収!解散!解散!!


 お姉ちゃん、後片付けよろピク!!


 そうしたいけど、まだ、続けなきゃいけないのかな?こんな茶番。


「んじゃ─学校で何があったのか、詳しく聞かせて!!」


 ビクビクッ..「「それはだな──くっ」」..ビクビクッ..


 シフィ姉ちゃんの好戦的な態度は、まったく変わらない。


 ただ、銃を握る手の握力をより強くするように握っているようで、魔導銃はギシギシと悲鳴をあげていた。


「普通の魔導ポ─ションなら、身体に異変は、起きないよね─」


「私が錬金創造した、お姉ちゃんが装備している、その魔導装備品にも問題箇所も見られないし」


 私の支援したその装備品は、各装備にそれぞれ能力UP効果がついてるし、耐衝撃防御性能も優れて、更に軽くなるように錬金してある、かなりの高額商品なんだからね。


 その装備品には、傷一つついてないから、装備品には特にこれといった問題はなさそうね。


「もしかして、実地ダンジョン訓練中に魔導ポ─ションを飲まなかった??」


 もう、わかってるんだから、契約書には違反したけど、魔術契約してないから、シフィお姉ちゃんなんともないでしょ。


 魔術契約取り交わしたら、契約を破った時点で記述したペナルティが破った方にいくから、凄く怖いんだよ。


 シフィ姉ちゃんは、一応家族なんだからそこまでする気はないよ。


 嫌、待てよ。私がそんな弱腰な態度だから、強気で攻めとけば、私がビビって折れると踏んで、煽ってきてるんじゃないのかな?


 だから、あんな攻撃的な態度をとるのかな?


 どうも、やっぱり、シフィ姉ちゃんには、あまあまだったらしい。


 次に契約更新するときは、魔術契約にしよっと。


「嫌....その─...」..ビクビクッ....


 私の映像の方に魔導銃を向けていたが、その魔導銃は、床に照準を合わせるように下がっていく。


「もし、契約違反したら、もうただで魔導ポ─ションを融通するとか...」


「他の支援で言えば、シフィ姉ちゃんのパ─ティ─メンバ─にもポ─ション支援してたけど...」


「その契約も全て打ち切り白紙にすることができる!!!」


 ..ビクビクッ..「くっ」..ビクビクッ..


 シフィ姉ちゃんの顔は、般若のお面が剥がれ落ち、屈辱に耐える顔になり、ギシギシと歯ぎしりが微かに聞こえてくる。


「そう、契約書取り交わしたのをもう忘れたのかな??」


 ソワソワ..アタフタッ.ガチャン...

 ビクッ「それは..ちょっと....」ビクビクッ...


 シフィ姉ちゃんは少し慌て、左手に持っていた魔導銃を壁に当ててしまい、内心では、かなり慌てているのか、その魔導獣を床に落としてしまう。


「あ─あ、折角お姉ちゃんの為を思って色々支援して来たのに...」


「私、お姉ちゃんに騙されて、いい様に利用されていたんだね(嘘泣)シクシク」


「悲しいよ─オロオロ─オロオロ─(嘘泣)」


 よし、そのまま、弱点を突け!!突き刺せ!!突き破れ!!


 ソワソワ...アタフタッ..ソワソワ...アタフタッ..


「「利用など、絶対にしない」」


「「する訳がない」」


「「そんな、卑怯な下劣な手段など、この私がすると本当に思っているのか」」


 シフィ姉ちゃんは、私が写っている映像に対して必死に、そして真面目に釈明していた。


「だって、お姉ちゃん私に隠し事してるでしょ」


 くっそ─、さっさと負けを認めなさいよ─お姉ちゃん!!


 ビクッ「「そっそれは..」」アタフタッ..


 一瞬、体の電池が切れたようにシフィ姉ちゃんが止まったが、直ぐに体の制御が壊れたように動き出す。


「あ─あ、はい、はい」


「わかりました─、わかしました─」


「それでは、契約書通りに..」


 シフィ姉ちゃんは、両手につかんでる魔導銃を指揮棒がわりにして、必死に指揮棒を振って間違いをただそうとする。


 更には、私の声に被せるように叫ぶように声を張り上げながら考えを押し通そうとしてきた。


「「待て──それは、いくらなんでも横暴おうぼうすぎるぞ─」」


 横暴はお姉ちゃんなんですけど─。


 暗殺者相手に交渉する人間なんてなかなかいないよ。


「そもそも、私を殺そうとする敵対者に施しを与えるのも、どうかと思うけど...」


「それに関しては、お姉ちゃんはどう思う??」


「「うっそれは......」」


 私から、回答を求められて、言葉がもつれて出てこないシフィ姉ちゃん。


 シフィ姉ちゃんは、馬鹿だから人に言われて、初めて自分が他人からどう思われているかを、気づけたのだろう。


 愕然がくぜんとなったシフィ姉ちゃんは、階段で思わず蹌踉よろめき、咄嗟とっさに側にあった手すりに捕まる。


「「わかった─。私も譲歩じょうほする」」


「「殺すのもしないし、殴るのもしない」


「ただ1度だけでいい、お前を投げさしてくれ!!」」


「「それで、どうだ─!!」」


 どうだ─じゃないよ─!!譲歩してそれかい!!


 無理よ─。どこからほおり投げるつもりよ─。


 崖の上からなんて無理だから──死んじゃうんだよ─。


 シフィ姉ちゃんは、どうしても、私を亡き者にしたいようね。


「はい、無理。交渉決裂ね」


「お姉ちゃん、もう次からは、施しは無しよ」


「それじゃ─シフィ姉ちゃんの夢」


「S級冒険者になれるように、せいぜい頑張ってね」


 私は、交渉を打ち切り、机を立ち上がって終わりを告げようとしたが.....


「まて....わかった─」


「今回だけ──今回だけ見逃してやる」


「その代わり、私に謝罪として何か見返りを寄越せ!!」


 やっと、シフィ姉ちゃんは好戦的な階段から降りてくれた。


「それで、チャラだ。どうだ!!」


 あ─、やっと長らくお待たせの交渉タイムに入ったよ。ふ─長かった─。


「いいわよ、乗った!!」


「丁度お姉ちゃん用に、最新式の冒険者装備一式準備できたけど、そのまま渡しちゃうと、私が完全な赤字になるから、お姉ちゃんの装備してる魔導装備一式と交換なんてどう!!」


「勿論、今まで装備していた物よりもランクは上げてあるよ」


 その、お姉ちゃんの汗の染み付いた魔導装備一式をご所望の王族がいるのよね。


 相場より10倍の値で売りつけても、気軽に即金で払ってくれる超お得意様。


 今度は、相場より15倍の値で売りつけてやる。


「よし、わかった」

「それと、魔導ポ─ションの無料補充は、どうなる?」


 シフィ姉ちゃんは、冒険者の顔になった。


 かなり真剣な表情をしてる。


 やっと本格的に交渉できる相手に昇格したよ。


「今まで通り、お姉ちゃんのパ─ティ─に無料で支給するよ」


「もう1つ、アヴィが望む素材の依頼納入時の報酬を10%UP」

「これを契約書に新たに追加しろ」


 ま─、これはほんのちょっと少し痛いよ。


 でも、お姉ちゃんのパ─ティ─メンバ─にもいずれ、私の作る試作装備品プロトモデルの性能を計測する為のテスタ─に使いたいから、先行投資としては、むしろ少ないくらいだよ。


「.....くっ....了解」

「その代わり、シフィ姉ちゃんのパ─ティ─の素材....」

「もっとこっちに回して」


 私は如何にも、悔しげな表情を浮かべて、少しでもシフィ姉ちゃんの溜飲をさげようとつまらない努力をしてみた。


「よし、わかった」


「それと、臨床試験用の新作魔導ポ─ションの試飲できる数を増やせ」


「パ─ティ─人数分を用意しろ」


 その私の姿を見て、ニヤリと笑みを浮かべて、更に搾り取ろうとしてくる、陰湿な私のお姉ちゃん。


「んじゃ─、お姉ちゃんが新作魔導ポ─ションを飲んだ実体験を余すところなく、全て報告してくれたら、その要望に答えてあげてもいいよ」


 この件に関しては、私もそう簡単に、引き下がれないのよね。


 ちゃんとした商品にならないと売り出せないから、私には、シフィ姉ちゃんの屈辱なんかどうでもいいのよ。


「すまん、それは私があの屈辱に耐えられないから無理だ」


「それにその話しをお前に喋ると、忽ち全校中に広まるから嫌だ」


 ブルンブルンと顔を横に振るシフィ姉ちゃん。


 彼女の中ではよっぽど嫌なで出来事だったのだろう。


 でも、そんなの私には全然関係ないんですけど。こっちにもこっちの事情があるのよ。


 それに、よっぽど変な噂だったら、貴女の王子様が必ず助けてくれるから、安心してもいいとおもうよ。


 だけどさ─、ほんとにかなりお堅い性格してるよね。


 シフィ姉ちゃん、カチンコチンだよ。


 もう少し柔らかくなろうよ。


 そこをなんとか解決できたら、いいのにな─。


 そうすれば、王子様との素敵な結婚生活が待っているのに勿体無いよね─。


 私も引けない所だから、言葉の弾丸を撒き散らして応戦しよう。


 なんなら、サラのカ─ドも切る予定だったから、ここでそのカ─ドを切ってやろう!!


「え─、そんな─、商品が売れるようにする為に、知りたいのよ」


「冒険中に不足の事態が起きたんだったら、いいじゃない」


「その不足の事態を解消、改善する為に、どうしても聞きたいんだけど、それでも、駄目なのかな?」


「なんなら、シフィ姉ちゃんが話したく無い内容は、ぼかしてもいいからさ」


「シフィ姉ちゃんの為に用意した、もふもふお宝を拝見させてあげてもいいのには─」


「なに、もふもふだと!!」


 シフィ姉ちゃんの目つきが変わった。


「そうよ、シフィ姉ちゃんが見たことない品種よ」


 ──さあ、サラ、貴女の出番がもうすぐくるから、身構えてなさいよ。


「くっ先に私にもふもふさせる権利を与え、私を満足させることが出来たら、話してやろう」


 シフィ姉ちゃんの顔がちょっと赤くなった。高揚して感じの顔にみえる。


 後は、自然体を装っているが、逆に変だよ。


 もしかして、サラをお持ち帰りしようとしてるかな?


 最初に考えた私の計画通りに勧めてみて様子をみようかな。


「わかったよ。それでいいよ」


「じゃ─これで、契約成立ね」


「あ─契約成立だ」


 2人は笑顔で微笑んだが、2人共に目が研ぎ澄まされていた。


 私は、ここから、よくシフィ姉ちゃんに逆転負けを何回も味わされたので、流石にわかるよ。


 シフィ姉ちゃんは、そんなに甘ちゃんじゃない。れっきとした冒険者にいつの間にかなってたよ。


 冒険者らしく言葉の約束なんてものは、幾らでも平気で破るクソ野郎になったのが、今回の件からも明らかになった。


 シフィ姉ちゃんは、本当に悪質なクレ─マ─だよ。


 シフィ姉ちゃんも一端の冒険者になって喜ぶべきことなんだろうか?


 どちらかと言うと私は、契約書を作成して契約魔術を使わないと、ちょっと安心できなくなったよ。


「じゃ─契約書作成するから、ちょっと待っててね」


「契約書なんて、面倒臭いもんは後回しでいいだろ」


 あ─やっぱり、まだ、何かを諦めてないよ。

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